行政

NICTなど 電波が直接届かない環境でもロボットを安定に制御する技術を開発

【2016年07月27日】

 内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ(田所諭プログラム・マネージャー)の一環として、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、坂内正夫理事長)及び国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研、中鉢良治理事長)のグループは、制御用の電波が直接届かない場所(見通し外)にあるロボットを他のロボットを経由して遠隔制御し、かつその状態を監視する技術を開発した。実験では、見通し外にある小型四輪ロボットに対し、上空のドローンを経由してコントロールすることを実証した。この技術は、ロボット間による中継経路がその移動により頻繁に切り替わる際でも通信を切断させないことを可能とする手法を採用しており、世界でもまだ実現した例がない。これまでの技術では、中継経路が切り替わるたびに通信が切断され、ロボットがその間、操縦不能になるという問題があった。この技術によって、通常は制御不能になる見通し外を動き回るロボットに対しても、他のロボットが協力して周囲の環境に適応しながら安定に制御通信回線を確保することができ、電波が伝わりにくい環境に対してタフなロボットシステムの実現に貢献できる。
 この成果は、次の事業・研究プロジェクトによって得られた。
 ▽内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
 ▽プログラム・マネージャー:田所諭▽研究開発プログラム:タフ・ロボティクス・チャレンジ
 ▽研究開発課題:タフ・ロボティクスのためのタフ・ワイヤレス技術の研究開発
 ▽研究開発責任者:三浦 龍(国立研究開発法人情報通信研究機構)
 ▽研究期間:平成27年度~平成28年度。
 同研究開発課題では、電波の伝わりにくい環境下においても切れにくいタフなロボット制御用無線通信技術の研究開発に取り組んでいる。
 広い範囲にわたって移動しながら活動するロボットを操縦者が遠隔制御するためには、多くの場合、電波による無線通信が用いられる。しかし、ロボットが厚い壁、建物、樹木、あるいは山などの障害物の反対側(見通し外)に回り込んだ場合、電波は遮られて通信が切れ、ロボットの遠隔制御ができなくなる。またその場合、ロボット側から送られてくる位置や姿勢などのデータも届かなくなる。  この問題の対策として、これまでも他のロボットを経由して目的のロボットを制御するアドホック・マルチホップ通信の技術はあるが、その多くは、主にインターネット用として設計された無線LANの技術をそのまま流用していたため、制御には適しておらず、複数のロボットを経由し、その通信経路が周囲の環境の変化に応じて切り替わった場合に通信が一度切れてしまい、その間、制御が停止するという問題があった。人が入ることができないような災害現場を考えると、遠隔制御が出来なくなることや、通信が途切れることはロボットの活動に深刻な影響を与える可能性がある。
 また、これまでの多くのロボットは、制御用の電波として無線局免許が不要でデバイスの価格も安い2.4GHz帯が使用されているが、この周波数帯は、パーソナルコンピュータやスマートフォンに標準搭載されている無線LANだけでなく電子レンジ等にも使われており、混信を受けるリスクがあるとともに、障害物による遮へいや減衰を受けやすいという課題があった。
 同研究では、障害物によって電波が遮られる見通し外に遠隔制御対象となるロボットが置かれた場合でも、ネットワークを構成する他のロボットを経由して対象とするロボットの遠隔制御やその状態監視(テレメトリ)を行う新たな通信方式に関する技術を開発した。
 同技術を用いることで、操縦者とロボットが見通し外の位置関係であっても、無線が同時に複数局に対して送信する性質を活用して、制御データ及びテレメトリデータを、中継局を経由する複数の通信経路によって冗長性を持たせて伝送することで、ロボットを途切れなく遠隔制御することを可能にした。
 同技術を実現できたポイントは、無線LAN等の既存の通信方式を根本から見直し、〝ロボットの制御用〟であることに特化し、〝中継伝送すること〟を前提として、応答遅延時間が小さく、かつ、通信信号同士が互いに干渉しないことを両立させた新たな通信手順(アクセス制御プロトコル)を設計・開発したことによる。具体的には、制御局―中継局間、中継局―中継局間、あるいは中継局―ロボット局間などの各経路に対し、通信信号をやりとりする時間のタイミングをあらかじめ割り振る「時分割多元接続」方式をロボット制御用として採用することで、データ伝送における時間スロットを効率的に使用できるとともに、無線LAN等のように端末間の自由競争によるアクセス制御プロトコルと異なり通信路を確保するために応答遅延時間を一定に保つことができ、途中の中継局を経由してもロボットが受信する制御データの"鮮度"を一定に保つことが可能になる。
 また、従来の通信方式では主に端末の位置が固定、あるいはあまり頻繁には動かない場合を前提としており、時間がかかっても必要なデータを全て送るために、通信開始前に中継経路の探索や設定などが行われている。同技術ではこの手順をなくし、移動する端末を対象とした制御用として単純化した。具体的には、異なる経路を経由して受信される信号を上記の時分割多元接続方式を用いて常にすべて受信し、受信側にてどちらか強い信号だけを受け取るという手法をロボット制御用の中継方式として初めて採用した。これらの技術により、これまで条件によって数十ミリ秒~数百ミリ秒まで変動していた中継局経由の応答遅延時間を、今回の開発装置では制御データの送信周期である50ミリ秒以内に抑え、制御の不安定化の回避を可能にするとともに、中継経路がロボットの移動によって変更された時に発生する通信の切断をなくすことを実現した。
 また、今回NICTと産総研は、同技術を検証するため、試作装置を用いた屋外におけるフィールド実証実験を実施し、操縦者から見て見通し外にある小型四輪ロボットの安定な遠隔制御及びそのテレメトリ信号受信の実証に成功。中継装置は、ドローン(マルチロータ型無人航空機)に搭載し、上空高度約20㍍~30㍍でホバリングさせ、これを経由して小型四輪ロボットへの無線通信回線を構成。ドローンを経由して他のロボットを制御し、かつ中継経路が途中で切り替わっても通信を切断させない技術は、世界でもまだ実現した例がない。
 今回実施した実証実験では、地上の小型四輪ロボットを制御対象としたが、今後は、制御対象を飛行するドローンに拡張する予定。また、無線による通信の信頼性をより高めるため、920MHz帯に加えて、緊急時のバックアップ用として、チャネル数は限られるものの、さらに遠くに電波を飛ばすことができるVHF帯(300MHz以下)を追加した無線装置に拡張する予定。
 開発した技術は今後、電波が伝わりにくい建物内やその近傍などでの災害時のロボットによる調査だけでなく、山間部でのドローンの低高度飛行によるモニタリング調査や物資の配送などへの応用、さらには複数のロボットやドローンが自律的にお互いに協調し合いながら高い信頼性を持つ無線ネットワークを構成するシステムの実現の基盤になることが期待される。

行政一覧へ  トップページへ