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平成28年・日本民間放送連盟賞技術部門「最優秀賞」 「完全防水ハンドマイクの開発」 東海テレビ放送

【2016年11月09日】

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▲ 東海テレビ放送 技術局映像制作センター
  神辺康弘氏
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元々が水中マイクなので水没させても大丈夫。
足元のぬかるんだ災害場所でマイクを落として
も丸洗いが可能なのですぐに取材が続行できる

 東海テレビ放送は「完全防水ハンドマイク」の開発により、最優秀賞を受賞した。同マイクは、完全防水機能を持ったハンドマイクで、現在、台風中継・大雨取材のほか、温泉やプールでの取材、スポーツにおける祝勝会でのビールかけ、バラエティ番組、情報カメラ用のノイズマイクなど、多方面の放送現場で活用されている。今回は「水濡れが懸念されるあらゆる局面において、安全・確実な音声伝送が可能となり、番組制作の高度化と中継・取材の利便性向上に大きく貢献した」として、その功績が高く評価された。
 《開発の背景》
 東海テレビ放送のエリア内には、降雨量日本一の三重県尾鷲市、太平洋に面した愛知県の伊良湖岬などがあり、日本に台風が接近するたび、屋外で台風中継や大雨取材が行われてきた。暴風雨の中、技術スタッフは機材が雨に濡れないよう、細心の注意を払いながら中継やENG取材に取り組んできた。現状、放送局が使用するマイクに“防滴タイプ”はあるが、防水ではないため、中継が長くなるうちに雨水を浴び続け、音がこもり始め、聞き取りにくい音質になってしまっていた。防滴マイクを持っていない時は、普段使っているハンドマイクにビニール袋をかぶせて使用することもあったが、音質も悪く、見栄えも良くなかった。
 本マイクの開発に携わった東海テレビ放送・技術局映像制作センターの神辺康弘氏は「完全防水のマイクがあれば絶対に便利だと思っていたが、これまで存在しなかった。放送機器を扱うメーカーに問い合わせたが防水の製品がなかった。そこで完全防水のハンドマイクが開発できないか、検討することにした」と開発動機を語る。
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 《開発までの道のり》
 開発にあたり、マイクに必要な仕様として、(1)完全な防水であること(2)放送に耐えうる音質であること(3)普段の中継や取材、会見などにも対応できる使い勝手の良いものであること(4)特殊な仕様や複雑な製作工程を避ける(5)低コストであることの5項目が挙げられた。続いて、水中用の特殊音響機器を得意とするウエタックス社に開発の協力をあおぎ、実現への道筋を作った。ウエタックス社は、スキューバダイビング用の水中通話装置や水中マイク、水中スピーカー、水中アンプなどを得意とし、シンクロナイズドスイミング用プールや水族館、警察・消防のレスキュー隊などへ製品を納入している。“防水”を知りつくした会社ではあるが、放送用のマイクは手掛けたことがなく、カタログに載っている水中マイクも海中工事や水族館のプールに沈めて使う物で、そのまま放送では使えなかった。
 そこで、ウエタックス社の完全防水マイクの一つを放送現場で使えるようにするために改造することになった。その際、(1)ファンタム電源を48Vへ変更(2)軽量化(3)ハンドマイクらしく持ちやすい形状に変更(4)高音域成分を膨らませ低音域を絞る音質の改善の4点が目標に挙げられた。
 改造のポイントは、マイクの心臓部であるマイクユニット。このメーカーが特許を持つ水中用のマイクカプセルは、水に濡れても振動する特殊な振動板が使われ、その素材や厚さ、マイクカプセルへの取り付け方法など構造を変更、さらにそれらの加工精度にも気を配るなどの試作・改良が半年間続いた。
 そしてようやく開発の条件に沿ったマイクが完成した。マイクの仕様については、正面感度がマイナス62dB、周波数特性が80Hz~15kHz、出力インピーダンスが600Ω(バランス型)となっている。周波数特性は通常のハンドマイクSHURE「SM63L」と比べても遜色なく、十分放送用途で使用できるレベルだという。指向性はインタビューマイクとして使いやすい無指向性を採用した。
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 神辺氏は「当初、真剣に検討してくれるメーカーを探すのに大変苦労しました。商品化できるのか? 何本売れる? 元が取れるか分からない物に耳を傾けてくれるメーカーはなかなかありません。また、音質の改善にも苦労しました。水中と空気中では音(音波)の伝搬速度や伝搬特性が異なり、“空気中用”に改良するのに何度もメーカーとやり取りを重ね、自分の耳で確認し、改良を重ねました」と苦難の日々を振り返る。
 完全防水ハンドマイクは、台風中継や大雨取材等では必ず使用されており、プロ野球やサッカーなどの優勝祝賀パーティーといったレポーターが水をかぶる中継で活躍している。技術スタッフにも好評で「台風中継が楽になった」「取材中、マイクをアナウンサーに任せておける」「音声トラブルが減った」という声があがっているという。
 最優秀賞の受賞について神辺氏は「正直、びっくりしています。何百万、何千万円する機材ではありませんが、少人数で台風中継や大雨取材を行うローカル局にとってはスタッフの安全の確保と機材故障の回避を最優先に業務を行います。私も現場を経験した中で暴風雨の中での機材の管理には大変苦労しました。中でもマイクは使用中は必ず濡れます。これが防水になれば…と常に感じていました。今回、最優秀を受賞できたのは、多くの方々が同じことを思っていたのだと感じました。この完全防水ハンドマイクに多くの方々が共感していただき本当にうれしく思います」と喜びを語る。さらに今後の展開としては「音質や感度の向上を進めると同時に、『ピンマイク化』と『ダイナミックマイク化』の開発を優先して進めたいと思っています。共に試作品はできあがりましたが、まだまだ改良が必要なレベルです。特に『ダイナミックマイク化』は現在の『エレクトレット型』の発展型ではなく、新規開発になるのでハードルは高いですが、電源が必要ないなど、使用範囲が格段に広がるので、ぜひ実現したいと思います」と話している。

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