情報・通信

世界初の高速・大容量秘匿光通信システム 東北大など

【2016年09月28日】

 インターネット、携帯電話、光通信などのICT技術の発展とともに、高速・大容量な通信システムがグローバルに運用されている。そのような中で情報量はますます増え、やり取りする情報の安全性を確保することが極めて重要になってきている。
 東北大学電気通信研究所の中沢正隆教授と学習院大学の平野琢也教授のグループは、QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)と呼ばれるコヒーレントな多値信号を量子雑音の中に隠すQAM量子雑音暗号伝送技術(QAM/QNSC:QAM/Quantum NoiseStream Cipher)と、単一フォトンに近い極めて微弱なレーザー光で暗号の生成と解読のための鍵を安全に配信する量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution)技術を組み合わせることで、極めて安全でかつ高速・大容量な秘匿光通信システムを世界で初めて実現したと発表した。
 量子暗号伝送において世界最速の単一チャンネル70Gbit/sのデータ速度で100kmの伝送に成功し、その有用性を実証した。周波数利用効率も10・3bit/s/Hzと極めて高いものという。
 これまでに多種類のQKD方式が報告されているが、中でも単一光子に近い微弱なレーザー光に4値の位相変調を与えて鍵情報を送信し、受信側で強い強度の局発光を用いて量子雑音限界のホモダイン検波を行う4値QKD方式は、光通信用の一般的な素子を用いることができる実用性の高い方式。しかしながら、このQKDと使い捨て鍵暗号を用いた量子暗号方式は大変強力なものである一方で、元の通信文と同じ長さの使い捨ての共通鍵を受信者に配送する必要があり、このため量子暗号の速度は鍵配送の速度(数100kbit/s)で制限されてしまう欠点があった。
 これに対し、東北大学では光信号の位相および振幅を同時に多値で変調するQAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式のデータを量子雑音の中に埋もれさせて暗号化する量子雑音暗号(QNSC:Quantum Noise Stream Cipher)伝送方式を2013年に提案した。この方式は送信者はあらかじめ用意した共通鍵により生成した擬似乱数を用いて光信号の位相と振幅の両方を多値変調する。そして、そのデータ信号を光の量子揺らぎの中に埋め込むことにより、盗聴者がデータを正確に受信できなくしている。一方、正規受信者は共通鍵を保有しているため数学的な処理を施すことにより誤りなく情報を受信でできる。伝送時にはQAM変調の多値度を大きくして信号間の位相差および振幅差を小さくすることにより、通信システムの量子雑音がそれらより極めて大きくなるように設定してデータを雑音に埋もれさせ、極めて高い安全性を実現している。  その一例として16QAMデータを暗号化する様子であるが、送信者は送りたいデータおよび鍵をシンボルごとに2つのブロックに分け、片側をIチャネル、もう片側をQチャネルに割り当てる。そしてIとQを90度位相をずらして足し合わせ、QAM信号を生成。この信号にレーザーや光増幅器からの量子雑音が付加されると、信号がI、Q両方向、即ち2次元的に乱される。正規受信者はI、Q両方の鍵をあらかじめ持っているので、信号処理によりI、Qそれぞれを正しく受信しデータを完全に復元できる。しかし、盗聴者は鍵を持っていないためデータを復元できない。
 QAM型QNSC方式では、データ信号として2NQAMを用いることで、1つの信号でNビットの情報を送ることができる利点がある。従って、多値度を増やすことによって周波数の利用効率が大幅に拡大し、伝送容量を大幅に増大できる。このためQAM方式は今日のデジタルコヒーレント通信の主流となっている。これまでに同大学はQNSC方式により10~40Gbit/sのデータ速度で480kmの伝送を実現している。QNSC方式は共通鍵を送受信者間であらかじめ共有する方式だ。しかし、この鍵を最初から共有するとその管理も含め盗難などの問題がないわけではない。そこで今回、QAM/QNSC方式においてこの共通鍵のみをQKD方式でオンライン伝送することにより絶対に盗聴されない安全な鍵をある時間に持ち合うことで、安全性を飛躍的に向上させる方式を考案した。
 具体的には、今まで東北大学中沢研究室で開発してきたQAM型QNSC方式と、学習院大学平野研究室で開発してきた4値QKD方式を組み合わせることにより、高速・大容量かつ極めて安全な秘匿光通信システムを世界で初めて実現した。そして、共通鍵を1秒ごとに更新しながら単一チャンネル70Gbit/sの高速暗号データを100km伝送することに成功した。今回開発した秘匿光通信システムの特徴は、既存の光通信システムを利用していること。
 19インチラックサイズの可搬なQAM型QNSC装置および4値QKD装置を開発し、それらを組み合わせて伝送速度70Gbit/s、伝送距離100kmの秘匿光通信システムを構築した。このシステムは市販の一般的な光通信用デバイスを用いているため、既存の光通信システムと同等に取り扱える。

情報・通信一覧へ  トップページへ