村上誠一郎総務大臣インタビュー

 岸田文雄内閣の退陣に伴い2024年10月に石破茂新内閣が発足した。国内の情報通信や放送分野を巡っては、1月1日に発生した能登半島地震での通信・放送インフラの復興や強靭化に向けた課題をはじめ、Beyond5Gの推進や生成AIをはじめとした最新技術の活用などにも期待が寄せられている。総務大臣として就任した村上誠一郎氏に取り組みについて聞いた。
 ―石破内閣は地方創生・日本創生を政策の柱の一つにしています。地方創生において、通信・放送・郵政分野の全国に張り巡らされた各ネットワークは地方創生を下支えする重要なインフラでもあります。通信・放送・郵政分野において、地方創生をより前進させるための施策をお聞かせください
 地方創生については、石破内閣の最重要政策の一つであり、総務省としても、デジタル技術の活用やそれを支えるインフラ整備をはじめとする、持続可能な地域社会の実現に取り組んでまいります。
 具体的には、通信分野では、地域社会のDXによる持続可能な地域社会の実現に向け、光ファイバ・5G等の通信インフラの整備を推進するとともに、AI等のデジタル技術を活用した地域課題解決のための自治体や民間の取組を支援し、地方創生の好事例創出やその横展開等に取り組みます。
 放送分野では、我が国の放送番組の海外展開を製作支援などによって強力に推進することとしており、我が国の地方の魅力を発信する放送番組が多くの海外視聴者に届くよう、事業者の取組を後押ししてまいります。
 郵政分野では、自立的な地域経済の維持が困難な地域でも、住民が必要な公的・生活サービスを今後とも受けられるよう、地域の実情やニーズに応じて、郵便局において一元的なサービス提供を図る「コミュニティ・ハブ」としての郵便局の利活用を進めてまいります。
 石破内閣の最重要政策の実現に向けて、情報通信及び郵政事業を所管する総務省が果たすべき役割は非常に大きく、関係省庁等とも連携しながら、様々な政策を総動員してまいります。
 ―デジタルインフラの整備の加速化について、5Gの都市・地方での一体的整備や、地方における光ファイバの整備と維持、データセンターの地方分散、光海底ケーブルの整備などの具体的な推進策への取り組みについてお聞かせください
 新しい地方経済・生活環境の創生に向けて、光ファイバや5Gなどのデジタルインフラの早期整備は必要不可欠であり、総務省では、こうした考えの下、デジタルインフラの整備等に関する取組を一層強化するとともに、地域課題解決に資する取組を推進することとしています。
 具体的には、各施策について次の通り取り組みます。
 ○光ファイバについて、未整備地域の解消に向けて条件不利地域 における整備の支援拡充を図るとともに、維持管理への対応として公設設備の民設移行を一層推進します。
 ○ワイヤレス・IoTインフラ(5G等)について、一つは、災害発生時の復旧・復興支援メニューの創設や老朽化した基地局更新の支援等を通じて条件不利地域における整備・維持を一層推進、もう一つは、AI等のデジタル技術を活用した地域課題の解決を支援するためのインフラ整備を支援します。
 ○データセンター/海底ケーブル等について、国土の強靱化や電力 の安定供給・脱炭素社会の実現、地方創生の観点から、地域分散を強力に推進します。
 ○非地上系ネットワークについて、高高度プラットフォームの実 用化や衛星通信システムの高度化を促進するため、研究開発を実施するとともに、早期の国内展開の実現に向けて、実証実験や制度整備などを推進します。
 ○2030年代のAI社会を支える次世代情報通信基盤であるBeyond5Gについて、早期の社会実装・海外展開に向け、オール光ネットワーク等の研究開発等を強力に推進します。
 総務省としては、こうした取組を通じて、自治体や通信事業者等で構成される「地域協議会」等において地域の声を丁寧にお伺いしながら、国民の誰もがデジタル化の恩恵を実感できる社会の実現に向け、デジタルインフラの整備を着実に推進してまいります。
 ―能登半島地震に絡み、通信・放送インフラの強靭化や国民の安全・安心の確保に向けた具体的な取り組みについてお聞かせください
 昨年1月の能登半島地震及び9月の奥能登豪雨により、亡くなられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、被災された方々に対し衷心よりお見舞い申し上げます。
 さて、通信・放送は、電気・ガス・水道に並ぶ国民生活にとって欠かせないライフラインであり、能登半島地震では、停電や光ファイバの断絶等により、携帯電話基地局の稼働停止やケーブルテレビ・地上波放送の停波が発生しました。こうした自然災害の教訓を踏まえ、通信・放送インフラの更なる強靱化や早期復旧に向けた官民連携の体制強化が重要です。
 総務省としても、災害時に信頼できる情報を国民に届けることができるよう、事業者が行う通信・放送インフラの強靱化の取組に対する財政的支援や、関係者間の連携体制強化を通じた緊急対応力の強化を進めてまいります。
 具体的には、まず、放送については、地上波中継局の送信所設備等の災害復旧や局舎・鉄塔の耐震対策等による耐災害性強化、ケーブルテレビ網の災害復旧やケーブルテレビの回線の光ファイバへの切替・2ルート化等による耐災害性強化を支援してまいります。
 通信については、携帯電話基地局の強靱化や移動基地局等の拡充による復旧体制の強化、事業者間ローミングの導入、被災地における通信確保と被災状況把握に官民連携で対応する体制の計画的な整備に取り組んでまいります。
 また、災害情報を共有するLアラートの信頼性向上、他システムとの連携強化に向けて取り組みます。
 これらの取組を通じて、国民・住民の安全・安心な暮らしを守ってまいります。
 ―総務省ではBeyond5G推進戦略2・0を8月末に取りまとめ、日本企業が取り組む研究開発プロジェクトの支援に向けた戦略と今後のロードマップを示されました。重点とした、①オール光ネットワーク(APN)分野、②非地上系ネットワーク(NTN)分野、③無線アクセスネットワーク(RAN)分野について、当面どのような支援をされていくのか、上記3分野以外の取り組みも含めて、具体的な方策をお聞かせください
 昨年8月末に発表した戦略では、2030年代のAI社会を支えるデジタルインフラとして、低遅延・高信頼・低消費電力な次世代情報通信基盤を実現するため、ご指摘の3分野を戦略分野として位置付け、集中的な取組を進めることとしています。
 まず、民間企業等が実施する研究開発等について、情報通信研究開発基金や宇宙戦略基金も活用して、国として積極的な支援を行っていくとともに、その成果の海外展開についても、現地での実証事業に対する支援等を通じ、強力に後押ししていきます。
 これに加え、先ほどのお答えと一部重複しますが、オール光ネットワーク分野については、社会実装を後押しするために、開発成果を早期に検証できる環境を今後構築していく予定であり、2030年頃の本格導入を目指し、ユーザーも含む多様な関係者を巻き込みながら取組を進めてまいります。
 非地上系ネットワーク分野については、高高度プラットフォームの2026年の国内導入や、携帯電話から衛星通信の利用を可能とする衛星ダイレクト通信等の早期導入に向け、制度整備をはじめ必要な取組を行っていきます。
 また、無線アクセスネットワーク分野については、5Gの普及・活用の促進、トラヒック需要の拡大に対応した周波数確保等を進めていきます。
 このほか、共通的な取組として、スタートアップ支援、国際標準化活動を担う人材の育成や国際連携等にも併せて取り組んでいきます。
 以上の取組を進め、2030年代のAI社会を支える次世代情報通信基盤を早期に実現するとともに、グローバルな市場の獲得に繋げてまいります。
 ―生成AIの開発力の強化や量子通信分野における研究開発を加速するための総務省の政策をお話しください
 生成AIはインターネットにも匹敵する技術革新といわれています。ビジネスや私たちの生活に大きな変革をもたらして、新たな社会基盤となり得る技術です。我が国としても、国内における研究開発力を確保することが必要です。
 そのため、総務省では、我が国のAIの研究開発力を強化すべく、AIの開発に重要な質の高い日本語データを整備・拡充し、適切な形で提供する取組を行っています。
 今後もこの取組をさらに強化し、国内の生成AIの開発力強化に貢献してまいります。
 量子通信について、量子コンピュータの開発の進展に伴い、既存の暗号が破られるリスクが高まっています。このため、盗聴を確実に検知できる量子暗号通信技術の導入が喫緊の課題となっています。
 世界各国においても、量子暗号通信の導入に向けた研究開発やテストベッドにおける実証が本格化しています。
 総務省では、これまで産学官連携の下、量子暗号通信技術の研究開発に取り組むとともに、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)に構築した通信網において実証を行い、通信距離・速度について世界トップレベルの技術を達成しています。
 引き続き、量子暗号通信網の早期社会実装に向けた研究開発を推進し、我が国の国際競争力の強化にも貢献してまいります。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。