地域IoT実装推進セミナーin長野 信越総通局
総務省信越総合通信局(清水智之局長)は、信越情報通信懇談会(会長・不破泰信州大学総合情報センター長・教授)との共催により、1月19日にJA長野県ビル(長野県長野市大字南長野北石堂町1177の3)で、防災分野におけるIoT実装のセミナー及び勉強会を開催した。後援は長野県、長野市。セミナーでは、長野県の自治体において最も関心が高い「防災分野におけるIoT活用」(全自治体へのアンケート調査による)について、基調講演及び先進事例の紹介を行った。80名がセミナーに参加した。 開会挨拶を信越総合通信局の鈴木厚志情報通信部長が行った。「総務省では少子高齢化が進展する中、IoT、ICTを利活用して地域のさまざまな課題を解決していこうということで取り組みを進めている。とりわけ農業や防災といった生活に身近な分野については、地方における人手不足の対応や、安心で安全な暮らしの確保という観点から非常に関心の高い分野となっている。この関心ということで実例を申し上げれば、昨年8月に信越管内の全自治体にIoTの実装のアンケートをとらせてもらった。その結果、長野県の自治体においては最も関心の高い分野が『防災』であったという結果だった。本日のセミナー・勉強会の開催はこうしたアンケートの調査を踏まえて実施されるものだ。また災害というと一昨日の1月17日は阪神・淡路大震災から23年目を迎えた。それ以降も多くの震災・災害があったが、これらの経験を通じて、防災・減災への対応が少しずつ強化されたきたものと認識をしている。いずれにしても、今後も災害はいつ発生するか予測はできない。引き続き、災害に強いそして有効なICT利活用の環境整備を促進するとともに、防災・減災への意識を一層高めていくことが重要と考えているので、今後とも皆さまのご協力をお願い申し上げます」と挨拶した。 セミナーで基調講演した干川剛史・大妻女子大学大学院人間文化研究科・人間関係学部教授は「災害時におけるICT活用のあり方―阪神・淡路大震災(1995年)から九州北部豪雨水害(2017年)まで―」と題して講演を行った。干川氏は災害時におけるICT活用事例及び災害時のICT活用の諸主体・時間的段階区分・必須要素で講演した。干川氏は「災害時におけるICT活用事例で阪神・淡路大震災では、パソコン通信やインターネットを活用した被災地からの情報発信や被災地内外での『情報ボランティア』による情報支援活動が試みられた。その様子が、マスメディアによって『パソコン通信とインターネットが震災で活躍』と報道された。それで災害時にはインターネットなどが非常に役に立つと知られて、行政も含めてさまざまな災害対応にICT活用が注目された。インターネット及びパソコン通信はほんとうに役立ったかの検証では情報提供・収集手段や交流の場、記録として役立ったが、電気や電話回線の不通、ネットワーク上の情報の信憑性など役立たないところもあった」と述べた。続いて、兵庫ニューメディア推進協議会がまとめた『情報の空白を埋める―災害時における情報通信のあり方報告書―」(1996年)について述べた。ここでの要点は①情報団②コミュニティ情報拠点③共同デスク④安否情報システム⑤震災映像のデジタル・アーカイブ。ここでの提案実現の事例として「情報団は、通常は地域の情報発信などを行うが、災害時は行政の災害本部に情報を届けたり、被災地に情報を届けるいわば消防団の情報版である。コミュニティ情報拠点では、東日本大震災後に総務省が、公衆無線LANの整備やネットワークの強靭化を推進し①地域公共ネットワーク等整備事業②防災情報ステーション等整備事業―からなる『地域ICT強靭化偉業』に取り組んでいる」と説明した。さらに安否情報システムでは民間による「災害用伝言ダイヤル」「災害用ブロードバンド伝言板(web171)などを提示。平成24年10月から「J―anpi安否情報まとめて検索」の運用を始めたと紹介した。続いて、関東総合通信局の「地域防災コミュニケーション支援システム」の開発・構築・実地試験」を紹介。「いちばん役に立ったのが地図情報システムだった」という。 講演は次の「災害時のICT活用の諸主体・時間的段階区分・必須要素」に移って、東日本大震災における通信状況(岩手)において、通信メディアが役に立ったかどうか考察。「いちばん役に立ったのがラジオ。衛星電話もそうだ。インターネット衛星通信と無線LANを組み合わせて電源を確保すれば確実につながるシステムを作ることができるのではないか」と述べた。 災害対応におけるICT活用の必須要素は次の6点とした。①情報通信回線・機器②アプリケーション・システム③情報資源(コンテンツ・リソース)④社会関係資本(協力的相互信頼関係)⑤保守管理・運営体制の構築と人材確保・育成⑥「PDCAサイクル」。それぞれ詳細を説明した。そして災害直後から復旧期に有効な情報通信手段として▽Never Die Network(NDN)▽Delay Tolerant Network(DTN)ベースとしたスマートフォン・タブレット端末▽モバイルクラウドコンピューティング▽ドローン・バルーン―を挙げた。 事例紹介で「G空間に関する北九州市の取組み」と題して、中村彰雄・福岡県北九州市総務局情報政策部情報政策課課長が講演した。中村氏は▽全庁GISの整備と運用②平成26年度総務省実証事業「G空間シティ構築事業」▽平成27年度総務省実証事業「G空間防災システムとLアラートの連携推進事業」―で講演した。北九州市全庁GISのビジョンは次の4点。①業務効率化・高度化指向の全庁的な地理空間情報の共有と活用②福岡県北東部地域(北九州地域圏)の自治体の共同運用・利用型GIS③庁内で「使われるGIS」(マニア向けGISからの脱却)④危機に強いまちを作るための地理空間情報の整備。全庁GISは平成25年10月に稼動開始。「庁内GISワーキングでは、持続的な活用のために、GISに関係があり、かつやる気のある所属・メンバーのみを選抜した。地域GIO制度・会議を導入し、GIS広域勉強会の運営や自治体間でのGIS技術の研修会を開いた。GIS広域勉強会では横展開を進めた。自治体間の共同利用、航空写真の共同撮影などを実施した」と述べた。そして、北九州市の地域情報ポータルサイト「G―motty」を紹介した。ここでは『平常時から使っていないものは、災害時には使えない』。平常時から災害時の連続性を考慮したという。最後に自治体におけるG空間・GISを推進するために▽最新のICT技術を持った情報システムを導入するだけでは、G空間・GISは広まらない▽組織・体制、業務フローの標準化の確立、人材育成などの要素が不可欠▽GISの利活用による成果を庁内に分かりやすく見せることで、やる気になった原課の相談を受け、速やかな実現を支援―と述べた。 事例紹介で「センサーネットワークを活用した土砂災害防止対策」と題して、小澤光興・長野県塩尻市企画政策部情報政策課課長が講演した。まず、同市の『住民を守る新しい防災・減災システム』を紹介。「これは、高耐災害性を持つ通信インフラ+センサーネットワークを利用した安全・安心な街づくりへの取り組みである」と述べた。そしてSCOPE支援を受けた研究による「大規模災害が発生した時も生き残る情報通信インフラの開発」「平常時も利用される有益なアプリケーションの開発」「被害状況をリアルタイムに把握するセンサネットワークの開発」「野生鳥獣センシングシステムの開発」などを紹介。土砂災害危険度センサー、土砂災害危険度測定システムを開発したという。土中水分量の計測などで測定するという。小澤氏は「センサーネットワークを活用した土砂災害防止対策とは『ICTの活用による予防予見データの収集と解析』である。従来の監視は、土砂災害が発生したことを何らかのセンサーを用いて確認し、通知を行う。センサーネットワークを利用した監視は、平常時のセンサー設置箇所の状況を収集し、被害が発生する可能性についてデータにより正確に把握する。災害が発生する前に、避難などを含めた判断材料となる。災害収束状況について、データによる判断が可能となる」とまとめた。 セミナー終了後、自治体及び信越情報通信懇談会会員を対象とした勉強会を開催。講師らとともに、IoT実装に向けた課題や方策の意見交換を行った。講師による防災分野におけるIoT実装の相談対応、参加者間の意見交換、自治体と企業・団体とのマッチングを実施。企業・団体のポスター、パンフレット、機器の展示も行った。
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