金子総務大臣 新春インタビュー
総務省は、行政運営の改善、地方行財政、選挙、消防防災、情報通信、郵政行政など、国家の基本的仕組みに関わる諸制度、国民の経済・社会活動を支える基本的システムを所管し、国民生活の基盤に関わる行政機能を担う省である。金子恭之総務大臣(60歳)は、令和3年10月4日に発足した第1次岸田文雄内閣で初入閣し、同年11月の第2次岸田内閣で引き続き総務大臣として様々な取組を推進している。金子大臣は総務省テレコム記者会の取材に応じて2021年の回顧と2022年の展望を語った。 ――政府はデジタル技術の活用により地域の個性を生かしながら地方を活性化し、持続可能な社会を実現する「デジタル田園都市国家構想」を掲げています。その実現に向け総務省が注力するデジタル化の取組をお聞かせ下さい。 大臣 人口減少や少子・高齢化などの課題に直面している地方こそ、様々な分野でデジタル技術を活用するニーズがあります。地方からいち早くデジタルの実装を進め、これらの地域課題を解決し、地方と都市の差を縮めることを通じて地方を活性化する「デジタル田園都市国家構想」の実現は、岸田内閣の最重要政策の一つであり、総務省としても、大きな役割を果たしていくべきと考えています。総務省としては、同構想を強力に推進するべく、11月に、私を本部長とする「総務省デジタル田園都市国家構想推進本部」を立ち上げるとともに、今年度補正予算案においては、同構想を実現するための主な施策として、条件不利地域における5G等の携帯電話等エリア整備事業、課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証、データセンター、海底ケーブル等の地方分散によるデジタルインフラの強靭化事業などを盛り込んだところです。「地方の繁栄なくして国の繁栄なし」の考えの下、デジタルの実装で都市と地方とが物理的な距離を乗り越えてつながることにより、活力ある地域づくりが実現するよう、引き続き全力で取り組んでまいります。 ――また、同構想では「誰一人取り残さない社会の実現」を掲げており、高齢者や被災者等へのデジタル活用支援を行うとされていますが、全国津々浦々に拠点を持つ郵便局が協力できることはあるかお聞かせ下さい。 大臣 総務省では、国民の誰もがデジタル社会の恩恵を受けることができるよう、デジタル活用に不安のある高齢者等の解消に向けて、今年度から、民間企業や地方公共団体等と連携し、オンラインによる行政手続などのスマートフォンの使い方について助言・相談等を実施する「デジタル活用支援」を講習会という形で全国的に展開しています。さらに来年度は、地域等の実情を踏まえた多様なニーズに対応するため、携帯ショップのように助言・相談を受ける場所が身近にない地域に対して講師派遣を行う予定であり、郵便局についてもご協力いただくことを期待しています。 ――5GやBeyond 5G推進戦略について、ポストコロナを見据えた日本の産業競争力向上に資する技術戦略、研究開発の推進に向けどのような取組を講じていくかお聞かせ下さい。 大臣 ポストコロナを見据えた産業競争力を強化していく観点からは、社会のデジタル化を支える5GやBeyond 5Gをはじめとする情報通信分野の研究開発が極めて重要と考えています。特にBeyond 5Gは、2030年代の社会や産業の基盤となっていくものであることから、総務省では、昨年度に300億円の基金を造成して企業や大学の研究開発を後押しするとともに、今年度補正予算案や来年度予算要求においても、研究開発を更に推進する施策を盛り込んでいます。また、Beyond 5G時代における我が国の国際競争力を強化していくためには、研究開発や知財・国際標準の獲得に戦略的に取り組む必要があることから、現在、総務省の情報通信審議会において技術戦略の検討を進めていただいています。科学技術やデジタルといった成長分野に大胆に投資していくという岸田内閣の方針の下、総務省としても、情報通信分野の研究開発や技術戦略を一層強力に推進してまいります。 ――総務省はニーズに応じ企業や自治体が柔軟に構築できるローカル5Gの導入を促進しています。産業界では関心も高く市場は今後拡大すると期待されますが、コストなど克服すべき問題もあります。普及促進に向けた取組の方針について教えて下さい。 大臣 ローカル5Gは、デジタルの実装によって活力ある地域づくりを目指す「デジタル田園都市国家構想」を実現する上で大変重要な基盤の一つであり、総務省では、ローカル5Gを効果的かつ円滑に導入できるよう技術的な見地等から支援するための実証、ローカル5Gの導入を検討する企業や団体等に対して、オンラインセミナーや導入計画策定支援の実施などに取り組んでおります。また、より利用しやすいローカル5G向けの周波数を新たに開放することなどにより、導入コストの低廉化を促進しているところです。これに加え、今年度補正予算案では、地方のニーズを踏まえつつ、実際の環境に近い形での大規模実証等を行うこととしています。引き続き、関係企業、自治体等と協力しながら、ローカル5Gの普及展開を一層強力に推進してまいりたいと考えています。 ――放送をめぐる現状と課題、デジタル時代の放送制度の方向性について基本的なお考えをお聞かせ下さい。 大臣 現在、インターネットによる動画視聴の普及など、放送を取り巻く環境は急速に変化しており、時代の要請に応えていくため、既存の枠組みに囚われない変革が求められています。例えば、放送ネットワークインフラについて、効率的なコスト構造への転換をどのように図っていくのかといった課題や、放送コンテンツのインターネット配信をどのように推進していくのかといった課題に真正面から取り組む必要があると考えています。これを踏まえ、本年11月より、総務大臣主宰の検討会として「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」を開催し、来年夏の取りまとめに向けて、デジタル時代において引き続き放送が果たすべき社会的役割などについて議論いただいているところです。本検討会での議論を踏まえ、今後の放送制度の在り方について、引き続き検討を進めてまいりたいと思います。 ――災害対策として、放送ネットワークの強靭化、ケーブルネットワークの光化強化をはじめ、放送を維持するための総務省における取組についてお考えをお聞かせ下さい。 大臣 放送は、災害情報や避難情報をリアルタイムで提供することができることから、災害時の重要な情報伝達手段となっており、昨年の7月の熊本豪雨など、近年の災害においても、大きな役割を果たしたものと認識しています。一方で、こうした災害時には、テレビやラジオの中継局において停電による停波が生じるとともに、ケーブルテレビにおいてネットワークの断線等による放送停止が生じてしまうなどの課題があります。このような課題に対処するため、総務省では、テレビやラジオに係る予備電源設備の整備、災害時の放送継続のための予備送信所設備の整備、ケーブルテレビの光化や2ルート化の整備を支援するなどの取組を行っています。引き続き、放送事業者と連携して、放送ネットワークの強靭化を進め、災害時の情報伝達がしっかりと確保されるよう取り組んでまいりたいと思います。 ――総務省では我が国の魅力を発信する放送コンテンツの海外展開強化に取り組んでおられますが、目指す方向性や期待することをお聞かせ下さい。 大臣 現在、日本の放送コンテンツは、様々な形で海外に輸出されており、輸出額も2010年度以降、毎年増加を続け、2019年度に529・5億円に達したところです。日本のコンテンツが海外に流通し、世界的にその存在感を高めることは、海外における日本への関心を高める観点から大変重要であり、地場産品などの日本製品の輸出拡大、観光等のインバウンドの拡大を通じた地域活性化やソフトパワー強化への貢献が期待されます。総務省では、放送コンテンツの海外展開を一層推進すべく、地域の魅力を紹介するコンテンツを制作・海外発信する取組への支援や、日本の情報発信力を強化する取組を行っております。今年度補正予算案においても、新型コロナウイルス感染症の影響によって疲弊した地域の活力を取り戻すため、必要な施策を迅速に実施する予定です。引き続き、放送コンテンツの海外展開を進め、地域活性化や日本のソフトパワー強化に一層努めてまいります。 ――総務省では情報通信産業は戦略的基盤産業であり、経済安全保障の観点から情報通信政策の在り方を検討することが重要であると提言しています。具体的にどのような方向で議論を進めていくか、お考えをお聞かせ下さい。 大臣 5Gなどの情報通信システムは、社会経済活動を支える重要な基盤です。また、通信は、通信の秘密やプライバシーの保護といった民主主義の根幹といえる権利の保護とも密接に関連しております。このため、情報通信政策の展開に当たっては、経済安全保障を確保しながら取り組んで行くことが喫緊の課題となっております。これを踏まえ、総務省においては、通信インフラのサプライチェーンの強靱化、サイバーセキュリティの強化、次世代通信技術(Beyond5G)などの重要新興技術の育成・保護などについて、諸外国政府とも強力に連携しながら取組を進めています。また、総務省の情報通信審議会においては、こうした情報通信分野における経済安全保障の確保に当たっての課題等も踏まえながら、国民が安心して情報通信インフラを利用できるための方策について検討をいただいているところです。また、政府においても経済安全保障推進会議を設置し、通信を含む経済安全保障全体に係る取組を進めており、こうした政府全体との取組とも連携をしながら、検討を進めてまいります。 ――「2万4000郵便局は、貴重な財産」と評価され、歴代の総務大臣、日本郵政の社長はこれを維持していくことを公言しています。しかしながら、特に受託制度を採っている簡易郵便局は、過疎地を中心に減少の一途をたどっています。募集をしても応募がないのが現状です。法律には民営化時の過疎地の郵便局は維持することが明記されており、現状ではその数を維持しなければなりません。維持の方向で行くならば、何らかの工夫や対策が必要だと思います。直営の郵便局は自治体の受託事務などで維持への努力をしていますが、過疎地に関しては、委託費を交付税で措置するなどの支援があってもよいのではないかと思います。簡易局は、公民館での受託、業務や営業時間、副業ができる条件を緩和して、例えば複数の地域おこし協力隊員が新たな事業を始めた時の基礎的収入として活用するなど、工夫が必要だと思います。金子大臣は郵便局の現状と維持、活用についてどのようにお考えでしょうか。 大臣 全国津々浦々に約2万4千局のネットワークを持つ郵便局は、地域の重要な生活インフラとしての役割を担う国民共有の財産であり、郵便・貯金・保険からなる郵政事業のユニバーサルサービスの提供を引き続き維持していくことが必要です。私の地元である熊本においても、山間部から離島まで郵便局の果たす役割は大きいと感じており、特に簡易郵便局については、過疎地等におけるサービスの提供に重要な役割を果たしていただいていると認識しています。他方、少子高齢化、地域経済の疲弊やデジタル化の進展など、郵便局を取り巻く環境は大きく変化しています。これを踏まえ、総務省としては、拠出金・交付金制度により郵便局ネットワークの維持を引き続き下支えしていくとともに、実証実験などを通じ、デジタルの活用などにより郵便局が新たなサービスを生み出せるような環境の整備などに取り組んでまいります。郵便局が、引き続きユニバーサルサービスを安定的に提供し、それぞれの地域においてこれまで以上に積極的な役割を果たしていけるよう、しっかり支援を行ってまいりたいと考えています。
この記事を書いた記者
最新の投稿
- 実録・戦後放送史2024.09.02連載にあたって
- 筆心2024.09.022024年8月26日(第7712号)
- 放送ルネサンス2024.09.02放送100年特別企画 「放送ルネサンス」第1回
- 放送2023.09.01ビデオリサーチ 災害情報入手経路の7割が地上波民放テレビ