NHK、「8K文化財」を活用した6大学合同授業
NHKはこのほど、「8K文化財」を活用した6大学合同授業「8K文化財デジタルアカデミー」を学習院大学・目白キャンパスで実施した。
誰もが良く知る国宝や重要文化財には、保存・管理の観点から「照明の明るさを抑える」「ガラスケース越しでの鑑賞(細部が見られない)」「公開期間の制限」など、様々な制約がある。そのため、博物館などでの展示手法の開発、専門家による研究、教育分野での活用などが進みにくいという課題もある。
そこで、NHKは東京国立博物館、国立文化財機構 文化財活用センターとの共同研究「8K文化財プロジェクト」に取り組んでいる。なお、プロジェクトは2020年からスタートしているが、文化財活用センターは2023年からプロジェクトに参加している。
8K技術や最先端のスキャナー、フォトグラメトリ技術を使い、東京国立博物館などに所蔵される国宝や重要文化財などのデジタルデータ化を行い、これまでの映像体験をはるかに超えた超高精細の3DCG=「8K文化財」を制作。
また、8K文化財デジタルアカデミーは、貴重な文化財のデジタルデータを使った、「新しい授業の形」に挑戦する試み。現在、東洋美術や彫刻など文化財に関わる授業を行っている大学は、国内外問わず数多くある。国内で東洋美術史の専任教授がいる大学は約50。美術史の授業がある大学を含めると100前後に達するという。
しかし授業で活用可能な、文化財の高解像度データは、決まった角度で撮影されたものに限られ、授業内容に合わせて自由な視点で細部を鑑賞できる機会は滅多にない。これは、授業の質や学生の興味・モチベーションに直結してしまう問題だという。
そこで、「8K文化財デジタルアカデミー」では、クラウド上に文化財のデジタルデータを置き、コントローラーで好きな部分を自由に鑑賞可能になるだけでなく、最新のストリーミング技術を双方向活用し、複数箇所からの操作を瞬時に共有・同時に鑑賞が可能。
これにより、学生が貴重な文化財に触れる機会を創出し、興味を促進。授業への積極的・能動的な参加に繋がる。また、文化財の細部を観察できることで、先生方の授業テーマや問いの立て方など、内容設定の幅が格段に広がりより深い学びに繋がる授業が実現できるという。さらに、東洋美術・彫刻・仏教美術など、様々な専門分野の教授による横の交流機会を創出。多角的な授業で教育の質向上などにつなげ、従来の形を超えた、新しい授業の形を探ることもできる。
今回、8K文化財デジタルアカデミーのプロジェクトの趣旨に賛同した6つの大学の教授・学生たちがリアルタイムで繋がり、文化財データを共有しながらクロストーク合同授業を開催したもの。
参加大学・教授(順不同)は米ハーバード大学のYukio,Lippit教授(日本中世絵画史)、大阪大学の藤岡穣教授(仏教彫刻史)、学習院大学の皿井舞教授(仏教彫刻史)、東京大学の増記隆介教授(仏教絵画史)、東北大学の長岡龍作教授(仏教彫刻史)、早稲田大学委の山本聡美教授(日本中世絵画史)。
8K文化財デジタルアカデミーで使用された文化財は、救世観音(国宝、飛鳥時代、法隆寺蔵)、百済観音(国宝、飛鳥時代、法隆寺蔵)。救世観音は「聖徳太子の姿をうつした」と言い伝えられる仏像。年に2度だけ御開帳されるが、近くで全身を拝むことは研究者でさえ許されない門外不出の秘仏であり、明治時代までは「見たら天罰がくだる」とされ、全身を布で覆われていた。そのため今も金箔が残るなど、保存状態が良好だという。百済観音は優美な曲線や柔らかな表情が特徴的なきわめて女性的な、古代彫刻の傑作と称される仏像。1997年にルーブル美術館で展示され、「東洋のビーナス」と絶賛された。
今回の8K文化財デジタルアカデミーでは、クラウド上の高性能リモートデスクトップを使った鑑賞方法を採用している。クラウドはNHKがAWS上に構築し、NHKがサーバーから各大学専用の鑑賞用PCに文化財データをアップする。また、映像ではなく、操作情報のみを各大学に配信する。各大学は専用の鑑賞用PCにアクセスするもの。
(全文は10月16日号3面に掲載)
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。
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