MoIPコンソーシアム ギャップを解消しMoIPの本格普及促進を加速

ITベンダー・放送機器メーカー・SIer・放送事業者・キャリア等の協創により、ネットワーク環境下でのリソースシェアなどによりコンテンツ制作の効率化と持続可能な制作環境を実現し、コンテンツの高度化を目標として活動を行い、我が国のMedia over IP(MoIP)の発展および普及に貢献することを目的に、「Media over IPコンソーシアム」が2025年3月7日に設立されることになった。同コンソーシアムの設立の背景や狙い、具体的な活動内容、将来的な展望などについて会長に就任予定の奥田晋氏(TBSホールディングス CTO /TBSテレビ 常務取締役)と副会長に就任予定の小貝 肇氏(ソニーマーケティングB2Bビジネス部 統括部長)に話を聞いた。

Media over IPコンソーシアム設立のきっかけは「INTER BEE IP PAVILION」にあるという。INTER BEE IP PAVILIONは毎年11月に開催される日本随一の音と映像と通信のプロフェッショナル展の特別企画として2018年にスタートした。
今回で7年目となるINTER BEE IP PAVILIONは様々な成果を生み出しており、これをきっかけにビジネスにつなげた放送機器メーカーも少なくない。一方、放送局での実際のニーズとのギャップなど課題も浮き彫りとなっていった。それらを展示だけで終わらすことなく、将来に向けてきちんとドキュメントなり資料として蓄積・展開していく責任ある組織を作ってほしいという要望が、IP PAVILIONの関係者の中から出てきたため、2023年の1月頃からJEITAを中心に動き出したという。
様々な分野の企業などにヒアリングを行い、意見を聞きながらたたき台を作り上げて、そのために準備会メンバーを少数で設立した。ある程度、方向性が固まった時点で在京民放や放送機器メーカーにアナウンスして、さらにいろいろな意見を聞きながら、コンソーシアムの設立を決めたという。

従来の放送設備の運用に携わる人達は、MoIpシステムを導入する際、異なるテクノロジーで非常に高い信頼性と可用性を持つシステムの設計・構築・運用をしなければならないという現状でのギャップが存在している。同コンソーシアムでは、ITベンダー・放送機器メーカー・SIer・放送事業者・キャリアの参加により、現状のギャップを解消し、ネットワーク環境下でのリソースシェアなどによりコンテンツ制作の効率化と持続可能な制作環境を実現し、コンテンツの高度化を目指すとしている。
MoIPコンソーシアムでの具体的な活動は主に①MoIPプラットフォームの提案(含むセキュリティ関連)、②国際標準規格に準拠した機器のテスト・マルチベンダー間による機器相互接続検証、③コンテンツ制作のプロセスイノベーションに資するワークフローの提案、④関連技術セミナーなどによるIP人材育成:放送技術者向けIP技術取得セミナーなど、⑤活動成果や集約化されたMedia over IP情報などを会員へ発信、外部へのPR活動など、の5点。
このうち最も重要なのがMoIPプラットフォームの提案だ。折角プラットフォームを作っても、誰も使わなければ意味がない。また、使用するものの、「ウチはココは使わない」とか「ウチはココとココとココは以前から使っているコレに変える」など大きく改変されてしまってはメリットはなくなる。自分たちのスタイルを貫いてきた放送局が本当に共通プラットフォームを使用するのか。この点について奥田会長は、「同じものを使用しなければならないと思っています。僕らがずっと取り組んできたのは、本当にスモールワールドで、目の前で見えている部分、放送局の中で言うと、例えば外からたくさん回線が入ってくる回線センター、その隣にはTVマスターがあります。それぞれの仕組みの中ではIP化に取り組んでいて、一応TBSの場合でも稼働させていますが、それらを繋ぎ合わせて、一つの大きなシステムを構築するという発想になかなかたどり着きませんでした。さらにJNN系列との繋がりまでを含むトータルイメージもなかったため、個別最適化が進んでいたのが現状です。
IP PAVILIONで僕らも入りから出るまでが全部IP化された世界を、だんだん目の前で見るようになって、このままではいけないと思いつつも、一方で放送局は非常に厳しい安全信頼性を問われます。そうすると、どうしても従来のSDIの方が信頼性があるとか、自分たちの知っているノウハウで通用するとところに固執しがちなところもあります。
これがIP化と放送局とのギャップになりますが、そこを打ち崩さなきゃいけない。JEITAさんやメーカーさんはもうそんな古い時代遅れの発想でやっていたら、日本の放送局は全滅するぞって散々プレッシャーをかけていただきました。放送局も常識や発想を変えていかなければなりません」と語る。
一方、放送機器メーカー側でも独自のIP化システムを開発・提案してきた。特にソニーはいち早くIP化に取り組み、多数の実績を築いてきた。これまでの流れと共通プラットフォームについて、小貝氏は、「ソニーは国内、国外に多くのIPシステムを導入させていただいていますが、その中身はメインの機材、カメラやスイッチャーはソニーですが、それ以外の周辺機器については、基本サードベンダーさんと他のパートナー企業さんのST2110に対応した機材を我々がシステムインテグレーションして納入する形になります。
そういう流れがあるので我々としては2018年からIP PAVILIONに参加し、他のベンダーさんと一緒にIPの世界を日本国内に広めていこうという活動をしてきました。最初は10もいかないようなベンダーしか集まりませんでしたが、昨年のInterBEEでは約40のベンダーが集まるイベントになっています。そのベンダーさんたちと一緒にIPシステムを作り上げていくという方向性は同じです。我々が作ってきたシステムも放送局さんを中心としたユーザーの皆様と一緒に作ってきているのでその皆様との一緒にやる枠組みができることは、これまで活動してきている流れと合致しています」と語る。
(全文は1月3日号5面に掲載)

トップ画像は奥田晋氏㊧と小貝 肇氏

 

 

MoIPコンソーシアムの役割

MoIPコンソーシアムの役割                                                            

この記事を書いた記者

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成澤誠
放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。