映像情報 メディア学会 AIガバナンスの必要性高まる

一般社団法人映像情報メディア学会(ITE、鈴木教洋会長)は、12月24日(木)・25日(金)に、東京理科大学 森戸記念館(東京都新宿区)において、「2024年映像情報メディア学会冬季大会」を開催した。今回は企画セッション3「生成AIの現状について語る」についてレポートする。
 生成AIの技術革新は目覚ましいスピードで進み、2021年以降多くのLLM(Large Language Models)が発表され、パラメータ規模は指数関数的に増加している。特定の産業や特定の言語に特化した特化型モデルも開発され、金融、医療、教育など、さまざまな産業で生成AIの応用が拡大している。また、画像や音声などを扱うマルチモーダル生成AIや、ロボット技術と組み合わせた新たな応用分野も登場している。同企画セッションでは、当分野で活躍している企業の担当者を招き、生成AI研究の具体的な取り組み内容と、今後の発展の方向性について講演とパネルディスカッションを行った。
 座長兼司会者は鈴木教洋氏(日立総合計画研)/映像情報メディア学会 会長。パネリストは花沢健氏(NEC データサイエンスラボラトリー 所長)、穴井宏和氏(富士通 富士通研究所 プリンシパルリサーチダイレクター)、木村塁氏(KDDI 経営戦略本部 Data&AIセンター長)、柳井孝介氏(日立製作所 研究開発グループ AIトランスフォーメーション推進プロジェクトリーダ)。まず、各パネリストが自己紹介と生成AIの取組みなどをショートプレゼンした。
 花沢健氏はNECの取り組みを紹介。現在の市場では、LLM(大規模言語モデル)自体は幻滅期に入ろうとしている中、「自動化」に注目が集まっているとした。また、様々な企業で自社サービスへAIエージェントの導入を加速させている。NECでは生成AI「cotomi(コトミ)」を開発しており、AIエージェントも導入している。AIエージェントはLLMの精度と速度が重要であり、さらにそのバランスもポイントとなる。cotomiでは精度・推論速度をさらに向上させ、これらを実現したという。
 穴井宏和氏は富士通ではは、事前学習および事後学習でダウンストリームタスクに対応し、LLMをタスクや各領域向けに特化しているという。また、複数のAIエージェントが分散・協働し複雑な課題を解決するマルチAIエージェントを進めている。生成AIの開発・普及に伴いこれまでにない課題も発生しており、特に消費電力の急激な増大は社会問題になりつつある。富士通では性能を維持したまま、GPU代位数を半減し、消費電力を最大59%削減する取り組みを行っている。
 木村塁氏は、KDDIの生成AIに対する取り組みは「攻め」と「守り」があるとした。攻めでは大規模計算基盤への大規模投資を行っている。LLM開発に向けたデータセンターを構築、GPUなどを集積しAI学習時の大量計算に対応する。中長期的な設備投資は約1000億円規模を計画している。また、全国8拠点の通信センターも活用し、AI処理を低遅延で実現し、快適なAIサービス利用環境を提供する。一方、守りではAIガバナンス協会への参画および理事就任に加え、AI開発・利活用原則やAI開発ガイドラインなど社内のAIガバナンスを開始しているとした。
 柳井孝介氏は、日立ではミッションクリティカル領域での生成AI活用を進めており、大規模システム開発や業務改革で生成AIを活用したユーザーとの協創を拡大させているという。また、社会インフラに関するナレッジを生成AIでレバレッジするため、幅広い事業領域で社内検証を推進している。直面している課題として、ベテランをベテランたらしめている形式知・暗黙知をいかに学習させるかがあるとした。生成AIの研究の方向性としては、機械・ロボットとのインタラクション、暗黙知の活用、複数ドメイン知識の融合の知の循環を行うことにより、知識の再生産を加速させるという。
(全文は1月20日号3面に掲載)

セッションの模様

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この記事を書いた記者

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成澤誠
放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。