
WOWOW、System Tを2つ導入しダブルメインに
WOWOWは11日、新音声中継車をメディア向けに公開した。今回は内部構造をレポートする。
車の中にルームAとルームBとその二つの部屋がある。ルームBは普段は使用できないが、拡幅機構を備えており、外側に83センチ飛び出す仕組みになっている。これにより作業スペースを確保している。
それぞれにSolid State Logicのシステムを搭載、2つの別々の音声のプログラムが制作できるようになっている。一番想定される使い方としては、コンサートの現場でAルームの方で音楽のミックスを行い、ルームBの方でテレビ向けの音量の調整などテレビに適した音声を作ることを想定している。
Solid State LogicのSystem Tを2つ入れたことにより、メインとサブという考え方ではなくて、メインメインで運用できるような環境になっている。どちらも立体音響制作イマーシブオーディオ制作に対応しており、遮音性も確保した部屋になっているので、例えば音楽フェスティバルでいろんなステージがある場合にも、音声中継車1台で、2つのステージをそれぞれ担当するといったような使い方もできる。まさに、動くスタジオを実現している。
System Tを選んだ理由について、同社技術センター 制作技術ユニット エンジニアの戸田佳宏氏は、「我々のニーズに一番合致していました。イマーシブオーディオ制作、ハイレゾの制作、あとやはり音楽コンサートで運用していくことを考えると、System Tが我々としては一番親和性が高いなっていうところで選びました。
あとシステムTの一部分をコアの部分のみ切り出してパソコンで操作するというような持ち運びしやすいことも重要です。あれだけステージボックスがあると、いろんな現場に持ち出して、稼働率を上げていきたいというところがあります、またSSLさんの製品でラインナップが組めているので、運用者も覚えやすいというのもあります」と述べる。
ルームAはSolid State Logic S500 64 Faders、ルームBにはSolid State Logic S300 32 Fadersが導入されている。
入力数はアナログ換算で288ch(4×64 analog inputs and 1×32 analog inputs)、これにDante(1× HC Bridge SRC)とMADI(4×SSL MADI Bridge)が加わる。前機種は160入力だったので、ほぼ倍の入力信号になっている。
2つのルームはラック室を挟んで完全に分離しており、遮音性に加えて冗長性や信頼性の確保にもつながる。主要な装置には二重化されている。電源に関しては、UPSも搭載しており、瞬断のほか数分の停電にも耐えられる仕様になっている。また、ディーゼル発電機も装備しているため、電源が取れない環境では単独での運用も可能。もっとも、音響の面からはディーゼル発電機の動作音がノイズになる可能性もあるので、できるだけ外部電源の利用を推奨している、
◇
WOWOWは放送を主体でやってきた企業だが、コロナをきっかけに大きく変わったという。配信も大きな出し口だが、一昨年ぐらいから事業部が主体となって「WOWOW FILMS」というコンサート/ライブを作品化し劇場上映することを行っている。
このように出し口がここ数年で一気に増えている。ラージフォーマットと言われるような、劇場でのDolbyAtmosを公開や、Apple Musicなどハイレゾに対応したストリーミングサービスでも作品を出していくという。
家庭のテレビ環境で高音質が分かるかという問いに対し、多田氏は「テレビに関して言うと、テレビの規格というもので、サンプリングレートは決まっています。あとチャンネル数は最大5.1チャンネルまでという制約はあります。ただし、96kHzのサンプリングレートで音を取っておくことで、信号の情報量は2倍になっているわけです。
そこからダウンサンプリングしてテレビ規格の音を作るにしても、良い音が取れていることには間違いないので、いかに最後ギリギリのところまで良い音で作ることが大事です。コンピュータで信号処理を行いますが、信号処理も高いサンプリングレートでやることにより、きめ細やかなどをギリギリまで再現できます。
もちろん放送ですぐに気づくかというと、ご家庭によって環境がかなり違いますので、なかなか100%伝わるかというと難しいのかもしれませんが、ハイエンドなオーディオを使っているお客さんに対してもより満足いただけるような、近づいていってるのかなと思います。
また放送と配信だけにととどまらず、出し口として映画館ですとかストリーミングサービスがあります。自分たちのプラットフォームや放送では制約があるにせよ、やはりお客さんの要望であるハイレゾだったり、多チャンネルに対応して制作できる環境を作っていくのが大切だと考えております」。
稼働率について戸田氏は「月10現場以上を目指しています。やっぱりライブが一番多いですね。スポーツ中継は権利が流動的なのでなかなか難しいですが、弊社は長年のテニス中継には携わらせていただいていて、それを強みとしているところでもあるので、テニスをできたらと思っています。
また今後はスポーツの国際大会もあって、海外のからすでご相談いただいている状況ではあります」。
新音声中継車の構想はコロナ禍の前からあった。主な設備はコロナの前には発注済みで、コロナを挟んで完成したことになる。この間、設備の値上がりと円安、半導体不足など様々な要因が重なった。新音声中継車の価格は億レベルということだが、現在同中継車を制作すると到底、その金額でおさまらず、「1・3倍」にはなるという。
TOP画像はルームA

ルームB

ラック室

ラック室

System T

天井(星が彩られている)
ステージボックス
【新音声中継車】
車体寸法
長さ10.87m × 幅2.945m [拡幅時は3.75m] ×高さ3.57m
音声卓
Room-A: Solid State Logic S500 64 Faders
Room-B: Solid State Logic S300 32 Faders
モニター環境
Room-A: 7.1.4ch
musiklelectronic geithain RL933K [LCR], RL906 [Surround channels]
Room-B: 5.1.4ch
Genelec 8331AP [Mid channels], 8010 [Height channels]
Audio Local I/O
Analog: 32ch Mic/Line IN、24ch Line OUT
AES: 16ch IN/OUT
MADI: 128ch IN/OUT (48kHz)
Dante: 192ch (48kHz)
SDI: 8 SDI IN ×8ch
Stage Boxes
Analog: 288ch (4x 64 analog inputs and 1x 32 analog inputs)
Dante: 1x HC Bridge SRC
MADI: 4x SSL MADI Bridge
Recorders
Main: Pro Tools 192ch@48kHz / 96kHz
Backup: TASCAM DA-6400 256ch@48kHz
Outboards
UAD Apollo x16D
t.c. electronic System 6000
SSL FUSION
Universal Audio 1176LN
Video Router
RIEDEL MicroN
外部入出力: 8 SDI IN / 4 SDI OUT
Intercom
RIEDEL Artist 1024, BOLERO Wireless Intercom
電源
AC100V/200V 20kVA Camlock コネクタ
発動発電機搭載(AC100V 25kVA)
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。