関東総通局など3者 小田原市で臨時災害放送局の訓練実施
総務省関東総合通信局(古市裕久局長)は1月29日、小田原市及び一般社団法人日本コミュニティ放送協会(JCBA)関東地区協議会との連携により、臨時災害放送局の設営・運用訓練を小田原市において実施した。臨時災害放送局の設営・運用訓練の実施は、関東管内では初となる。 先の台風災害では、地域のコミュニティ放送局がきめ細やかな災害情報を地域住民に向けて放送し、防災・減災に大きな役割を発揮するなど、災害時におけるラジオの有用性があらためて注目された。 同訓練は、大規模災害時に自治体などが一時的に開設するFMラジオ局である「臨時災害放送局」の円滑な開設及び運用を目的とした訓練を実施し、自治体からの要請に基づく設備の貸出、運搬、設営及び使用周波数の選定等の諸手続きをはじめ、災害情報の集約と同設備による住民に向けた情報発信などの運用面について、課題の洗い出しと検証を行うもの。訓練は小田原市を放送対象とするコミュニティ放送局である「エフエム小田原」の中継回線が被災し放送が停止したことを想定し、この代替措置として小田原市が、JCBA関東地区協議会の協力を得て、臨時災害放送局の開設および運用を行うまでとなる。 当日の午前9時、小田原市から関東総合通信局放送部に「台風により、広域に浸水被害が出ています。エフエム小田原は中継回線が被災し放送が停止しました。市民への情報提供を継続するため、臨時災害放送局の免許を要請します。あわせて、関東総合通信局に配備されている臨時災害放送局用設備の貸付を受けたいので、メールにて借受申請書を送ります」と電話で連絡した。 関東総合通信局では、メールを確認するとともに、同局が保有する臨時災害放送局用の設備を小田原市へ貸付することを電話で承認し、並行して周波数選定作業を開始。さらにJCBA関東地区協議会へ連絡し、小田原市への設備搬送に協力して欲しいと要請を行った。JCBA関東地区協議会は要請を受託し、搬送準備を開始した。 午前10時、関東総合通信局に出向いて臨時災害放送局用の設備を受け取ったJCBA関東地区協議会のスタッフは、車両で小田原市への搬送を開始。13時に小田原市役所に到着した。送信設備の設置場所を検討し、アンテナは市役所の8階屋上、送信用機器は屋上踊り場に設置することを決定した。設置を開始するとともに、放送時間・放送内容などを協議。周波数などの選定作業終了後、関東総通局が小田原市に対して「臨機の措置」により免許した。 設置完了後、簡易測定を実施し、14時から放送が開始された。なお、今回は訓練のため臨時災害放送局ではなく、関東総合通信局が開設した「実験試験局」として運用された。約1時間の生番組には、エフエム小田原のパーソナリティである牧いずみさんの他、加藤憲一小田原市長や佐藤好英関東総合通信局放送部長らが出演した。加藤市長は「小田原市は市内に様々な自然要素が残っていることから、災害想定が多岐にわたります。その中で最も被害が大きくなる災害は地震でして、相模トラフ地震が想定されています。相模トラフ地震が発生すると、負傷者は1万人以上、死者も1000人以上に達すると想定されています。 また、昨年の台風15号の際には、千葉県木更津市および君津市に、ブルーシートを寄付させて頂きましたが、これは日本コミュニティ放送協会のつながりで、エフエム小田原の鈴木社長のご尽力によるものです。このように平時から横のつながりが大事だということを、改めて痛感しました」と述べた。 佐藤放送部長は「本日放送を行なっている臨時災害放送局は平成7年の阪神淡路大震災を契機に、郵政省(現総務省)で制度化されました。ただし、コミュニティFMについては、それより前の平成4年に地域の活性化に寄与することを目的に制度化しています。地域に密着したきめ細やかな情報などを地域の皆さまに提供するまさに地域メディアです。 さらに、コミュニティ放送局の皆さまは、放送事業者として平時には地域の旬の話題や娯楽番組などに加えて、地域防災にかかわる防災情報、防災意識の向上等、放送を通じた啓蒙活動といった役割もあります。災害が発生した際には、地域に寄り添った情報発信の担い手として、避難所情報や物資の配給情報、給水情報、ライフラインの復旧情報等々、地域ごとの細かい関連情報を届けることが期待されています」と語った。 訓練自体は滞りなく終了したが、様々な課題も出てきている。まず送信設備の運搬だが、今回東名高速道路を使い小田原市役所まで2時間半を擁した。途中、渋滞などの盈虚腕、予定より1時間ほど遅れたている。巨大地震や大規模水害の発生時はさらに渋滞が予想されることや、当初のルートの道路や橋が破壊されている可能性もあるため、ルートの選定が重要となる。 放送エリアの問題もある。災害時にコミュニティ放送が被災し、放送が停止した場合、臨時災害放送局でも平時と同じ放送エリアが当然望ましい。今回の訓練では、出力20Wで放送を実施したが、様々な地域の特性(山が多い、自治体の方が細長いなど)により、平時の放送エリアが確保できない可能性もある。訓練で用いられた可搬型FM送信用機器(サムウェイ製品)は出力最大100Wのため、出力向上も可能だが、干渉の問題もあり難しい。さらに、今回は電源がある想定だったが、電源が喪失している状況も考えられるため、電源車の導入なども検討しているという。 この他、人材の確保も重要との指摘もなされた。今回は地元にコミュニティFMがあり、JCBAの関東地区協議会の協力も得られた前提だが、かならずしもそのような状況ばかりではないことが予想される。このため、いざという時に混乱を防ぐため、平時にマニュアル化する必要があり、放送内容などについても決めておくことが重要だとした。 関東総通局では今後も、同様の訓練を行っていきたいとした。
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