映像情報メディア学会 「2022年冬季大会」を森戸記念館で開催
映像情報メディア学会(伊丹誠会長)は、12月22日(木)~23日(木)に「2022年冬季大会」を東京理科大学・森戸記念館(東京都新宿区)で開催した。今回はオンライン(Zoom)も併用したハイブリッド開催となった。主なものを紹介する。 今回の一般募集講演は95件。加えて、3つの企画セッションも用意している。特に注目されたのが「企画セッション1 放送におけるAIの活用」。AI技術はすさまじい勢いで開発が進んでおり、放送分野への導入も急速に増えている。その開発動向や導入事例が紹介された。 このうち日本テレビAI社内開発チーム(代表:篠田貴之)の『AI制作支援システム「エイディ」の社内開発と運用』は≪技術振興賞≫進歩開発賞(現場運用部門)を受賞している。同システムは、AI学習に必要な事前の準備作業時間の大幅な短縮を図り、番組制作におけるCG表示作業の効率化、および映像監視の一部無人化、これまで実現できなかった生放送における背面CG合成など番組制作から送出業務まで幅広く使用されている。開発は当初、篠田氏一人でスタート、自分でプログラムを組んで開発したという。2021年に開催された国際的なスポーツ大会において英語のテロップを日本語に自動変換したことで一気に注目された。国際映像は英語のテロップで送られてくるが、読みやすくするため日本語テロップをかぶせて放送することは以前より手作業で行われていた。しかし、リザルト画面などで、10名程度が並ぶと手作業では到底間に合わなくなる。これを瞬時に日本語表示ができるようにしたもの。 前述のようにエイディは様々なシーンで活用されており、機能も多岐にわたる。まず大きな特徴は「業務の効率化・高度化」だ。「英語テロップの日本語自動変換」、「競技スコアの自動入力」、「番組自動監視」、「自動モザイク処理」等現場の作業効率化に加え、AI学習の過程にまで工夫を行っている。一般的にAI学習を行う場合、教師データの準備に膨大な時間を要するが、「エイディ」では学習用の「架空映像の自動生成」や「ラベリング作業の自動化」機能を開発することで、この準備時間を省略することができる。 なお、同セッションでは、『【もじ】革命!テレビ局ならではの音声認識AIの活用 ~「もじこ」「もじぱ」「もじダス」の事例より』(TBSテレビ)、「NHKにおけるAIによるコンテンツ制作支援技術の研究開発」(NHK)も報告された。 また、企画セッション2は「2021年度各賞受賞企業による記念講演」。2021年度に同学会が主宰する各賞を受賞された企業の協力を得て、記念講演を実施した。 このうち、クラポ開発グループ(日本テレビ・NEC)は≪技術振興賞≫進歩開発賞(現場運用部門)を受賞。「クラポ」はスマホやPCからWEBブラウザを使用して映像や静止画を送ることができるツール。専用のソフトウェアを使用せずに、UDP通信と同等以上の転送速度を実現できる。番組で一般の方から素材(動画や静止画)の提供を受けることは以前より行われているが、素材がSDカードやHDDだけでなく、スマホやタブレットに保存されているケース場合が増えている。こうしたスマートデバイスは長時間借用することが難しいため、その場で放送局に伝送することが望ましい。「クラポ」の開発は2019年ごろに構想が持ち上がり、実際の作業はその半年後からスタート2021年6月からシステム構築に着手し、同年11月には運用を開始している。「クラポ」のシステムはクラウド上に構築されており、仮想サーバーのマルチアベイラビリティ化およびマルチリージョン化、専用回線の通信キャリア冗長化により可用性を強化している。セキュリティについては、まず素材にウイルスやマルウェアが含まれていないかを確認するため、ウイルススキャンサーバを用意し、全数をチェックしている。さらに、「クラポ」へログインするためのAD認証にとしてAzure Active Directoryを用いている。 フジテレビは、映像情報メディア学会の「第49回・2021年度 進歩開発賞(現場運用部門)」を『災害情報カメラ収録システム「TOREZO」の開発~日本全国に広がる情報カメラ映像の自動送出を実現~』で受賞した。冬季大会では担当者が同システムの概要と活用事例などについて紹介した。 「TOREZO」は、フジテレビ系列(FNN)で所有する日本全国の情報カメラを一括収録し、地震発生時には地震の揺れ映像を自動的に切り出し、全系列局がその映像を即座に放送できるシステム。地震映像切り出しの高速・高精度化を実現するとともに、ハイブリッドクラウドでシステムを構築することにより、災害耐性を確保した。また、メーカーと共同開発した高性能エンコーダーの採用により、設備コストの削減を実現。地震報道の迅速化と働き方改革や費用削減に大きく寄与している。 TOREZOはフジテレビの情報カメラ映像を自社内のサーバーで収録する「CXシステム」と、フジテレビを含むFNN各局の情報カメラ映像をデータセンターで収録する「FNNシステム」の2つで構成される。フジテレビ管内では、情報カメラの出先拠点から同局の本社およびデータセンターにIP回線を介してカメラ映像を送る。一方、FNN各局が運営する情報カメラ映像は、自局まで独自回線で社内に取り組み、各局からデータセンターへ映像を送っている。 TOREZOは最大震度4以上で自動切り出し機能が作動する設定になっており、同機能を実装した2021年3月から2022年12月 までに震度4以上の地震は93回発生し、同機能が作動した。このうち、震度5強が11回、6弱が1回、6強が2回となっている。また、2022年3月16日の福島県沖地震や2022年6月19日の能登地方地震などでは報道特番が放送され、自動切り出しによる地震映像が利用された。さらに、地震以外の活用事例では、線状降水帯発生時や台風接近時の天候の変化を把握した。加えて2021年5月26日の「スーパームーン皆既月食」では、TOREZOを利用して全国の情報カメラ映像から気象条件のよいカメラを見つけ出し、FNNプライムオンラインでライブ配信を行った。 この他同セッションでは、≪技術振興賞≫進歩開発賞(研究開発部門)を受賞したKDDI総合研の『特定空間フォーカス型360度動画再生アプリ「音の VR」の開発と実用化』と、≪映像情報メディア未来賞≫を受賞したNHKの『インコヒーレントデジタルホログラフィーの動画像撮影に向けた複数ホログラムの一括撮影技術』も報告された。 一般講演のうち、「放送・通信方式、放送現業、無線・光伝送」では、NHK放送技術研究所が「30K360度カメラ構成の検討」を報告した。ITUでは30K×15Kの360度全天球の映像フォーマットが勧告化されているが、これに準拠した30K360度全天球コンテンツやその取得手段はいまだに存在しない。このため、30K360度全天球カメラの実現方法について検討し、全天球にわたって解像度を担保するためのカメラおよびレンズ構成を検討した結果を紹介した。 また、NHKは「曲面ディスプレイにおける許容画角」を報告した。視聴者が局面ディスプレイで画面の歪みによる画質劣化を気にせずに臨場感を得られる水平画角の範囲を検証するための主観評価実験を紹介したもの。この他、「360度全天球コンテンツの撮影におけるカメラ間距離の一検討」(NHK)「地上放送高度化方式の部分受信帯域にLDMを適用した一括復調方式の検討」(東京理科大、神奈川大)、「フレーム同期信号を付与した地上放送高度化方式におけるTMCC信号の伝送方法の一検討」(NHK)、「地上放送高度化方式に対応した高度化STL/TTLの室内SFN検証」(NHK)なども報告された。 この他、フェロー記念講演として電波産業会山内結子氏の「番組制作支援技術の研究開発を振り返って」、早大 渡辺裕氏の「Motion Estimation ~ 動画像符号化における動き推定・動き補償とスポーツ情報処理における動作解析~」も実施された。
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