NHK 第73回全国技術報告会 最優秀賞は小窓自動切出装置「BeautyROI」の開発
NHKは7月1日、「第73回 全国技術報告会」の受賞報告を決定した。今回の報告会では、藤井翔子職員(広島拠点放送局技術部)の「小窓自動切出装置『BeautyROI』の開発」が最優秀賞を受賞した。あわせて優秀賞と特別賞が各2件、アイデア賞が1件選出された。 ◇ 「全国技術報告会」は、放送現場、技術職場などにおける開発・過以前・工夫などの内容・成果を発表し、技術職員の意識啓発と、若手技術者の育成を図る目的で毎年実施されており、全国の地方報告会の最優秀・優秀受賞者が参加する。毎年、渋谷のNHK放送センターで報告会を開催していたが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で資料のみの報告会となった。 最優秀賞を受賞した「小窓自動切出装置『BeautyROI』の開発」は、地域局でのニュース送出業務は少人数での対応となるため、ロボットカメラを駆使して、事前に決められたショットメモリーを前提とした運用を行っている。中継映像やVTRにスタジオのキャスターやゲストの顔を合成する“小窓演出”に着目し、近年様々な分野において活用されている機械学習を用いた顔認識技術によって、1台のベースカメラから複数の小窓映像をリアルタイムに生成する装置を開発した。動的システムの状態を推定する手法であるカルマンフィルターを用いた補正処理を実装することで、自然な小窓切出しを実現している。従来の小窓演出の運用では、限られたカメラ台数の中で小窓映像として出力する人数分のカメラを占有してしまうため、前後の演出への制限となることもあった。同装置の利用により、このような制限も軽減され、演出効果の向上が期待できるとしている。 優秀賞は、冠城優香職員(放送技術局メディア技術センター運行技術部)の「顔認証技術による『Face Detector」の開発」および古屋琴子職員(仙台拠点放送局技術部)の「AIを用いた音声自動モニタの開発」の2件が受賞した。「顔認証技術による『Face Detector」の開発」は、顔認証技術により映像内の人物名をリアルタイムかつ高精度で提示し、スーパー送出やアナウンス実況といった番組制作業務をサポートする「Face Detector」を開発した。運用者は顔認証用の教師データとして1画像/人物を用意すれば十分であり、認識率は、完全な横顔やマスク着用シーンを含めてきわめて高い精度を実現している。例を挙げると、双子の出演者を誤りなく見分けることも可能なほどである。また番組の映像の特長から、不要な認証処理を省くロジックを考案し、処理速度向上と高精度化を図った。中継現場での使用も考慮し、ローカルPCで動作可能とした。 「AIを用いた音声自動モニタの開発」は、ラジオ音声の異常を高精度で検知可能なAIアルゴリズムを搭載した「新型音声自動モニタ」を開発した。ラジオ放送機で使用している音声自動モニタは、本番系統と予備系統の音声レベルの比較により異常判定を行うため、片方の系統にレベルの高い異音が混入した場合、誤判定により異常な系統に切り替わってしまう危険性がある。同開発品は、音声レベルと単一周波数信号の検知により誤判定を防ぐとともに、機器故障による音声歪などの異常音を学習させたAIアルゴリズムにより、人間の感覚に近い判断要素で音声異常を直接検知することを可能とした。 特別賞は、竹内彰職員(静岡放送局技術部)の「火起こし・上乗せガイドシステムの開発」と、髙橋真央職員(仙台拠点放送局技術部)の「ショート動画制作システムの開発」の2件が受賞した。「火起こし・上乗せガイドシステムの開発」は、地震・津波の発生や気象警報等の発表時には、NHK内で定めている実施要領にのっとって放送所の火起こし(=夜間放送休止中などに緊急に放送機を起動し、放送を開始すること)やテレビでの速報スーパー、ラジオでの音声上乗せによる速報を行うが、これらの処置判断は非常に複雑なものになっている。そこで放送の状態や警報等の情報を収集解析し、少人数で対応する運行勤務者に必要な情報や対応を通知する火起こし・上乗せ補助システムを開発した。実施要領の変更や放送局毎の独自ルールの追加等にもプログラミングを変更することなく柔軟に対応できるGUIを実装し、地域放送局での長期的な運用を可能としている。「ショート動画制作システムの開発」は、放送番組のインターネット展開を支援する「ショート動画制作システム」を開発した。同システムでは、通常、インターネット用動画を制作する際に編集者が行っている、放送番組の映像から画にインパクト(=画力)がある部分を選択するという作業を自動で行い、短い作業時間でインターネットに展開しやすい1分程度の「ショート動画」を制作することを実現した。さらに、スーパー入れやBGM付与など、ショート動画の制作に必要な全ての編集作業を同システムで完結できる。 また、審査の結果、従来になかった着眼点で開発を推進したことを評価し、今年度はアイデア賞を設けている。アイデア賞は中藤駿職員(大阪拠点放送局技術部)の「ロボットカメラ操作支援システムの開発」。遠隔操作によるロボットカメラ(ロボカメ)での撮影では、操作者に土地勘のない場所での事件・事故や災害等の撮影対象を正確かつ迅速に捉えることは難しい。同開発は、パターンマッチングをベースとした画像認識を用い、カメラ雲台からのデータなどを使わずにロボカメ映像のみからロボカメの撮影方向をリアルタイムに推定するものである。撮影推定範囲、撮影対象の位置をWEB上の地図サービス上に同一表示させ、直感的に操作できるアプリケーションを開発した。撮影方向の推定は、パン、チルトだけでなくズーム操作にも対応し、昼夜を問わず高い精度で推定できる。 ◇ 第73回全国技術報告会について、審査委員長を務めた技術局長の児玉圭司氏は、これまでの歴史の中で、今回のように資料だけで開催されたのは初めてであり、これまでの努力の成果を晴れの舞台で披露出来ず悔しい思いをした方も多くいるのだろうと、主催側の立場ながら残念に感じているとした。しかし、こういう状況下だからこそ生まれる逆転の発想があるものだとも感じたという。 今回は、地域の報告会で優秀な評価を得た16件の報告だったが、いずれも完成度が高く、幅広く実用化の展開が期待できる内容で、例年を上回る素晴らしい成果に順位を付ける審査は大変だったとしている。その中で、藤井翔子職員(広島拠点放送局技術部)の「小窓自動切出装置『BeautyROI』の開発」は、より効率的な機材やマンパワーの運用と演出効果の向上を両立できる点が高い評価を得たポイントだとした。最後に児玉局長は「業務改善のヒント・ニーズは現場にあります。そして、機材やシステムを利用するユーザーの視点・協力をいかに開発に反映していけるのか。これは、技術陣にとって昔も今も、そして将来も変わらない重要なテーマです。新型コロナウイルスの感染は、首都圏を中心にまだまだ収束の域に達していませんが、アフターコロナ・ニューノーマルが求められる中、来年はどのような開発・改善成果が全国の放送局から報告されてくるのか、皆さんの益々の活躍とともに楽しみにしています」と述べている。
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