NHKテクノロジーズ 大橋一三社長インタビュー 「世界にも誇れる放送・メディアの第一級の技術会社に」
2019年4月1日、NHKグループの技術会社である 旧NHKアイテック(アイテック)と旧NHKメディアテクノロジー(MT)の2社が統合し「株式会社NHKテクノロジーズ」が発足した。社員数2000人を超えるグループ最大の企業であり、番組制作から番組送出、送信、受信環境整備、さらには情報システムの開発・運用まで、放送技術に関わる全てを支える存在でもある。同社 代表取締役社長に就任した大橋一三氏に、経営統合のねらい、現在の状況、今後の計画などを聞いた。 ――改めて経営統合の経緯、ねらいについてお聞かせ下さい 大橋 NHKは、「2018―2020年度NHK経営計画」において、公共放送から公共メディアへの進化を明確に打ち出しています。NHKの技術を支えてきた我々も、公共メディアへの進化に対応できる会社になる必要があります。放送のコンテンツを中心とした集団であるMT、放送電波を全国に確実に届けるアイテック、どちらも放送を前提とする子会社でしたが、今後、公共メディアへと進化しつつ、新しいメディアに対応するためには、両社の技術を融合させ、新しい技術力を培うことが、我々グループ会社として必要だということが共通の認識としてありました。しかし、技術の進歩は速く、メディア環境もどんどん変わっていきます。この流れに迅速に対応するため、統合に踏み切りました。メディア環境の変化という時代の要請に基づいた統合と考えています。 ◇ ――スタートして3ヶ月。統合の進捗はいかがでしょうか 大橋 目指すところは定まっていたので、両社の間でどう形作っていくかという議論もしやすかったです。各現場がどういう形で統合を実現していくかについて、時間をかけて準備をすることができました。そういう意味では、合併した4月1日は比較的順調に迎えることができたと思っています。統合から約3ヵ月が経過しましたが、すでに管理部門は4月1日から1つのビル(本社)に入って業務を開始しています。また、新しい会社を経営するためのガバナンスの仕組み、社内の規程や制度などについても、時間をかけて準備してきたので、4月1日からほぼ順調に実施することができました。これまでのところはスムーズなスタートを切れたと考えています。 ――統合に際して難しかった部分はありましたか 大橋 もちろん、別々の会社だったので社内制度も違います。違うものをどうやって一つにしていくかという過程において、議論が必要なものもありましたし、時間がかかるものもありました。しかし、そういった作業も順調に進めることができました。なにより業務については、統合によって突然業務内容が変わるわけではないので、混乱なく継続しています。 また、今年度の新入社員は、採用段階ではMT、アイテックがそれぞれ採用したわけですが、4月1日には51人全員がNHKテクノロジーズの新入社員として入社し、研修も一体で行いました。このため、同じ一つの会社の新入社員としての意識が研修段階から生まれてきていると思っています。統合による効果がこういった新人研修から現れてきているのではないかと期待しています。一例ですがMTで番組制作志望で採用された新入社員から「旧アイテックの部門が担当している送受信の現場を研修で訪れ、放送はこんなに苦労して全国に届けられているという仕組みが分かったので、番組を作る時に、よりやりがいを持って取り組めるようになった」といった感想も聞かれました。 統合の作業は、4月1日で全てが完了したわけではありません。例えば地域の組織の統合が残っています。旧2社とも全国にそれぞれ組織を持っていますが、すべての地域で、両者が一緒に仕事をするところまでは至っていません。地域組織の統合は、あと2年かけて、段階的に進めていく予定です。 ◇ ――NHKテクノロジーズをどのような会社にしていきたいですか 大橋 統合に当たり、私が社員に向けて話したのは、「世界にも誇れる放送メディアの第一級の技術会社になろう」ということです。非常に抽象的ではありますが、当社は放送局のほぼ全ての技術業務に加えて、情報システムの分野も担っており、放送の技術業務全般を支える会社になっています。これらを全てまかなえるような会社は、世界でも類を見ないと思っています。それぞれが長年築き上げた専門技術やノウハウを持った人達が集まって一つの会社となったわけですので、これらをさらに磨いていけば、放送メディアに関する技術なら、なんでも備えている会社になることは間違いないと考えています。我々が目指している“世界にも誇れる放送メディアの第一級の技術会社”は、「放送メディアに関する技術的な問題は全てNHKテクノロジーズで対応できる」、ということを謳えるような会社にしていくということが第一だと考えています。 さらに社会的責任もきちんと果たしていくことも重要な課題です。2000人規模の会社はNHKグループの中で最大規模の会社となり、会社法上では大会社となります。そのため、ガバナンスや社会への説明責任など、NHKグループ全体の模範となるような会社運営を目指していきます。業務とは別の話とはなりますが、会社としてこれらを実現するためには、社員全員が社会から注目される存在であるということを意識する必要があります。新会社になって、「立派な会社になったね」と周りから言われるような会社にしていくことが、大きな目標であり、私の役割、責任だと思っています。 ――NHKグループでは「働き方改革」を推進していますが、NHKテクノロジーズにおける取り組みは 大橋 直近の課題だと認識しています。東京オリンピック・パラリンピック、インターネット常時同時配信を含むネット業務の拡大など、NHKのサービスは、今後も増えていくことが予想されます。これらの技術業務の多くが我々のところに来ることになります。しかし、どんどん会社の規模を大きくして、人員も増やしていくわけにもいきません。一定の社員数の中で、増えていく業務をどうこなしていくかは以前からの課題でしたが、そこに働き方改革も加わってきました。皆が健康で働けるような働き方をどのように実現するかは、我々にとっても重要です。NHKでも、働き方改革はグループ全体の取り組みだと考えており、良い形での業務の進め方を模索していますのでおり、連携して改革を進めてまいります。 ――最後に今後の抱負をお願いします 大橋 繰り返しになりますが、NHKテクノロジーズは「世界にも誇れるような放送メディアに関する第一級の企業に」を目指していきます。弊社にはそれぞれの分野で、優れた技術や高い専門性を持つ人達がたくさんいます。そのような人達が集まり、お互いをよく理解し、切磋琢磨する中で、理想的な形や新しい技術が生まれてくると思っています。 また、我々の業務をサポートしていただいている協力会社が多数存在します。MTでは番組制作や情報システム関連、アイテックでは全国の送受信の放送網を守る分野での協力会社です。協力会社無しには、NHKも我々も役割を果たせなくなります。NHKテクノロジーズでは、社会的存在として、我々だけでなく協力会社の皆さんも含めて一体となって成長していきたいと考えています。
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