NHKの海外向け国際放送がリニューアル 『NHKワールド JAPAN』へ
“日本発の公共メディア”認知向上を目指すNHK国際放送局・今村啓一局長に聞く NHKがテレビ、ラジオ、インターネットで海外に発信する国際放送「NHKワールド」が4月から、「NHKワールド JAPAN」と名称を変更し、新たなスタートを切った。平成30年度からのNHKの3か年経営計画では、重点方針の一つ目の「“公共メディア”への進化」の主な施策として、「日本のいまを世界へ、世界の動きを日本へ」を掲げており、すでに新番組が始まるとともに、インターネットを活用したサービスも充実させている。ここでは、「NHKワールド JAPAN」の中心的なメディアである英語によるテレビ国際放送を中心に、国際放送局・今村啓一局長に名称変更の理由や新たな取り組みなどについて話を聞いた。●タグラインは『Widening Horizons』 ――まず、海外向けの国際放送の名称が「NHKワールド」から「NHKワールド JAPAN」になった理由をお聞かせください 今村「一言で言いますと、NHKの国際放送が“日本発の公共メディア”である、ということを明確に打ち出すためです。外国人の中でも日本に詳しい方やメディア業界の方は『NHK』という名前を知っておられる方が多いのですが、そうでない方、日本に来たことがない方は『NHKワールド』といっても、それが日本からの放送であるということをご存知ないのです。そこでチャンネル名に『JAPAN』という言葉を入れることによって、改めて日本発の公共メディアであることを表明し、NHKのブランドとして確立するために『NHKワールド JAPAN』とリニューアルいたしました。名称が変わることで今後はPR、プロモーションの面でもプラスになると考えています」 ――リニューアルに伴い、キャッチコピーを付けられたそうですが 今村「我々が今後何を目指すのか、その指針を表す言葉として『Widening Horizons』というタグライン、いわゆるキャッチコピーをつけました。この言葉には、『NHKワールド JAPAN』の番組や取り組みを通じて、海外の方に日本に対するより広い理解を持っていただきたいという思いと、世の中には多種多様な視野や価値観があるということを知っていただきたいという、2つのメッセージが込められています」 ――リニューアルに伴い編成方針や放送時間などに変更がありましたか 今村「名称は変わりましたが、我々が目指すものはこれまでと大きく変わるものではありません。引き続き、公平・公正で信頼できるニュース、良質な番組をお届けする公共メディアであるところは堅持します。昨今、フェイクニュースが話題になっていますが、こういう時代だからこそ、正確で信頼されるニュースを伝えていくことが重要ですし、良質な番組を提供することが必要です。NHKのブランドを活かしながら、日本の的確な情報を世界に発信していくことで、日本に対する理解が深まることを目指していきます。 編成に大きな変化はなく、これまで通り、24時間、平日・土日とも毎正時からニュース番組を放送し、後の時間に様々な番組を放送するという仕立ては変わりません」●注目の新番組と15分番組枠がスタート ――平成30年度の新番組について、概要をお聞かせください 今村「経済番組では、日本とアジアの最新の動きや企業の戦略・開発の最前線をクローズアップし、その背景や影響をグローバルな視点で紹介する『Biz Stream』と、世界中で多く使われている日本発の製品に焦点を当て、開発秘話や苦労話などを通して、日本のモノ作りの神髄を伝える『JAPAN’s Top Inventions』が始まりました。スポーツ番組では、2020年に向けて気運を高めるために開発した『J―Arena』がスタートしました。この番組では、柔道など日本発祥の競技や、日本が世界トップレベルの競技を紹介するほか、競技会場とその周辺の情報もお伝えします。東京オリンピック・パラリンピックに向けては、五輪開催国の小・中学校の生徒が、競技に参加する特定の国や地域を応援する活動『一校一国』の取り組みを紹介する番組『Kids Meet the World』が始まっています。この番組では、日本各地の子どもたちと世界各国の子どもや選手との心温まる交流を描いていきます。 新たな取り組みとしては、スマートフォンでの視聴を想定した15分番組を放送する『15Minutes』という枠を設けました。その中の『A・B・C Tours』という番組は、アジアの映画スターが日本映画のロケ地を訪ねて日本の魅力を彼らの目線で伝える番組です。第1回はタイの俳優が北海道のロケ地を訪ねました。同枠の『3―Day Dare Devils』は、アジア各国の有名人が3日間日本に滞在し、様々なことに挑戦する番組です。彼らの目線で日本の風景、日常生活を360度カメラ、ヘッドマウントカメラで撮影、インパクトある映像を届けます。この枠がどのように受け入れられるのか、放送時間は15分でいいのかなど模索し、さらにブラッシュアップしていきます」●世界中で約3億世帯が視聴可能 ――「NHKワールド JAPAN」はどのくらいの規模で視聴されているのですか 今村「テレビ国際放送の現在の視聴可能世帯数は、世界でおよそ3億世帯です。ちなみにこれは各国の衛星放送やケーブルテレビなどを通して視聴していただける世帯数です。また、インターネットで放送と同時に配信していますので、こうした衛星などによる事業者から配信されていない国・地域の方々でもインターネットで視聴していただいております。今後はあらゆる伝送路を通じて、さらに我々の番組をお届けできるよう、努力していきます」 ――海外の視聴者からはどのような反響がありますか。また、放送を見てもらうため、どのようなプロモーションを行っておられますか 今村「海外の視聴者からはメールで意見や感想などをいただいているほか、定期的に意見などをいただける番組モニターの方が250人ほどいらっしゃいます。そのほかアジア・アメリカなど各地で、現地の皆さんに集まっていただき、番組の上映会を行った後、ご意見を聞かせていただくグループインタビューを行っています。 プロモーションについて、イベントなどを通じたPRの取り組みも一定の効果はありますが、今後はSNSをさらに活用し、視聴者それぞれに直接届くプロモーションに力を入れていく予定です」●VODでは多言語サービスが拡充、安心・安全情報を届けるアプリも ――インターネットを使ったサービスや取り組みなどについてお聞かせください 今村「『NHKワールド JAPAN』の全番組は放送と同時にインターネットで同時配信しています。また、放送後は約40の番組がビデオ・オン・デマンド(VOD)で視聴できます。このVODに関しては、英語のほか、中国語・韓国語・インドネシア語・ベトナム語・タイ語・スペイン語、それにフランス語で字幕を付けた番組をインターネットで配信する多言語サービスの拡充を図っています。昨年度は200本ほど配信しましたが、今年度は1000本以上に拡大する予定です。それぞれの国の言葉でNHKのコンテンツを見ていただければ、より日本に関心を持っていただけると期待しています。 さらに新しい取り組みとしては、スマートフォンなど、モバイル端末向けサービスとして、地震や津波が起きた際の情報警報やニュース速報を英語でお届けするプッシュ通知サービスを今年2月から始めました。NHKは視聴者の方に安心・安全な情報を届けるのが大きな使命ですので、訪日観光客の方々にも正確な情報をお届けすることが重要と考え、開発しました」 ――アジアは引き続き重点地域ですか 今村「アジアの情報を世界に発信することも我々のミッションのひとつで、日本発のメディアであると同時に、アジアの視点も大切にしています。例えばバンコクの拠点からは、月~金曜にアジアの情報を『NEWSROOM TOKYO』という夜のニュース番組の中で提供しています。また中国にも記者を派遣し、最新の情報を出しています」 ――平成30年度の編集の重点事項重点施策の中に国際放送では「国内連携強化と番組の選択・集中」とありますが、これについてご説明ください 今村「例えば日本国内のある地域で制作・放送したローカル番組を英語化して『NHKワールド JAPAN』世界に発信するという試みです。またその逆に、日本のある地域を取り上げた英語の番組を日本語化し、その地域に向けて地上波で放送することにも取り組んでいます。お互いの番組を相互乗り入れし、流すことで素材を効率的に生かすことができますし、連携することで海外・日本の視聴者のニーズに応えられるのではないかと考えています」●日本人も楽しめる「NHKワールド JAPAN」 ――日本人が「NHKワールド JAPAN」を視聴する際、どのように楽しみ、利用したらよいでしょうか 今村「海外の企業とビジネスをしている方には、外国人と商談する際、いま日本で話題になっているトピックスが英語でどのように表現されているのかを知る、ひとつの参考になると思います。『NHKワールド JAPAN』のサイトでは、テキストで確認することもできます。また、地方にお住まいの方には、海外からの観光客が来たとき、自分が暮らす観光地や観光名所がどのように説明されているのか、どういうところが魅力だと説明されているのかを、外国人の目線で知ることができますので、改めて地域の魅力を再発見することができるのではないでしょうか。日本国内でも、インターネットで視聴できますし、無料の専用アプリをダウンロードすれば簡単に見ることができますので、ぜひご覧ください」 ――では最後にPRコメントをお願いいたします 今村「『NHKワールド JAPAN』の番組が、世界中の視聴者の方にとって日本をより広く、そして、より深く知っていただくきっかけになればと思っています。それによって、日本への共感の輪が広がっていくよう、スタッフ一同、力を合わせて頑張っております」
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