「放送法への反対論・川島武宣教授」
第1部 放送民主化の夜明け(昭和25年) 衆議院電気通信委員会の放送法案に関する公聴会は二日目(二月八日)を迎えた。 この日は午前十時二十三分から開会され、公述人も小川忠作(全国ラジオ電機商業協同組合連合会副会長)、河田進(日本放送労働組合=副委員長)、辻二郎(科学研究所主任研究員=工博)、藤原義江(歌手・藤原歌劇団主宰)、川島武宣(東大教授)、新名直和(元NHK常務理事)、長谷川才次(時事通信社社長)、村岡花子(評論家)、柳沢健(評論家)など多士済済の顔ぶれだった。 多くの参考人が立って、放送法案に対し一応の賛意を表したなかで、ただ一人これに反対論をとなえたのは川島東大法学部教授だった。 それも藤原義江氏のユーモラスな公述のあとだけに、委員室はピンと引き締まった。 川島氏は「この法案に対して私は全体的に反対の意見をもっております」と論旨を明らかにしたうえで「まず第一にこの法律は、日本放送協会に対して国会と政府とが非常な力でもって統制をし、監督をするという点に大きな眼目があるように思えるのであるが、はたしてこのようなコントロールをする必要があるだろうか。私は非常に疑問に思う。 (中略) なぜかといえば言論の自由が、もし権力の手に握られるようなことがあっては民主主義というものが成り立たない。むしろ直接民衆の監督統制のもとに置くことを望みたい。 会計検査院の監督も国家統制のおそれがあるし、経営委員の総理大臣任免制度は、政党政治によって左右されるおそれがある」というものだった。 このような川島公述人(の放送法案反対意見に対して高塩三郎、中村純一、受田新吉、松本善明、田島ひで氏らの委員から突っ込んだ質問が出された。 質問の主旨を大別すると①NHKの経営委員の任免権を総理大臣が持つことの是否、②言論の自由とは「全くの自由放送」であってよいのかといったものだった。 川島氏はこれに答えて「いまは民自党政府であるが、いつか他の政権にとって変わったらNHKの経営委員の更迭があるかもしれない。 そうなると放送はその時の政党の意のままとなり、不偏不党性が失われるおそれがある。また時の政府の意のままに経営委員の首のすげ替えが行われるようでは困る。言論の自由も同じ意味を持つ」と自説を変えなかった。 (第56回に続く)