連載にあたって
わが国でラジオ放送が開始され来年で100年を迎える。当紙「電波タイムズ」の創設者、阿川秀雄氏(1917‐2005)は、戦後間もなく、当時の時事新報社の記者として、放送や通信の取材を開始。以来、生涯を通じ放送通信の取材に関わり続け、放送の歴史とともに歩んできた。
晩年、記者時代の取材メモなどを基に、電波・放送の歴史をたどる、「続・私の電波史」と題した本を上梓した。
800頁に上る本書には、戦後、放送法を含む「電波三法」が制定され、電波が国民のものとして解放された当時の様子から、放送が情報社会に欠かせない存在として発展してきた、およそ50年にわたる放送の歴史と、その舞台裏までが詳細に記されている。
本書のなかには、今日の放送の礎を築いてきた多くの人々が実名で登場する。そうした人たちの当時の、なまの証言、放送通信の大きな転換点に立ち苦闘する姿が、取材者の視点から克明に記録されている。また、そこには、電波や放送が国民のものとして解放された当時の興奮も伝わってくる。
放送100年を迎え、放送は、インターネットの進展などで、いま大きな転換期を迎えている。この節目に、本書を通じて、戦後の放送法制定の過程や、その後の放送の発展に尽力した先人の努力を改めて振り返り、わが国の放送の原点を確認するとともに、放送に期待されてきたミッションを知ることは、次の放送の在り方を考える上で欠かせないはずだ。こうした思いから、本連載を始めることとした。
本連載は、当時の阿川氏が記した「続・私の電波史」の中から、主として放送に関わる部分を、編者が時代別・テーマ別に再整理したものである。ただ、当時の空気を可能な限り伝えるため、内容については、表現を含め出来るだけ手を加えず、執筆当時のまま掲載することにした。
この先の放送だけでなく、今の放送の在り様を考える上でも極めて示唆に富むものであると確信している。 これを機に、社会全体が改めて「放送」を考えるきっかけの一助となることを願っている。
第一回は、阿川氏が放送通信専門の記者として取材をスタートするにあたり、今のNHKの前身である社団法人日本放送協会の門を叩くところから始まる。
その後、放送法を含む電波三法の制定、今のNHKの成立、民放の誕生、テレビの登場など、戦後の放送の歴史をたどる形で記録は綴られていく。
(編者注)
阿川氏の著書において、現在のNHKの前身である「社団法人日本放送協会」についても「NHK」の呼称で記されているため、それを踏襲している。
(編集・電波タイムス社顧問:大橋一三)