時代劇専門チャンネル「鬼平犯科帳」4作品一挙放送 エグゼクティブ・プロデューサー宮川朋之氏に聞く

 日本映画放送株式会社(東京都千代田区、石原隆社長)が運営するCS放送「時代劇専門チャンネル」は、同チャンネルが制作し、昨年5月に劇場公開された劇場版「鬼平犯科帳 血闘」を1月13日にテレビ独占初放送する。また、同作の初放送に併せ、テレビシリーズ3作品も1月12日、13日に一挙放送する。「鬼平犯科帳」シリーズのエグゼクティブ・プロデューサーを務める同社常務執行役員の宮川朋之氏に「鬼平犯科帳」への思いと4作品一挙放送について話を聞いた。

 

まとめて楽しんでいただける絶好の機会

 

 ――24年は時代劇専門チャンネル制作の新たな「鬼平犯科帳」4作品が放送・劇場公開され、大きな注目を集めました
 「ありがたいことに“楽しめた”“面白い”というお声を数多く頂戴いたしました。それと同時に、私どもが新たな『鬼平犯科帳』を制作させていただけたことに改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました」
 ――「鬼平犯科帳」は、特に人気の高い作品ですが、本作への思いをお聞かせください
 「当チャンネルはおかげさまで2023年に開局25周年を迎えることができました。しかし、当初は“時代劇のライブラリーだけを再放送するチャンネルの寿命なんてせいぜい2~3年だろう”という声もありました。ところが、中村吉右衛門さん主演の『鬼平犯科帳』を一押し番組として放送させていただいたことで少しずつ認知度が上がり、ついに700万世帯を超えるお客様にご視聴いただける有料専門チャンネルの中でも屈指の人気チャンネルになることができました。地上波で新作の時代劇が作られなくなった今、池波正太郎先生の意を受けて中村吉右衛門さんが主演された時代劇の金字塔、『鬼平犯科帳』の伝統を継承するのは、微力ではありますが我々ではないか、という思いがありました。ご恩返しという意味も込めて、強いこだわりと熱い志を持ち、新たな『鬼平犯科帳』の制作に取り組ませていただきました」

 

世話物として描く

 

 ――一年の間に新作を4本放送・劇場公開するのはかなり大変だったのでは?
 「1月のテレビスペシャル『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』から始まり、5月の劇場版『鬼平犯科帳 血闘』、そして6月、7月に2本の連続シリーズ『鬼平犯科帳 でくの十蔵』『鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛』と盛大なお祭りを1年かけてやってきた、という感じです。4作品のカラーはそれぞれ違いますが、様々なお祭りをお客様に楽しんでいただきました。そして25年の1月、時代劇専門チャンネルという大きな敷地の中でいよいよ4つのお祭りが、一つに集まります。ご契約してくださっているお客様には、まとめて楽しんでいただける絶好の機会になるものと期待しております」
 ――数多ある時代劇の中で、「鬼平犯科帳」はなぜ突出した人気があるとお考えですか
 「池波正太郎先生が『鬼平犯科帳』を手掛けられるまでに10年近く構想を温められたと伺っています。池波先生はこの作品を単なる捕り物としてではなく、むしろ世話物として書きたいというお気持ちがおありだったというのです。世話物を書くにはご自身の筆はまだ硬いとお考えになられ、いくつかの作品を経て柔らかさが熟成されるのを待っていたと。どんな人にも良い面があれば悪の面もあります。主人公の長谷川平蔵しかり、『鬼平犯科帳』は、盗賊改方の役人から町人、盗賊に至るまで、清濁併せ持った人物が数多く登場する世話物として描かれています。そんなところが時代劇ファンの琴線にふれるのではないでしょうか。ですから、今回の4作品も世話物というところをハズさないように心掛けました。もちろん、捕り物としての醍醐味は生かしつつ、人の情や機微を描く世話物であるところを大切に作ったつもりです」

 

地上波では放送せず

 

 ――4作品一挙放送について、編成の面でお考えになっていることはありますか
 「今、コンテンツの出し口は地上波放送、BS放送、有料専門チャンネル、配信など多様化しています。我々はトレンドをふまえ、新たな『鬼平犯科帳』をどの媒体に、どのように出すかを考えました。そこで今回の4作品については、時代劇専門チャンネルだけで独占放送することといたしました」
 ――地上波では、当分放送がないということですか?
 「我々が提供している作品はアクティブシニア層を狙ったコンテンツで、いわゆる消費活動が活発な若年層向けのコンテンツではありませんから、今の地上波のビジネスモデルには合わないわけです。地上波でクライアントがつかないのなら無理に編成してもらうよりも、時代劇専門チャンネルに加入してくださっている700万世帯のお客様を大事にしたいと思います。だからこそ、この4作品は、時代劇専門チャンネルでご覧いただきたいという思いが強いのです」
 ――そういうお考えになったのは、やはり、配信サービスが伸びているからでしょうか
 「それは確かにそうです。Amazonプライムビデオには『時代劇専門チャンネルNET』という配信サービスがありますが、今後はより伸びていくものと考えています。今、地上波が手放したプロ野球や音楽番組、アニメ、そして時代劇が配信でどんどん花開いています。有料でも見たいものは見る、という文化がようやく定着してきたことを感じています。時代劇専門チャンネルでしか放送しないことについては、賛否両論があるかと思いますが、チャンネルの方針として初志貫徹したいと思います。主演の松本幸四郎さんをはじめ出演者の方々、京都の制作スタッフと、本格時代劇を粘り強く作っていけば、おのずと多くのお客様にご支持いただけるという自信はあります」

 

『血闘』は見どころ満載

 

Ⓒ「鬼平犯科帳 血闘」時代劇パートナーズ

 

 ――では、4作品それぞれの見どころをお聞かせください

 「放送順に申しますとまず、テレビスペシャル『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』は、長谷川平蔵の青春時代を描いた作品で、松本幸四郎さんのご長男・市川染五郎さんが若き日の鬼平、銕三郎を演じています。染五郎さんのフレッシュな魅力を存分に堪能できる作品です。
 続いて劇場版『鬼平犯科帳 血闘』は、5月の劇場公開後、配信やDVDなどには一切出しておらず、今回がテレビ独占初放送となります。本作は中村ゆりさん演じる“おまさ”が密偵になるまでを描いており、おまさを中心に物語が展開します。中村さんはクランクイン前から日本舞踊や所作の稽古をされていました。その積み重ねが映像に出ており、本当に素晴らしいです。それと平蔵の敵役・網切の甚五郎役の北村有起哉さんがまた、いいんです。ヒール役ということで、憎々しいんだけれど、過去に悲しく悔しい思いを背負っているからこその悪役を好演されています。さらに、映画ならではの派手な殺陣のシーンにも注目していただきたいです。見どころが沢山ある作品ですので、劇場公開時に映画館へ行けなかった方もご自宅でたっぷり楽しんでいただければと思います。
 連続シリーズ『鬼平犯科帳 でくの十蔵』の見どころは、やはり同心・小野十蔵役の柄本時生さんのお芝居です。中村吉右衛門さん版の『鬼平犯科帳』では、お父様の柄本明さんが同じ役を演じていますので、そういう面でも興味深いですよね。それと、本作のラストで平蔵が十蔵のことを想い、背中で心情を語るシーンがあるのですが、幸四郎さんの姿が素晴らしいので、ぜひ見逃さないでいただきたいです。
 同じ連続シリーズ『鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛』は、和田聰宏さん演じる密偵・小房の粂八の葛藤を描いた作品です。人間は何を信じて生きるのか、池波作品ならではの哲学的で深い内容になっています。
 また、4作品を通して見ていただければ、幸四郎さんがどんどん長谷川平蔵と一体化していく姿を感じていただけると思います。伝統ある役ですから、最初はプレッシャーもあったと思うのですが、ご覧いただいた方々の評判もよく、ご自身も自信をつけられ、演技のスケールがより大きくなっていきます。僭越ながら、そんな幸四郎さんの成長を感じられることも大きな見どころの一つだと思います」

 

【「鬼平犯科帳」4作品一挙放送情報】
▷劇場版「鬼平犯科帳 血闘」(1月13日〈月・祝〉午後1時/7時、深夜1時ほか。独占初放送)
▷テレビスペシャル「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」(1月12日〈日〉午後1時、13日〈月・祝〉午後5時ほか)
▷連続シリーズ「鬼平犯科帳 でくの十蔵」(1月13日〈月・祝〉午後3時/10時ほか)
▷連続シリーズ「鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛」(1月13日〈月・祝〉午後4時/11時30分ほか)