実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第48回

「注目集めた放送法巡る公聴会②」

第1部 放送民主化の夜明け(昭和25年)
午前十時二十四分。衆議院電気通信委員長辻寛一氏が、おもむろにこの日のテーマである放送法案の趣旨等について説明、公述人には最初に一人二十分程度発言してもらい、次いでその発言に対して委員の質問を許すと前置いて、神野(かみの)金之助氏から陳述を求めた。
 神野氏は、当時中京財界を代表する一人で、のちにCBC(中部日本放送)の設立に参画したり、またNHKの経営委員にも選ばれた人で、長身温厚な英国型の紳士といわれた人物である。
 神野さんは冒頭に「このような法律ができることは、まことに結構なことである」と、放送法に賛意を表し、次いで「全国民を基盤とする特殊法人として公共放送を行うNHKの設立は時勢に適したものであること、これと並行して商業放送(広告放送)を行うことができるようになることは、いわゆる産業の発展に寄与するものであり、とくに両者の競争によって放送文化が高まることは望ましい。ただ、放送法を詳さにみると会計検査院等の監督がきびしさに過ぎる感じがあるので考慮が必要だ」と結んだ。
 二番目に起った水谷八重子さんは「この法律ができて、NHKのほかにたくさんの放送局ができると、いい面では番組の競争により、よりよくなってくると思われるが、逆に芸能人の奪い合い、番組の低下につながることを恐れる。
 また芸能人に対する保護(税制改正)への配慮と地方文化の向上をはかれるような措置が望ましい」と芸能人代表らしい表現で満堂の耳目を集めた。
 三人目は朝日放送設立準備委員の杉山勝美氏、そして四番目はNHK会長の古垣鐵郎氏であった。
 杉山氏は「この法案には、いろいろな欠点と修正を要すべき点が多々ある」といいながらも、原案に原則的に賛成、もっぱらNHK攻撃を展開した。
 その第一は「(いままで)NHKの独善的プロによりまして、いかに国民大衆が迷惑し悩んでいるか。これは日日の新聞、月々の雑誌のラジオ評などが指摘するところでありまして、これは世論の一致するところである(原文のまま)」という番組批判であった。
 そして「その不満をもつ人々が全国から今日まで三十九の民間放送局を申請していることでわかる」と主張した。
 次に、この法案についてNHKが放送の自由性が失われると反対している(と聞く)が、これは不穏当である。それならば、むしろNHKは純然たる民間放送になるのがよくはないか。
 またNHKは現在第二放送の拡充を申請しているが(われわれは)この第二放送(の波)を解放してもらいたい。
 また第三十二条で聴取料月額三十五円と明示しているのは不当である。かりに一歩ゆずって三十五円とするのなら、そのうちの二円、三円、あるいは別に五円を徴収して民間放送の技術研究費などに使用させるべき。
 結論的にいえば①本案に賛成②NHKの法案反対論は不当③NHKの電波、波長の独占はいけない④NHK第二放送を民間放送に解放せよ⑤特典、特権は協会と民放は同一とすべし⑥民放に大きな門を開くこと⑦民放企画者側の泣き声には不賛成である、としめくくった。
   (第50回に続く)

公述人席に立つ水谷八重子さん

公述人席に立つ水谷八重子さん

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

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