実録・戦後放送史 第77回
「電波監理委員会が始動②」
第1部 新NHKと民放の興り(昭和25年)
8月18日開催された「無線局(放送局を除く)免許の根本的基準」をめぐる聴聞には、利害関係者13名、電波管理委員会及び職員19名、傍聴人83名、参考人2名の出席によって行われた。
まず当局側から「事案」の説明のあと利害関係者から次のような意見が述べられた。
電気通信省(吉田修三販売計画課長)原則的に事案に賛成する。但し公衆通信業務を行う局についての第3条の1、2項は削除されたい。理由は重複を避けるためである。
全国水産無線協会(梅田一正会長)原則的に賛成するが、特に漁業生産者を強く拘束しないよう運用に幅を持たせて欲しい。
時事通信社(菊地四郎氏)新聞通信業務用無線局がどの範ちゅうに入るのか明確でない。また不時の災害報道用としての非常用無線局の開設を許可する方途を講じられたい。また報道専用の無線会社の設立許可を考慮されたい。
三重県南部漁業無線組合(川崎真海岸局長)免許人を県営でなく一県一単位の組合等とすることは電波の効率的利用の面で賛成である。特に法人格のある組合に限定し、県その他から補助金を出せば無線従事者養成にも役立つ。
無線通信工業会(橘弘作副会長)原案賛成だがアマチュア無線についての免許基準案が示されていないのは何故か。アマ無線を早期に免許しないと、いたずらに〝モグリ電波〟が増えるばかりで電波界の混乱を招く。
神奈川県水産試験場(永井三夫場長)現在三崎のマグロ業者の経営は非常に苦しく、任意組合の結成などは経済的に不可能に近い。民主化の名のもとに行う今回の措置には反対である。
水産無電協会(長津定理事)現在の漁業無線は原始的不経済そのものだ。全国を四地区程度に分けて無線協会を作り運用すべきだ。
このほか原岡善次氏(長崎県無線協会長)、同本田大吉副会長、苫米地貢氏らは一応原案に賛成するとしながらも、当時の漁業界の不振を訴え、あらためて任意組合等を結成し、これに免許を与えることは財政上困難であると主張。
水産庁の松任谷漁政部長も「新たに任意組合を作るより現在のような県営または協同組合の経営が望ましい」と、当時の漁業経営の困難さを浮き彫りにした主張を行った。
また小野孝国警本部通信監は「一応原案に賛成するが、一部の字句や表現に不十分のものがあるほか、研究機関を持たない現在の国警の実情から「実験局」について特別の配慮を要望したい」と述べ、最後に監理局側から次のような総括的答弁があってこの日の聴聞を終えた。
長谷電波監理長官の答弁 ①現在のところ報道専門の通信社設立は考えていない②アマチュア無線については「本事案」とは無関係であるが、問題の重要性から別個に扱うべきと考える。但し占領下においての免許は時期尚早である③漁業経営の不振は理解できるが、無線局の免許は「関係者全体の民主的利用」を目的としている。
かくして初の聴聞は終り、この基準は一部修正のうえ9月10日に施行された。

写真は世紀の第一回「聴聞」会場
阿川 秀雄

阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
本企画をご覧いただいた皆様からの
感想をお待ちしております!
下記メールアドレスまでお送りください。