実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第78回

「放送局開設の根本的基準・聴聞①」

第1部 新NHKと民放の興り(昭和25年)

 電波監理当局が更に解決しなければならない大問題は、放送局免許の物差しである免許に関する根本方針だ。「放送局の開設の根本的基準」(電波監理委員会規則)を制定しなければ、免許処分への目安が立てられないからだった。
 この「根本的基準案)」は、昭和25年9月28日に公示されたが、電波監理委員会は、同案について意見を聞く聴聞を10月19日から開催して、できるだけ早く規則を制定しようと、その聴聞を主宰する審理官に西松武一、同補佐審理官に柴橋国隆両氏を指名した。
 西松氏を主任にした理由は「ブランケット・エリア」とか空中線電力に関する事項など技術に関する問題が多く含まれていたからである。
 そこで少し堅苦しいことになるが「根本的基準」の概要について紹介して置きたいと思う。
 第一に「その(放送局の)免許を受けようとする者が、確実に事業の計画を実施できるものでなければならない」という大原則が前置きされ、第二に「免許を受けようとする者が設立中の法人であるときは、その設立後も事業の計画が確実に実施できるものでなければならない」とした。
 また電力については「わが国の 地理的条件などを考え、電波の経済的、能率的利用の点から標準放送(ラジオ)を行う放送局の空中線電力は、特別の場合を除いて50KWをこえないこと」とあり、次に「放送番組については、不偏不党であり、かつ公共の福祉に適合するものであることを要し、従って特定の宗教や思想だけを布教又は宣伝するものであってはならない」と規律。
 商業放送については「スポットアナウンスを放送する場合には、それが一部の利用者の独占になってはならない」と番組編集についての基本原則を明示し、また広告主の独占とならぬよう規律した。
 さらに複数の放送局が開設となる地域では「同一放送区域において二局以上の放送局から同一番組が放送されることは、受信者が放送を受信する選択の範囲がそれだけ少なくなるから、なるべく同一番組が少ないことが望ましい。
 このため同一放送区域において一日の放送時間のうち三分の一以上が他の局の番組と完全に同一になってはならない」。要するに「その放送局を開設することが、放送の公正かつ能率的に普及することに役立つものでなければならない。
 従って一地方にのみ放送局の偏在することは許されない」とあった。
 また「ブランケット・エリア」(後述)についての規定、放送の種類、放送時間、日本放送協会の放送など電波監理委員会は具体的に細かい規定を行った。
 こうした基準(案)を巡って聴聞は白熱の論議を展開するのだった。
(第79回に続く)

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

是非、感想をお寄せください

本企画をご覧いただいた皆様からの
感想をお待ちしております!
下記メールアドレスまでお送りください。