放送100年特別企画 「放送ルネサンス」第2回

小松 純也

番組プロデューサー

小松 純也 さん

小松純也(こまつ じゅんや)氏。1967年生まれ。兵庫県西宮市出身。京都大学卒。株式会社スチールヘッド代表取締役。「ダウンタウンのごっつええ感じ」「笑う犬の生活」「笑っていいとも!」「SMAP×SMAP」「トリビアの泉」「IPPONグランプリ」ほか多数の番組制作に携わる。現在NHK総合「チコちゃんに叱られる」TBS「人生最高レストラン」、Amazon prime video「ドキュメンタル」などを企画、演出、プロデュース。

小松 純也さん インタビュー

作り手がテレビの特性にちゃんと向き合っているか

2024年9月6日

ご自身と放送との関わりについて

テレビは社会の窓であり、世界の窓だった。テレビを見ながら世界はどうなっているのか、何が正しいとされているのか、何がまちがっているのかなどを小さい時から学んでいた。それはニュースだけではなく、アニメーションや「素晴らしい世界旅行」、「驚異の世界」などの番組をよく見ていて、テレビによって世の中を知り、その中で育ってきたというのが実感としては一番大きい。

放送が果たしてきた役割と、その役割は現在変ったのか?

やっていることは変わってはいない。機能としても変わりはないと思うが、結果がだいぶ違う。世の中の状況が変わってしまって、テレビを見なくなった若い人たち、子供は、見たいものを見ることができる配信・インターネットの利便性にひかれている。一方、自分の見たいものだけを見るという人は、果たして世の中のことをどれぐらい知ることができるのかという危機感は強く持っている。
仕組みとして一つのことを同時に沢山の人に届けるということが放送の一つの根本だが、それが公共というものを作ってきたと思う。また放送は昔のオールドルールで作られている。インチキをやってはいけない、嘘をついてはいけないと、これだけ厳しいルールで縛られるメディアが今後生まれないだろう。
嘘を言わず、厳しく常にいろんな人にチェックされているものが、世の中の情報の伝え手として存在していることは、本当に必要なことだ。しかし、それをどう見てもらうようにするのかが課題となる。
実際、今の世の中、アメリカの政治周りで起きていることや、ロシアでのプロパガンダなどなど見ると、やはりインターネットというものが、権力側にとって使い勝手が良いということを非常に感じる。自分の都合のいい情報だけを一方的に流すということがまかり通り、人がそれを真に受けて、社会が動いてしまうっていうことが実際起きている。
日本でも最近、銀座の宝石店にいわゆるブラックバイトで雇われた人が覆面かぶって白昼堂々強盗に入るという事件があった。あれはテレビを見ていたらやらないだろうと僕は思う。ネットでしか情報を得ない人は、世界は自分の見たいものだけでできているようになってしまう。そういうことをやったら捕まるということすら知らない、非常に社会的なリテラシーが低い人たちが増えているような気がする。
以前は朝になると親が取っている新聞が届き、目に触れる。テレビはついているので様々な情報が入ってくる。その中には、知らなくていいことに加え、知りたくもない興味のない情報もある。そのような、いわゆる〝ノイズ〟として、情報が生活の中で入ってくる環境をいかに作れば良いのか?と切実に思う。

放送とネットの関係とその在り方について

配信の仕事もしているが、実際制作現場で使える予算は、やはりワールドワイドで展開するものは大きい。
制作者として見れば、昔はエンターテインメントの出口は極端に言うとテレビしかなかった。それはドラマであれ、我々が作るようなお笑いやバラエティー、さらには映画もテレビがプロデュースしているものもあった。音楽もドラマや映画に関連していたので、エンターテイメントにおける本当に王様というポジションで、何だってテレビでやってきた。
今こういう時代になって、テレビの作り手がテレビの特性というものにちゃんと向き合っているのか?という疑問は甚だしくある。

放送の課題と強みについて

例えばこの間のWBCやサッカーのワールドカップなどについては、みんなと一緒に同時に何かを楽しみたい、知りたいという共時性を求めてみんながテレビを見るという状況が生れた。
みんなと一緒に同時に何かを楽しみたい、知りたいという特性は人間の根本にある。その特性をかなえるものは、テレビが一番、今でも向いている。すでに仕組みが出来上がっており、一番手軽にできる。配信だったら幾万幾億の中から探してたどり着かなければならないが、テレビはせいぜい10ぐらいの中から選ぶことができる。
環境が整っているという有利なアドバンテージがあるにもかかわらず、制作者たちはそのテレビの共時性を生かしていないように見える。
企画開発を僕らの仕事だとするなら、そこにちゃんと着目して、そこに集中してものを考えなければならない。
テレビしか色々なものを同時に見せることができない状況に甘んじてしまった。その時代はそれでよかったとかもしれないが、今までの勝ちパターン乗り、何でもテレビでやればいい、テレビだからみんな見るという意識で、配信でも同様に楽しめてしまうものを作り続けている。

放送の可能性について

ネットの情報がまず当てにならない、信用できないということが広がりつつある。ルールがない。信憑性が担保できない状況が続くと、やはり信憑性が担保された情報の価値は上がる。あとはテレビの特性を生かした企画開発だ。そもそも世の中になかったテレビがこれだけ世の中に広まったきっかけは先の陛下のご成婚パレードを青山通りから生中継したことや、東京オリンピックの生中継、力道山のプロレスなど。そこまで足を運ばないと見られなかったものをみんなで一緒に同時に見ることができるようにしたことが、テレビがブレークしたきっかけだ。
ネットは見るためには基本料金がかかる、沢山の中から選ばなければならないなど面倒くささがある。
逆に言うとテレビの弱点だとされていることが全部メリットになっていく。ルールが厳しい、同時にしか一つのものを流せないなどだ。これらは客目線から言うとそうだが、送り手目線から言うと一つのちゃんとしたものを同時にたくさんの人に見せられるという考え方もできる。その強さをどう表現していくのかっていう戦いだと思う。
ルールがない、ルールにコントロールされない情報に全てが支配されるようになった時、世の中どうなってしまうのかも併せて考えなければいけない。さらに、その危機感の高まりから何が起きるかということも、ネットメディア側の方でも予測しておかなくてはならない。
技術的なスペックで言うと、放送でできることは全てネットでできてしまうのかどうか。できてしまうような気はする。ネットの世界に、例えばチェックされた情報とか、インチキがないエンターテイメントなどが出ていくこと自体は別に悪いことだとは思わない。それによりクオリティとか信憑性で、インチキなものを凌駕していくというサバイバルが起こるなら、それは別に悪いことではない。しかし、おそらくは玉石混交になっていく。その見分け方がもう分からなくなった時に、本当に信じられるものは何なのかっていうところで、もう一度テレビのポジションが出てきてくれたらいいなという期待はある。
送信の技術が放送であり続けるかはわからない。ただタイムテーブルが残っていくのか、どちらかというとその議論になるという気はする。最近ではアメリカでも、配信の技術は使っているが、広告が入る、タイムテーブルがあるものが増えていると聞く。テレビのタイムテーブルは、人間のライフスタイルに合った形で洗練され続けた。朝起きて、まずニュースを見て、家事が落ち着いたらドラマ見るというプレゼンテーションが自動でなされ、人間が選び取っていかなくても良い。ネットでもアルゴリズムを開発しているが、それは積極視聴に対するものだ。受動視聴・消極視聴のアルゴリズムはネットでは開発できない、そもそも原理的に難しい。そこはやはりまだテレビが持っているアドバンテージだ。
一方、ネットや配信が敵かというと疑問だ。本当の敵はスマートフォンではないかと思う。もちろん配信も含まれるが、それはごく一部で、時間の奪われ方っていうところでいうと圧倒的にスマホに奪われている。

放送への提言

キーワードは繰り返しになるが共有とスマホに対する大画面。分かち合う楽しさ、同時に体験できるという共時性があるからわくわくする。コンテンツ開発においては、集中的にそこを考えるべきと考えるし、その努力は全く足りてない。
放送局は大画面の使い方に長けており様々なこと行ってきた。さらに、大画面を活用してそこにプラットフォーム作って、そこに1時間に5分だけもニュースを流すとか、文字情報で流すとか、今の中にどういうことがわかるなど一斉に同時に同じものを届けるという仕組みを生かしながらいかにテレビをつけてもらうことを考える必要がある。
現在、多種多様なSNSの中で生きていくっていうような状況になっている。そのような、自分の知り合いとか仲間とか、あるいは好きなもののコミュニティの中だけで生きるというのは、テレビが始まる時代の前の状況に戻っていっているように感じる。
近所で隣の家の梅の花が咲いたから行って、お茶を飲んで綺麗だねってお話をして、ちょっと楽しい会話をして、今日もいい1日だったっていう時代。興味が身の回りにしかない状況に、テレビが登場した。そしてブレイクしたのだ。
今の世の中でみんなに喜んでもらうものは何なのかということを、もう一度ちゃんと考えよう。そこで面白いものを作り一世を風靡することができれば、きっと若者も見るし、テレビをやりたいと優秀な作り手が集まってくる未来もあると思う。

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(敬称略:あいうえお順)