放送100年 特別企画「放送ルネサンス」第7回

野崎 圭一

音楽プロデューサー

野崎 圭一 さん

野崎圭一(のざき・けいいち)氏。1961年6月11日生まれ。神奈川県横浜市出身。1986年、日本大学経済学部卒業。同年ビクターエンターテインメントに入社し、音楽ディレクターとして数多くのアーティストを担当し、アニメ担当セクションでは「機動戦士ガンダムSEED」などの作品に携わった。この間、文化放送インターネットラジオ「超!A&G+」で「のざP」名義でパーソナリティを10年務めた。2020年に独立し、現在株式会社オンビート代表で音響監督、音楽プロデューサー。

野崎 圭一さん インタビュー

放送とネットは隣同士で走り続けて

2024年9月30日

―ご自身と放送とのかかわりについて

 レコード会社の立ち位置として、作品を放送局で流してもらったり、ディレクターに聞いてもらったりするプロモーションとして放送局は身近にあった。最終的にユーザーに届ける手段として放送局に足を運ぶ等、近しい存在。ただ横並びではなく、テレビ局やラジオ局は偉い、相手の方が上という敷居の高い印象が当時あった。
 自分はテレビっ子、ラジオっ子であり、家に帰ったらすぐテレビをつけていた。物心ついたときには家に普通にテレビがあって、その前で家族が集まる時間が日常だった。中学や高校のときは、勉強もしないで夜に起きているという楽しみのためだけに深夜放送を聞いていた。その後、社会人になって、文化放送でインターネットラジオのパーソナリティとして声を掛けられ発信側の経験もした。自分が思うことを共有できる相手が向こうにいるという感覚がとても楽しかった。

―放送開始から100年が経ち、今の放送の役割や変化についてどう評価するか

 自分が育ってきた時代と比べても既に放送の環境とは位置づけがかなり変化している。今の子供たちは遊ぶものも他にたくさんできたので、家族でテレビを見るという姿がほぼなくなってきた感じはする。
 僕は音楽屋なので、今は昔と比べて音楽番組が大幅に減っていて伝える術がなくなっているという点が大きなネックと感じる。ただ、若者が音楽から離れているのではなく、逆に音楽を聞く人数は増えていると考える。例えばYouTubeの再生回数で6億回再生したという話もある。もし昭和の時代にデータを取る方法があったとしても、そんな桁の再生回数は取れなかったと思う。だから実際には、お茶の間や勉強机の上のラジカセから人は離れたかもしれないが、音や映像、ゲームを含めたエンターテインメントから人が離れたわけではないというのが実感としてある。

―出し手側としてテレビの立ち位置をどう思うか

 そこはもう先細りというか、これだけ明確に先端がなくなってくると、もう放水してテレビの先細りという火事を消すエネルギーはないのかなとも思う。制作費がなくなってきている番組と一緒で、面白いことをやろうと思っても、賢い人たちはその前に諦めてしまうのではないか。打席に立って、フルスイングでバットを振るよりも前に打率を考えてしまう、そんな状況を心配している。
 話は脱線するかもしれないが、今はCMが面白くないと思う。CMがもっと面白かったらみんなテレビを見ている気はする。僕らが子供のころには、CMを真似したり、流れる音楽を口ずさんだりしたが、エンタメ度の低いCMは面白くないから飛ばしたくなる。そうなると、録画して後で見ればいいという気持ちを助長する。制作サイドはCMの面白さを、どれだけいま追求しているのかな?と感じてしまう。

―現在ある放送の課題や問題点についてはどう考えるか

テレビの内容が面白くなくなったわけではなく、どうやって視聴するかの習慣の問題で、例えば毎週同じ夜の時間にテレビの前に座って見ることは、各自の生活都合で時間調整は難しいが、朝のワイドショーでは時計代わりに変わらず今もテレビに向き合っていると思う。また、マニアックなアニメ作品は深夜に放送されることが多いが、アニメ好きの人たちは、みんな普通に見ている。つまり年齢層によって、一日24時間の中で見る時間帯が違うだけで、そこは昭和の時代とあまり変わっていないのではないかと思う。
 ラジオでも深夜放送は好きな子たちが聞いているだろうし、関心の方向は多岐に分かれていてもエンタメに接触する率は減っていない。だがテレビやラジオの前に家族全員が座るかっていうと、それはなくなっている。それは、各人が1個ずつメディアを持ってしまったからに過ぎない。エンタメのユーザー自体は確実にそこにはいる。

―放送の未来についてどう考えるか

 テレビとラジオでは違う気がするが、ラジオはある種ジリ貧だったがずっと生き残っていて、映画は逆にジリ貧を超えてから復活してきたりしていると思う。時代が変わっても、ユーザーは必ずいて、求めるターゲットに合う番組さえ流すことができれば、崖っぷちだが、落ちることはなく安定しているような気もする。
 大変なのはテレビ。テレビはメインストリーム過ぎて、人が離れた感が満載だ。かつては、新聞ラテ欄を眺め、今日はどんな番組があるんだろうなどとチェックを楽しみにしていた。しかし、今は新聞さえ取らない家庭も多くなり、ラテ欄の数行の番組宣伝コピーに一喜一憂するわくわく感がない。接触につながる場がない。毎週、同じ時間を作れないというライフワークのスタイルが変化してきた以上、テレビは、この先も、なかなか難しいかなとも思う。

―テレビが生き残るにはどうすればいいか

 それは、なかなか難しいがやはり内容だと思う。例えば、朝や昼のテレビのワイドショーのような、キャスターがニュースを伝えるような番組は、チャンネルの好き嫌いはあっても番組自体に好き嫌いはない。ドラマとかは好みがあるが、毎日の情報に好き嫌いはなく、お客さんがついたり離れたりはないと思う。
 大変なのはドラマ。お金の問題がついて回る。例えばネットフリックスなんかは制作費が莫大にあるので、映像に迫力がある。TVドラマよりも劇場作品に近いクオリティの差をあからさまに感じてしまう。
 そうした中で、すごいと思うのは、TVerだ。翌週の放送やアウトサイドストーリーのような違う物語を同時に放送するといった、昔のテレビでは考えられないやり方をあみ出した。以前は見終わったら1週間待つのが普通だったが、今は、すぐ見られたりする。これは、テレビ屋さんたちの努力だと思う。お手上げだと言って諦めるのではなく、頑張っているメッセージだと受け止めている。

―踏みとどまる工夫が必要ということか

 かつて、斜陽だった映画が顧客離れに踏みとどまったのは、いわゆるシネコンができ綺麗になり、音も良くなり、CGとかによって迫力も出て、作品のクオリティが技術的にも向上するタイミングとも重なり、相乗効果が生まれた。
 劇場の映画クラスになると、音楽のお金のかけ方も大きくなる。僕がかつて携わってきた『機動戦士ガンダムSEED』も、ものすごい観客動員数があった。家のスピーカーでは味わえない、ワンランク上の没入感ができる。また、劇場サイドの工夫では、声を出していい回を作ってみたり、ペンライトを振ってもいい映画もあったり、目立たないけど、この些細な努力と、環境が良くなったことで、映画は踏みとどまった。そういう例もある。

―ネットの普及で放送が置き換わるという議論もあるが、この先どういう関係であるべきか

 放送が生き残る道としてはネットとの共存であり、戦う必要はないと思う。放送とネットは隣同士でずっと走り続けるのがいい。
テレビでも番組によってはクイズのように、リモコンで何かを応募するなど取り組んでいるが、ネットとの共存によって、もっとやり取りの環境が良くなったりすれば可能性は色々広がるのではないかと思ったりはする。方法はあるがまだ考えられていないだけ。
この100年の間にメディア社会は、いろいろな変化があった。僕らがビクターに入ったころは黒いレコード盤だったのが、3年でCDに入れ替わった。その後にMDが出て、DVDもブルーレイに駆逐されてなくなり、今は、もう配信でいいんじゃないかというように、この30年間で激変している。カセットテープもなくなり、あれだけ流行っていたウォークマンを持っている人も今はいない。この先100年後を考えたら、次の時代のメディアがどうなるかは、全然わからない。
 ただ、時代は変わっても、普遍的なものは「年」とか「月」、「春夏秋冬」であり、「月火水木金土日」であり、「一日24時間」といった時間の流れだ。放送が、そうした時間の流れと、うまく付き合うメディアであればいいと思う。そこが無くなると、人々の季節感も朝昼晩の時間感覚もなくなる。
 ネットにはアーカイブがあり、いつでも見ることができるが、その点では放送と異なる。時間とか曜日とか、季節とかと、うまく付き合うものを作っていくことを、放送のクリエイティブな人たちに求めたい。そこだけは変わらないようにしてほしい。

―今後の放送への提言や注文を

 テレビは長い目で見ると消えてしまうメディアかもしれない。だが、画面に向き合うことは、人の生活にとって切り離せない。また、発信する番組を作る人たちも減らないし、それはラジオも映画も同じ。プラットフォームが変わるだけの問題。
だからテレビやラジオがネットに進出して出口を広げていくことには大賛成だ。そうしないと次のステップはない。TVerも、本当だったら仲が悪いはずのテレビ局が手を繋いでみんなでなんとかしようとネットに出た。そのエネルギーは素晴らしいと思う。
 放送は、クリエイティブなものを生み出す存在として、この先も残るはず。僕たちも、エンターテイメントの文化にいるなかで、放送が衰退することなく、色々な形でユーザーに発信して届けていけるよう願っている。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
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