放送100年 特別企画「放送ルネサンス」第8回

亀渕 昭信

元ニッポン放送社長

亀渕 昭信 さん

1942年3月1日生まれ。北海道夕張郡由仁町出身。1964年、早稲田大学卒業。同年ニッポン放送入社。1969年から「オールナイトニッポン」のディスク・ジョッキーを担当。1985年同社取締役。1999年同社代表取締役社長を経て、2006年同社相談役。現在はラジオDJ、ポピュラー音楽研究家として活躍中。

亀渕 昭信さん インタビュー

ラジオの強みはリスナーとのつながり

2024年10月4日

ラジオ業界での経歴についてお聞きしたい

 ニッポン放送に入社したのは1964年。それ以来、ラジオ一筋で生きてきた。テレビに比べれば、ラジオは制作費がそれほどかからない、メディア企業の中でもテレビは大企業だが、ラジオは中小企業。放送メディアの世界は、『音』と『喋り』がなくてはならない。そのような意味でラジオはメディアの原点。ラジオ会社で仕事をするようになって、10年ほど番組作りの現場をやらせてもらった。ディレクターとして番組を制作する中で、『物語』を構成することがラジオ番組では最も重要だということを学んだ。音楽を1曲紹介するにしても物語がなければリスナーの心には届かない
 

入社間もない頃、アメリカに渡られた

 1966年、当時の新しいメディアだったFM放送を勉強するため会社に希望を出し、同年から約1年間、米国へ休職という形で研修に行った。活動の拠点をサンフランシスコにおいて、多くのラジオ局を見学した。また、当時は新しい音楽が生まれた時期でもあり、今では伝説となっているジミ・ヘンドリックスとかジャニス・ジョプリン、ジム・モリソンなど、たくさんの新人アーティストを見ることができた。それらは自分にとって素晴らしい財産となった。
 帰国後、米国で体験したことを話していたら、上司から〝お前、話が面白いからラジオで喋ってみろ〟と言われ、1969年、放送が始まって2年目の『オールナイトニッポン』でディスク・ジョッキーを担当することになった
 

ディクス・ジョッキーを担当していたときのリスナーの反応は

 数多くのハガキが届いていたので、それを見るとリスナーの皆さんが楽しんでくれているんだなと感じていた。それは放送人としての喜びでもあった
 

その後、時には〝渦中の人〟として世間の注目を集めた

 ディクス・ジョッキーを卒業した後はプロデューサーとして番組制作に携わり、編成局長、専務を経て、ニッポン放送の社長に就任した。その時、あのライブドア事件に遭遇することになる。人生、初めての経験であったが、〝一般企業と放送局との違い〟とか〝会社はだれのものか〟というような大きな命題に取リ組むことにより、それまでとは違う使命感が湧き上がってきたような感じだった。結果、役員・社員そして株主の皆さんの大いなる助けもあり、フジメディア・ホールディングスの一員として、新生ニッポン放送の誕生を果たせたことは誠に喜ばしいことであった。
 また、デジタルラジオ実用化に向けた取組みに参画したことも忘れられない想い出の一つ。自分はデジタルラジオ推進協会の理事長に就任(2004年)し、ラジオのデジタル化を図ったが、資金的な問題もあり、結果、形になることはなかったことは残念だった。
 自分の人生を振り返るとラジオ好きの人間が、たまたまラジオの会社に入り、現場で働き、経営者にもなり、本当にいろんな経験をさせてもらった――ということになる。普通のサラリーマンとしてはラッキーだったし、素晴らしい経験をさせてもらったな…という感じで感謝している
 

日本でラジオ放送が始まり、来年で100年。ラジオは人々にどんな影響を与えてきたと思うか

 それこそ様々な番組があり、自分の子ども時代を思い出すと、ラジオは聴く人々に『のど自慢』では癒しを、『尋ね人の時間』では必要な情報を与えてきたのだと思うし、『オールナイトニッポン』や『ラジオ深夜便』では多くの人たちに音楽やトークを楽しんでいただけたのかなと思っている。目を使わないメディア(アイズ・フリー・メディア)といわれるラジオは、日常生活に取って、必要不可欠な道具の一つではないかと思う

 

ただ、現在のラジオ業界は経営的には厳しいのでは

 ラジオ局の経営は今、確かに厳しい状況にある。特にAM局はアンテナ設備の補修や保全で莫大な経費がかかり、経営を圧迫している。そのため、将来AM放送をやめ、FM放送へ移行する動きが進んでいるが、それは経営的には仕方ないことかもしれない。一方、FM放送移行については受信機がどれだけ広がるのか、という課題がある。社員を削り、どうにかやっている放送局もあるが、それでも大変だと思う。
 ただ、その一方でラジオには切り捨てられない何かがあるのも確かだ。音声というシンプルなメディアだからこそ、ネットなど他の媒体と組み合わせることで新たな可能性が見つかるかもしれない。米国では最近、ポッドキャストやオーディオブックといった“ラジオ的な”音声コンテンツが盛んになり、ビジネスとして成り立ってきている。日本ではまだ著作権やマネタイズの面で思うようにできていないが、積極的に新しい技術を取り入れ、研究を進めれば新たな音声メディアとして、生き残る道があるはずだ
  

ラジオ局が置かれた課題をどう考えるか

 ラジオ局の経営は行政の動きに大きく影響される。現在、総務省は28年の全国的なFM転換の制度整備にむけて作業を進めており、また、マスメディア集中排除原則緩和の一環として、ラジオの合併は4局まで容認という方針を打ち出している︒資本関係のことなど、多くの問題が横たわってはいるが、前向きな、早めの対応が求められているのではないだろうか。また、テレビもラジオも、制作現場を支えるために、制作に関わる人々により適正な報酬を支払うことが必要ではないか。優秀な作り手や制作会社がなくなってしまうと、質の高い番組を作ることが難しくなる。スタッフの存続を優先し、ウィンウィンの関係を築くことが、放送業界全体の存続にとって不可欠だと考える。良い現場環境を作り出すことは経営の重要課題のひとつだ
 

ラジオの世界もインターネットによるデジタル化が進んでいる

 先ほども言った通り、音声がデジタルやネットと繋がり、ポッドキャストなど、新たな音声コンテンツとして生まれ変わるなら、それはそれでいいことではないだろうか。ラジオは必ずしも電波で届くものだけではなくなっていくはずだからだ。電波を使った従来のラジオの役割が終わる可能性がある一方、それを補完するリアルタイムのコミュニケーション手段は必要だ。radikoのようなネットサービスが、技術の進歩によってほぼリアルタイムで情報を届けることが可能になれば、ラジオも新しい形で続いていくだろう。
 リアルタイムの正確な情報提供は、特にジャーナリズムにおいて非常に重要。ニュースはその瞬間に伝えることが最大の価値であり、1日前のニュースでは意味がない。災害発生時にリアルタイム放送が大事になのは言うまでもない
 

デジタルがすべてを置き換わっていくと思うか。ラジオリスナーには高齢者が多く、古いラジオを使い続けている人も多い

 人間の心や感情が関わる部分ではアナログ感が大切だ。デジタル技術は生活をサポートするものとして役立つものの、日常のコミュニケーションはデジタルでは完全には置き換えられない。放送も同様で、デジタル化が進む中、アナログ的な価値は残っていくのではないか。災害時のラジオの役割を含め、ラジオは、生活の必需品でもある。FM転換のためには、いまAMでラジオを聴いている人の受信機をFMに代えれば良い。年配者でも使いやすいFMラジオを開発して、全国津々浦々、無料で配るような試みがあってもいいように思うのだが。高齢者のリスナーの方に今、パソコンでradikoを聴いてください、とは言えない。それは非常に難しい問題だ。ただ、本来なら、高齢者の方にこそ、タブレットやパソコンに親しんでほしい、という気持ちは持論としてはある。なぜなら、やはり便利だからだ。そういう便利さは高齢者の方こそ、享受すべきだと思う
 

そういう話を聞くと安心する

 昔と今では、ラジオを聴く方法が変わったが、根本的な楽しみ方は変わっていないと思う。今、年配の方々が学生時代に深夜放送を聴いていたように、現代の若者たちも同じようにラジオを楽しんでいるはず。彼らは物理的なラジオを持っていなくても、radikoや携帯で番組を聴いている。つまり、ラジオは単なるデバイスではなく、今は音声コンテンツそのものがラジオと考えられ、親しまれている。ラジオがいつもそばにある、という人は確実にいる、だからこそ今もラジオは聴かれている。媒体が増えて視聴者が分散しているだけで、ラジオを愛する人たちはまだまだ多い。ラジオの強みは、そういうリスナーとのつながりにあるのだと思う。特に最近は地方のラジオ局が独自の面白い番組を制作している。スマホからradikoプレミアムに加入すると、全国のラジオ放送が1週間さかのぼって聴くことができる。地方の昼ワイド番組などは非常に魅力的なものが多い。故郷の放送を聴くことができるので、ぜひ一度聴いてみてほしい。自分の好きなジャンルの番組がどこかで絶対に見つかると思う
 

最後にこれからのラジオ業界を担う人たちに向けてアドバイスをいただきたい

 人生、いい時も悪い時もあるから、一喜一憂しないこと。いい時にはあまりはしゃぎ過ぎないで、悪い時には立ち上がる努力を。あまり偉そうなこと言えないけれど、自分がやりたいこと、面白いことができるような環境を整えられると良いと思う

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(敬称略:あいうえお順)