放送100年 特別企画「放送ルネサンス」第10回
読売新聞東京本社 文化部記者
旗本 浩二 さん
1965年10月13日生まれ。神奈川県出身。1989年、早稲田大学法学部。1991年、読売新聞東京本社に入社。山形支局勤務を経て1997年から文化部。放送担当として番組やメディア関連の動向を取材。2021年から放送担当デスク。
旗本 浩二さん インタビュー
Contents
ご自身と放送の関わりは
1991年に読売新聞社に入社し、1997年から文化部に配属された。途中、山形支局や大阪文化部に勤務したが、ほとんどの時間を東京本社の文化部で過ごしてきた。文化部では、2年ほど演劇を担当した以外は、ほぼ放送を取材してきた。番組はもちろんだが、放送局の経営や不祥事など、ハード面の取材にも注力してきた。
放送が果たしてきた役割をどう考えるか
日本人の思考のベースを提供してきたのが放送であり、多くの人がテレビから情報を得て物事を判断してきたと思う。例えば、子どもの頃に見た番組に影響され、自分の進路を決めた人がかなりいたのではないか。NHKのドキュメンタリーを見て、国際社会に貢献したいとJICAを目指した人、民放のドラマを見て、教師や警察官、医師に憧れた人もいただろう。子どもたちの進路への影響は大きく、テレビで人生が大きく変わった人も多いはずだ。そういう意味でテレビは日本の現代社会の礎だった。
また、一方でテレビはお茶の間の真ん中にあり、家族を結びつけるという役割も担っていた。家族は皆テレビの前に集まり、ああだこうだと言いながら、コミュニケーションを取る。そういう役割を持っていたのもテレビ。そういう働きはある時期までは確かに機能していた。
そのような影響力を持ってきたテレビだが、近年は若者層を中心に「テレビ離れ」が話題になっている
今、若い世代が見ているのは圧倒的にインターネットの動画コンテンツ。テレビが以前ほど見られていないのは事実だ。最近のユーチューブ動画は編集技術を含め、非常にクオリティが高くなっている。私自身も旅行やグルメの動画をよく見ているが、うまく作っているなと感心する時もある。ニュースも今では帰宅後に、ユーチューブ上のテレビ局のニュースチャンネルなどで一気に見るようになった。非常に便利になったと思う。今後、子どもたちは、テレビではなく、インターネットの動画を見て自分の進路を決めることが増えるかもしれない。テレビの影響力はまだあると思うが、ネット空間が新しい『お茶の間』になっているとも言える。
その要因はやはりデバイスの変化か
2015年にスマートフォンの個人保有率が50%を超え、現在は80%近くまで伸張している。ネットフリックスの国内サービスやTVerが始まったのも2015年で、ここからコンテンツはスマートフォンやタブレットで、しかも個人で見る時代に一気に変わっていった。スマートフォン・タブレットの普及によって、人々の動画視聴のスタイルは革命的に激変した。このことにテレビは決定的な影響を受けた。
動画視聴スタイルの変化はなぜ起きたのか
昔、テレビはリアルタイム視聴が基本で、目当ての番組を見るためには何時までに帰宅しなくちゃいけないとか、視聴者の生活行動を大きく縛ってきた。一方、インターネットは見たい動画をいつでも好きな時間に楽しむことができるし、見逃してしまった番組はオンデマンドで見ることができる。視聴者は放送局が作ったタイムスケジュールの呪縛から解かれ、自分がやりたいことをやりたい時にする、生活時間の決定権を取り戻した。これは本当に大きい。
放送局もインターネットで番組を流す事業を積極的に進めている
民放では当然のこと。視聴者がいる場所に向けてあらゆる伝送路を使い、求められる番組を届けることに資源をそそげばいい。それに伴い、将来は『テレビ局』という呼び方は変わるかもしれない。まず大事なのは番組を作る人。放送の公共性という面を考えると、いろいろな経験を重ね、知識を蓄積してきた放送人が、自分たちの判断で自主自律を守りながら、情報を提供していくこと。これは伝送路が変わるだけで、これからもやることは変わらないと思う。
全てがインターネットに変わって問題はないか
インターネットの強みは双方向性であること。放送はその言葉通り「送りっ放し」で、ややもすると〝上から目線〟になりがちだったと思う。それがインターネットでは、様々な意見・批判がばんばん返ってくる。送り手もそういった意見を謙虚に受け止めれば番組作りも変わってくるのではないか。通信技術がより発達して伝送路が安定し、スピードがさらに速くなれば、より快適なサービスが実現するはずだ。今後、放送は従来のマスメディアとしての役割だけでなく、視聴者一人ひとりのニーズにできるだけ応えていく「パーソナルメディア」としての一面も持つようになるのではないか。
放送局の課題は何か
現在の放送局が制作する番組は大きく分けて報道、娯楽、教養の3つになるが、どれも放送基準にのっとり、公正中立なしっかりしたもので、クオリティは非常に高い。ただ、その一方で何としても若者層に番組を見てもらおうと人気のタレントを使うなど、視聴者に迎合するような演出が増えているのは確か。その原因の一つは、民放では、リアルタイム視聴におけるGRP(※①)がスポットCM取引の中心になっているからだろう。視聴率が放送収入に直結しているのでそれは理解できるが、先ほども言った通り、視聴者はもうデジタルデバイスで時間と場所に縛られず、自由に動画を楽しんでいる。放送業界はリアルタイム視聴率に縛られるビジネスモデルの見直しをさらに進め、視聴者のニーズに柔軟に対応する必要があるのではないか。
放送局の運営はますます厳しくなることが考えられると。では、生き残るために必要なことは
将来、ネットを含む通信がメインで、放送は補完的なものになるのは間違いないと思う。ラジオがテレビに、地上波が衛星波に、そしてアナログがデジタルに変わった。そして今、放送がインターネットに置き換わろうとしているということだ。しかし、それは放送局がなくなる、ということではない。放送の波が通信になって、伝送路がかわっても、どんな時代になっても、優れた番組は求められるし、残るはずだ。質の高い番組を制作し、それを今の視聴者にリーチできる伝送路で提供すること、それが生き残るために必要なことだと考える。
放送界に提言したいことは
これまで放送に関する様々な施策や技術、法律の多くは放送局や総務省の中で議論され、視聴者不在で物事が決まってきたように思う。しかし、サービスの選択肢を握っているのはあくまでも視聴者。中の人たちが決めることではなく、市場の動きによってそのサービスが存続するかどうかが決まる。自分たちが何をやりたいのかではなく、子どもたちはなぜ一日中ユーチューブを見ているのか、我々の放送は今、どのように見られているのかを客観的に捉え、どうしたら見てもらえるのかを考えなければいけない。
先日、放送文化基金賞の贈呈式があり、その席で、これからのテレビについて聞かれた受賞者の黒柳徹子さんが『それは全然心配ない。とにかく志を持ってやりたいことをやり続ければ数字なんて後からついてくる。みんな気にしないで、どんどんやりなさい。大丈夫だから』と話されていた。テレビ黎明期から活躍されてきた黒柳さんのこの言葉は、放送人だけではなく、世の中の全ての人に向けたポジティブなメッセージだと思う。志を持ち〝いいものを作るぞ〟と思う気持ちがあれば、結果は後からついてくる。そのために必要なのは、若い人たちに挑戦できる場を与えること。空振りしてもかまわない、やりたいことがあるならやってみろと、それを言える組織でないといけないし、制作者も自分の思いをとことん貫く根性を持っていなければだめだろう。このご時世、難題ではあるが、放送局は管理主義に陥ることなく、リスクを恐れずに視聴者をあっと言わせる番組を作ってほしい。
※①GRP「Gross Rating Point(グロス・レイティング・ポイント)」の略語。一定期間内に放送されたテレビCMの視聴率を合計した数値
この記事を書いた記者
- テレビ・ラジオの番組および会見記事、デジタル家電(オーディオ、PC、カメラ等)、アマチュア無線を担当
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(敬称略:あいうえお順)