放送100年特別企画「放送ルネサンス」第21回
朝日新聞記者
後藤 洋平 さん
後藤洋平(ごとう・ようへい)氏。1976年、大阪府生まれ。99年、報知新聞社入社。芸能と社会を担当し、01年から読売テレビ「週刊えみぃSHOW」、03年から同「なるとも!」にコメンテーターとしてレギュラー出演。06年に朝日新聞に移り、京都府警、大阪府警捜査1課、広島で原爆平和などを担当した後、14年に東京文化部で放送を担当。19年次長、21年から編集委員。
後藤 洋平さん インタビュー
Contents
―ご自身と放送の関わりについて
1999年に報知新聞社に記者として入り、1年目の途中から大阪本社編集局の文化社会部に配属になった。そこで放送関連を担当し、NHK大阪の朝ドラなどを取材していた。3年目から私自身も読売テレビの番組にレギュラーとして出演するようになった。
上沼恵美子さんの「週刊えみぃSHOW」と、陣内智則さんがMCの情報番組「なるトモ!」に出演した。そこでは、様々なスタッフの方とか、共演者の方々、番組のプロデューサーの方々と接することになった。放送に関わる色々な立場の方々の気持ちを知ることができた。同時に記者として放送のあり方などについても取材していた。
2006年に朝日新聞に移り、最初は京都府警、その後大阪府警捜査1課などの警察取材をしていたが、やっぱりどうしても文化系の取材がしたいと希望して、2014年から東京の文化部に配属され、当時のNHK取材など放送担当となり、現在に至っている。去年は、NHKの経理問題なども記事にするなど、25年にわたって様々な形で放送の世界に関わってきた。
―放送の果たしてきた役割について
放送がいろいろな形で、この国の言論とか思想を形成することに貢献してきた100年だったと思う。玉音放送に象徴されるように歴史の節目には常に放送があり、放送なくして、日本だけなく世界においても、言論や思想、常識といったものが、今のように形成されることはなかったのではないかと思う。少なくとも、これまではそうだった。
ただ、そうした役割を果たしてきた放送は、いま相当の転換期にあると思う。民放もNHK共に経営的にも難しく、「放送の信頼」という面でも以前とは変わってきている。このまま生き残るのは特にテレビにおいては厳しいと言わざるを得ない。
ラジオは社員も少なく、スタッフや出演者がスポンサーを連れてきて、番組を作る形が割と普通になってきていて、コアなファンがついていることも多い。芸能人の中には、ラジオだけはやり続けたいと言っている人も少なくない。これは、コミュニティとしてのラジオの特性であり、残っていくのではないか。ただテレビは、これまでと同じでは厳しいと思う。
―テレビがこの先厳しいのは何故か
我々新聞も同じだが、一般紙と言われるマスコミ的なものが必要とされず、ネットで検索して、自分の興味に特化していく時代に変わってきている。そうした中で、放送法に縛られてまで放送という形で発信するメリットが、相対的に年々低下している。インターネットの番組やSNSは自由に表現ができ、かつそれでマネタイズもできるようになっている。
また、放送の信頼性という面でも厳しくなっていると感じている。「テレビに流れているものは正しいよね」とみんなが思っていた時代は変わってきている。
放送全体の信頼を損ねるようなできごとが、ここ数年続いている。私が実際に取材したNHKの番組で、新型コロナウイルスのワクチンで亡くなった方を新型コロナに感染して亡くなったかのように報じたものがあった。ああいうものは、すごく信頼を失う出来事だったと思う。放送は、少しでもミスがあると社会的に非常に厳しく叩かれる。人間のやることだから失敗はする。しかし、意図的なもの作為的なものはいけない。
これまで100年間、先人たちが築いた放送への信頼という財産を崩すことになり、本当に勿体ないと思う。
一方で、インターネットやSNSは、偽情報の方が拡散される傾向にあり、ある意味そちらの方か影響力を増していく。注目を集めた方がプラスになってしまう世界だ。
―テレビが生き残るのは難しいと
テレビの信頼が変化しているとは言っても、それでも選挙になると、テレビ、特にNHKの「当選確実」の報道をもって選挙事務所で万歳をするといった具合に、放送は信用されている。放送局の持つ調査結果やデータなどは、まだ体力のある放送局の持つ強みとして残っている。
そういうものを何かプラスに使えないか。それを映像や音声でリアルタイムに伝えることもできる。そうした所に一つのヒントがあるように思う。
今後、放送の影響力が大きくなることはないと思うが、これまでに培った信頼のうち、少なくとも、放送を見て万歳するような一定の信頼は残っている。それを守っていかなくてはならない。
―放送の課題やこの先の在り方についてどう考えるか
放送局は、これまで以上に、スポンサーの顔色を見たり、政治家の顔色を窺ったりしなければならない状況になっていると感じている。民放の場合、昔は番組で何か問題起きた時には、テレビ局に苦情の電話がかかってきた。ところが、今はテレビ局を飛び越してスポンサーに直接文句言うようになっている。それを誘導・煽るのはSNSなどインターネットだ。それにより、放送局側は、とにかく安全運転、何か問題を起こさないようにと慎重になっている。
また、放送番組の作り方が昔と変わらないことも問題だと思う。想定した筋書を優先し、この問題については、こういうコメントを専門家から取ってきてみたいな筋書を描き、想定外なのが出てくると、何とか元の筋書の方に誘導しようとすることがある。そして、訂正することにも後ろ向きの傾向は今でも残っている。想定外のことにも、しっかり対応し、自分たちの描いた筋書きとか流れに、真摯に向き合わないといけない。
上から目線の作り方とか、取材の仕方、スポンサーや政治を意識した安全運転を優先した番組の作り方を続けていると、ますます一般の人たちから、見放されることを自覚して欲しい。
―放送はネットにとって代わられるという見方もあるが
個人的には、テレビやラジオ、新聞などのメディアを一つの指針にするが、そのように思ってくれる人は今後どんどん減っていく。私は放送がないと困るが、困らない人が非常に多くなっているという、現実も認めなければならない。
我々は、NHKのニュースと、事実に基づかないようなネットニュースを見比べたら、見る人が見たら違いが分かるし、分からない人でも説明すれば分かってもらえると思っていた。しかし、それは〝錯覚〟だった。多分それもよくなかった。放送は、放送法に則ったものだということを説明したり、理解したりしてもらうのが非常に難しくなっている。これは放送で、これは放送じゃないと言っても、見る側からすれば一緒な訳だから。
―ではインターネットと放送はどう向き合えばよいと思うか
放送とネットは、基本的には敵対するものではなく、共存できるものだと思っている。また、そうあって欲しい。お互いを上手く利用しあえばよいと思う。例えば、インターネットを活用して、放送内容をより詳しく伝えるサービスがあってもいい。
今のNHKプラスにさらに課金すると、より詳しく取材した記事や解説動画が見られるといったものなどもあってよいのではないか。記者の立場からすると、それを望む人もいると思う。ただそれを、普通に今と同じ受信料を使ったり無料でやったりすると、新聞を含め民業圧迫になってしまうが、放送とネットは上手く利用しあうことを考えていけばよいのではないか。
―放送100年を経て、これからの放送に何か提言を
放送は、確かに危機的な状況にあるとは思う。しかし、かといって今の放送、特にキー局やNHKに代わる信頼性のあるメディアがあるかと言うと、それは全く出てきていない。先ほどの選挙の話でも触れたが、相対的に放送への信頼は残されている。その部分で何ができるのか、何かのきっかけになるのではないかと期待している。
その意味で、もう一度、放送への信頼を得られるよう努力をして欲しいと思う。そのためには、NHKも民放も、どこを向いて進むのかを考えて欲しい。スポンサーや政治ではなく、放送を楽しみにしている人、報道を頼りにしている人、そうした視聴者のための放送を目指せば、放送はまだまだ生き残れるはずだ。
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。
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