電子情報産業の世界生産見通し、JEITAまとめ

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、2024年12月19日、同協会大手町オフィス(東京都千代田区)で記者会見を開き、電子情報産業の世界生産見通しについて発表した。津賀一宏代表理事/会長(パナソニックホールディングス取締役会長)は、2024年の電子情報産業の世界生産額について、対前年比9%増となる3兆7032億ドルのプラス成長を見込み、2025年については2024年比で8%増の3兆9909億ドルと4兆ドルに迫る勢いとなり、過去最高の世界生産額を更新する見通しと語った。
 津賀会長は冒頭、「半年前、会長就任にあたり、デジタル技術は労働生産性や潜在成長率の向上、少子高齢化や気候変動などの社会課題の解決に不可欠であり、あらゆる産業の企業価値にも影響を与えると述べた。地政学リスクや労働人口の減少など多くの課題に直面する中、電子情報産業の世界生産見通しを通じて、業界の今をお伝えし、我々デジタル産業がデジタルの社会実装による課題解決、価値創出にどのように取り組んでいるのか説明する」とあいさつした。
 近年の地政学リスクに端を発する燃料・原材料価格の高騰により、個人消費の低下や中国の景気低迷など、足元の景況感は必ずしも良好とは言えない状況にある一方、電子情報産業は、コロナ特需の反動で減速していた電子機器、電子部品・デバイスがプラスに転じると共に、デジタル化の進展で成長しているソリューションサービスが勢いを増していることから、世界生産額は3兆7032 億ドルで前年比9%増のプラス成長の見込みとした。
 2025 年は、インフレなどの景気リスクは残るものの、個人消費の拡大や、デジタル投資が継続して各国で生成AI などの先進的な技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、電子機器やデバイス需要が堅調に推移すると共に、社会や企業・産業の変革と経済成長が進展することから、ソリューションサービスの需要拡大が見込まれ、AI用途によるサーバ向け半導体などの伸長を期待。世界生産額は前年比8%増の3兆9909億ドルとなり、過去最高の世界生産額を更新する見通しとした。
 品目別では、2024年は半導体とソリューションサービスが過去最高を更新する見込みで、2025年はいずれもさらに伸長して過去最高を更新する見通し。
 2024 年の海外生産分を含む日系企業の世界生産額については、前年比6%増となる41兆1813億円を見込む。
 これは、円安により電子部品・デバイスを中心に回復し、同様に価格競争力が高まる高機能のデジタルカメラやプリンター、電気計測器などが安定的に推移、特にパソコンの買い替え需要が堅調で、ソリューションサービスもAIなどデータ活用の高度化により需要が拡大したことを背景に増加したことが要因としている。
 2025年は、デジタル化投資の一層の加速により、ソリューションサービスが伸長、電子部品・デバイスの生産も堅調に推移することが見込まれることから、前年比4%増の42 兆8613 億円と見通した。世界生産の8%増に届かなかった要因としては、民生AV機器など日系企業全体の事業ポートフォリオが広いためとしている。
 国内生産額も同様の傾向としており、2024年は前年比6%増の11兆2984億円を見込み、2025 年には前年比3%増の11兆6463億円に伸長する見通しとした。
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 注目分野として、モビリティ産業とデジタル技術の融合分野である「自動車のSDV化」を上げた。SDVは、Software Defined Vehicle(ソフトウェア定義車両)の略で、「クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車のこと」とされている。
 2035 年における世界の新車生産台数については9790万台、そのうちSDVは6530万台でSDV比率は 66・7%になると見通した。企業間連携による技術革新やプラットフォーム化の加速、日本をはじめとする各国政府の強い後押しへの期待を背景に、2030年頃に世界中の自動車メーカーが SDV を本格導入すると予想されることから、市場が急速に拡大していくとしている。
 SDV化により今後はソフトウェアの性能が競争力を大きく左右することから、電装機器構造は一層進化し、搭載される半導体や電子部品も高性能化して、その存在感が高まる見込みという。
 2035 年の世界のSDV向けの半導体需要額は1186億ドルに成長すると予測。これが牽引して車載半導体需要額は 1594 億ドルとなり、2025 年比で 185%の伸長を見通した。
 ECU(電子制御ユニット)で使われるロジックICや高性能MCU/MPU(マイコン/マイクロプロセッサ)だけでなく、パワー半導体やアナログICの増加も期待されている。
 次に世界のSDV向け電子部品需要額は118億ドルに成長すると予測。車載電子部品全体で見ても2025年比で1・5倍の市場拡大となり、そのうちSDV向けが約7割に達する見通しとした。特に抵抗器とコンデンサの成長が著しく、これらがSDV向け電子部品需要額の約8割を占める見通しとしている。
 自動車に限らず、あらゆる産業においてソフトウェアの重要性が高まる中、ソフトウェアの実装を支えるキーデバイスが半導体と電子部品となる。地政学リスクが高まる中、デバイス製造への大胆な投資や最先端技術の研究開発はこれからの社会においても必要不可欠であり、JEITAは半導体や電子部品、さらにはソフトウェアのすべてを網羅する業界団体として、産学官の連携・協業を加速させ、安心・安全の社会を支えていくとしている。
 津賀会長は、2024年10月にジャパンモビリティショー・ビズウィーク(日本自動車工業会主催)と併催した「CEATEC2024」を振り返り、「CEATECではAIが、モビリティショーではSDVが注目を集めたように、ソフトウェアが競争力を左右する時代に突入しつつある。SDVは、自動運転・自動運転支援で注目されますが、テレマティックスやインフォテインメントなど自動車のさまざまな機能高度化の基幹技術と捉えている。2030 年頃に世界中の自動車メーカーがSDVを本格導入すると予想され、今後市場が急速に拡大、2035年には世界の新車生産台数に占める66・7%、6530万台がSDV車になる見通し。背景には企業間連携による技術革新やプラットフォーム化の加速や、日本をはじめ各国政府の強い後押しへの期待がある」と期待感を示した。
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 また津賀会長は、6月の就任時に重点項目として示した、「テクノロジーの進化と社会との調和」「サプライチェーンへの対応」「デジタルによる課題解決の仕組みづくり」の3点について、進捗状況を報告した。
 「テクノロジーの進化と社会との調和」
 CEATEC 2024において25周年特別企画「AI for All」を実施し、AIの最新動向やソリューションを紹介するとともに、AIに取り組む国内13団体の相互理解を目的としたネットワーキングイベントを開催したことを振り返り、AIの利活用促進に向けた活動の具体化を目指すとした。
 また各省庁で分かれていたガイドラインを統合した「AI事業者ガイドライン」に伴い、各社の対応状況を把握するとともに、共通課題やベストプラクティスを盛り込んだ業界団体ポリシーの策定に取り組み、そのブラッシュアップと普及を図るため、来年度上期にAIに関する組織を協会内に設立する考えを表明。JEITAをはじめ関連業界からの要望に基づき2023年に創設され、25年4月の施行に向けた準備が進められているAIソフトウェアを減税対象とするイノベーション拠点税制については、よりAIソフトウェア等の活用を促すよう、制度改善に向けた提言を続けるとした。
 「サプライチェーンへの対応」
 グローバル展開を前提に、データ連携のルールの国際協調が重要であることから、CEATEC2024では、必要な相手とデータを安全に共有できる仕組み「産業データスペース」に焦点を当て、欧州と日本の官民ステークホルダーによるパネルディスカッションを開催し、国際協調によるデータ連携の未来を示唆したと報告。引き続き、各国・地域のデジタル業界団体と連携しながら、競争力強化に資するデータ連携の在り方を検討するとした。
 最大のチョークポイントである半導体については、国の半導体・デジタル産業戦略の一翼を担い、各地域の半導体コンソーシアムに参画し、人材育成・確保およびサプライチェーン強靭化の取り組みを進めているとし、半導体人材の育成に向けて、JEITAとしての出前授業や冊子の配布、半導体産業人生ゲームの展開などを紹介した。
 また、サプライチェーンにおける電源・電力供給の問題にも対応する必要があると強調。あらゆる産業におけるAI活用の拡大に伴い、電力消費は増えていく一方であり、電源の確保はますます重要な課題になっていき、さらに米国では、グリーン電力の争奪戦ともいえる現象が既に発生していることから、安定電源の確保はもちろん、グリーンなど顧客が求める電力の「質」の面でも、電力供給がサプライチェーンのボトルネックにならないよう、産学官の連携が必要不可欠とした。
 「デジタルによる課題解決の仕組みづくり」
 JEITAが事務局を務めるGreen x Digitalコンソーシアムで今年度、「物流CO2可視化のためのガイドライン」を策定したと報告。欧州を中心に展開するSmart Freight Centre(スマート・フレイト・センター)の規定と整合しており、物流現場における、輸送・保管・拠点作業といったプロセス別にCO2データを算定し共有するための指針であり、国内においても、物流データの標準化・利活用など物流DXの動きが始まっていることから、物流関連団体とも連携していくとした。
 また地域の課題解決に向けた取り組み加速も協調。今年1月の能登半島地震では多くの高齢者等が被害に遭い、地域防災の重要性が高まっていることを背景に、JEITAスマートホーム部会で地震以前から取り組んできた、複数メーカーのIoT家電を活用した高齢者見守りシステムの構築に向け、石川県内の広域データ連携基盤との接続を進めているとし、防災DXによって安心・安全な社会に貢献するとした。
 加えて他産業と共に創る「共創」についても、引き続き推進していくと強調。放送事業者と映像機器メーカーの協力により、コンテンツ制作の効率化を実現するための「Media over IP コンソーシアム」を例に挙げ、来年2月のコンソーシアム設立に向けて準備を進めているとした。
 津賀会長は締めのあいさつとして、「JEITAは『デジタル産業の業界団体』として、Society5・0 の実現を目指し、デジタル技術による課題解決や競争力強化、新たな市場創出に引き続き取り組む。会員企業や政府などと密に連携するとともに、より多様な産業の皆様との連携・共創を推進してまいりたい」と話していた。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。