NTTグリーン&フード、静岡県磐田市に陸上養殖プラント竣工

 NTTグリーン&フード(久住嘉和社長、NTTG&F)が2023年10月から静岡県磐田市南平松に建設を進めていたシロアシエビ(通称:バナメイエビ)の陸上養殖プラントが完成し、2024年12月に竣工式が開かれた。同社の自社建設プラントとしては第一号で、国内養殖プラントでは最大規模となる年間110㌧以上の生産量を見込む。2025年3月までの初出荷を目指している。
 NTTグループをはじめ、JR西日本やソフトバンク等、異業種による陸上養殖業界への参入が相次いでいる。水産庁によると、内水面漁業の振興による法律に基づき、陸上養殖業が届け出制となった2023年4月1日以降、2024年1月1日現在で662件の届け出があった。2021年の391件に比べて約1・7倍に増えているという。
 背景には、日本の水産業従事者の減少や漁獲量の減少等の問題がある。農林水産省が公表している2024年の漁業・養殖業生産量は327万4300㌧で前年比4・9%減少。うち海面漁業の漁獲量は282万3400㌧で同4・3%減少、海面養殖業の収穫量は84万9000㌧で同6・9%減少と軒並み減少傾向にある。
 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の漁獲量のうち、養殖が占める割合は2021年時点で57・7%。これに対して国内での養殖の割合はおよそ半分の24・1%という。
 これまで主流を占めてきた海面養殖は養殖場の確保の面から新規参入が難しいことに加えて、水温や天候の影響による産出量の調整、アニサキス等の寄生虫、エサの食べ残しによる環境汚染といった課題が多かった。これに対して陸上養殖はIoT技術を生かした温度や水質管理の自動化により計画的に生産量を調整できるほか、寄生虫がつきにくく環境負荷も軽減できるといったメリットも多い。
 矢野経済研究所が2023年に発表した次世代型養殖ビジネスに関する調査によると、陸上養殖システムの国内市場規模は22年度で83億1700万円と推計。海外を含めた新規参入により施設の大規模化や水産物の多品種化が進むことにも期待が寄せられており、27年度の国内市場規模は約120億円と試算されている。 
     ◇ 
 NTTG&Fは、陸上養殖事業を通じた食や環境問題の課題解決、地域産業の活性化を企業理念として掲げ、NTTと京都大学発スタートアップ企業のリージョナルフィッシュ株式会社の合弁会社として2023年7月に設立された。
 同社では、NTTグループが有するIoT、AI等の情報通信技術や、魚介類の餌となりうる、CO2をより吸収する藻類の生産技術と、リージョナルフィッシュが保有する「ゲノム編集技術」をはじめとした最先端の品種改良技術や養殖技術等、双方の技術や英知を結集させ、当面は魚介類の生産・販売を主事業としていくという。
 具体的な内容として、各自治体等との連携を通じて陸上養殖施設を構築して魚介類を生産し、ブランド魚として地元スーパーや飲食店等へ販売する他、大手小売・流通企業を通じた販売や、ふるさと納税品として活用を図っていく。
 また生産や加工、販売の面で地元企業と連携することで、雇用創出につなげるとともに、最先端の養殖技術や環境保護技術等に関する教育の場を提供するなど地場産業の振興や、持続可能な地域社会の発展への貢献をめざすという。
 加えて、アニサキス等の寄生虫や感染症のリスクも軽減することが可能となることから、安心安全で高付加価値の魚介類の生産を実現させる。
 具体的な事業構想として、ステップ1で高成長・機能性を有する魚介類の生産・販売、ステップ2として魚介類のエサの基となる藻類の生産・販売、ステップ3として魚や藻類を生産する陸上養殖システムの仕組み自体の開発・販売を想定している。
 完成した磐田プラントは、先に委託生産を開始していた九州地域の陸上養殖場、8月に完全子会社化した「海幸ゆきのや合同会社」に続き3番目の拠点施設で、自社建設としては初の陸上養殖場となる。
 スズキ部品製造株式会社が保有する旧部品工場の建屋を活用し、2023年10月に着工し、敷地面積は約1万3000平方㍍。生産方式は水槽内に浮遊する微生物の集合体(バイオフロック)が飼育水を浄化するバイオフロック方式を採用するほか、外部パートナーによる検証エリアでは完全閉鎖循環方式も導入し、リサイクル可能な素材でかつ断熱性にも優れた環境配慮型の養殖用・ナーサリー(稚エビ用)水槽も設置。水槽数はバイオフロック方式16槽、完全閉鎖循環方式6槽、ナーサリー4槽の計24槽となる。主に種苗をリージョナルフィッシュ、管理制御をNTT側が担当。国産種苗を用いた完全国内生産のシロアシエビの陸上養殖として、国内最大の年間生産量110㌧を見込む。NTTグループのアセットを活用したICTによる温度管理や生育状況等の遠隔監視を行うとともに、将来的にはAIによる自動運用・制御も行う予定という。
 同社は2024年8月、関西電力子会社で同じく磐田市に拠点を置く海幸ゆきのや合同会社を買収。ゆきのやでは、環境負荷低減やSDGsの観点から社会課題の解決に寄与できる陸上養殖方式(完全閉鎖循環式)を採用しており、国内で「幸(ゆき)えび」のブランド名で年間約80㌧を出荷している。
 新たに竣工したプラントで養殖したエビは「福(ふく)えび」のブランド名で出荷を予定。幸えびと合わせて「磐田の『幸』『福』なえび」として年間合計約200㌧を全国に流通させ、磐田市の産業、教育、交流の活性化、新たな雇用創出など、地域活性化を図りたい考えとしている。
     ◇
 竣工式では、NTTG&Fの久住社長をはじめ、島田明NTT社長、建屋を提供したスズキの鈴木俊宏社長も出席した。
 久住社長は、「既存3拠点をベースに陸上養殖を拡大展開していきたい。環境に配慮しながら食料の安定供給を図り、ICTや藻の研究を組み合わせて脱炭素による循環型社会への貢献するほか、ESG共有による事業提携を通じて分断されている水産業のバリューチェーンをつなぐ新しい産業を作っていきたい。課題や問題点は出てくると思うが社員一同高い志で事業を進めていきたい」とあいさつした。
 続いてNTTの島田社長は、「NTTグループは2023年5月の新中期経営戦略で新たな価値の創造と地球のサステナビリティのためにということで挑戦し続けることを宣言した。取り組みの柱として様々な産業をまたがる循環型社会の実現を目指しており、陸上養殖もその一つ。陸上養殖は天候や環境の影響受けにくく安定した魚介類の生産が可能。海を汚さずサステナブルな事業でもあり、新たな価値創造とサステナビリティな社会を支える取り組むべき価値ある事業。スズキさんの協力で使っていない建屋を活用することで期間短縮にもなり、今後の陸上養殖のロールモデルになり得る。ここで得られる知見や技術力が今後のグループの発展につながりたくましく育っていけると思う。日本の新たな水産業の幕開けとなるよう活動する」と力を込めた。
 スズキの鈴木社長は「マンガンを多く含んだ無菌の純海水が大量に存在するということでこの土地を選ばれたと聞く。新しいプラントが持続可能な水産業の発展に寄与することを心から願う。陸上養殖だけでなく、農薬や化学肥料を必要としない地球環境に優しい究極のエコ農法への発展や、エビの脱皮や糞尿を活用して精製したバイオガスを自動車燃料や発電に活用する可能性も秘めている。直面する環境問題や食糧問題に新たな解決策を示して地域を活性化させるモデルケースになるよう願っている」と述べた。
 草地博昭磐田市長もビデオメッセージで、「初めての陸上養殖施設の場に磐田市を選んでくれたことに深く感謝したい。私たちにとって大きな喜びであり誇り。環境に優しいサステナブルな取り組みは海洋環境への負担を抑えつつ食料供給が可能で世界や市が推進するSDGsの取り組みにも心強い。今後さらに地元企業との連携や雇用創出、地域交流や食育やふるさと納税返礼品など、日本一の陸上養殖エビ産地として全国に発信できることを楽しみにしている」と期待した。
 同社では、宮城県気仙沼市にトラウトサーモンの陸上養殖施設の建設を進めており、26年3月の操業開始を目指しているという。
 またNTTグループ会社として2024年12月2日に設立した「NTTアクア」では、水槽内の水質や装置の故障等を一目で確認できる「陸上養殖ICTプラットフォーム」の開発を進めており、連携による新たなサプライチェーン構築も目指しているとしている。

この記事を書いた記者

アバター
kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。