「富岳」を使ったゲリラ豪雨予報 NICTなど

理化学研究所(理研)計算科学研究センター データ同化研究チームの三好建正チームリーダー、雨宮新特別研究員、運用技術部門システム運転技術ユニットの宇野篤也ユニットリーダー、情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)アーキテクチャ科学研究系の石川裕教授、情報通信研究機構(NICT)電磁波研究所電磁波伝搬研究センターリモートセンシング研究室の佐藤晋介総括研究員、大阪大学大学院工学研究科の牛尾知雄教授、「エムティーアイ」ライフ事業部気象サービス部の小池佳奈部長らの共同研究グループは、2021年7月20日から8月8日までと8月24日から9月5日までの期間、スーパーコンピュータ「富岳」を使い、首都圏において30秒ごとに更新する30分後までの超高速高性能降水予報のリアルタイム実証実験を行うと発表した。本研究は、近年増大する突発的なゲリラ豪雨などの降水リスクに対して、「富岳」上の仮想世界と現実世界をリアルタイムにリンクさせることで、「富岳」の高度な利用可能性を切り拓き、超スマート社会Society5・0の実現に貢献するものと期待できる。 共同研究グループは2020年に、さいたま市に設置されている情報通信研究機構が運用する最新鋭のマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP―PAWR)による30秒ごとの雨雲の詳細な観測データと、筑波大学と東京大学が共同で運営する最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)のスーパーコンピュータOakforest―PACSを用いて、首都圏において30秒ごとに新しいデータを取り込んで更新し、30分後までを予測する実証実験を行った。 今回は、2021年3月に共用を開始した「富岳」を使うことで、前年よりも20倍大きな1000通りのアンサンブル計算を行う。また、システム全体を改良し、30秒ごとに更新する解像度500㍍の気象予測をリアルタイムで行う。このリアルタイム予報は世界唯一の取り組みで、研究に着手した2013年10月以降のさまざまな成果の集大成としている。さらに、「富岳」のリアルタイム利用は初めての試みで、超スマート社会Society5・0の実現に向け、「富岳」の新しい活用方法を切り拓く。 実証実験で得る予報データは、気象業務法に基づく予報業務許可のもと、理研の天気予報研究のウェブページ(https://weather.riken.jp/)およびエムティーアイのスマートフォンアプリ「3D雨雲ウォッチ」(https://pawr.life-ranger.jp/)で7月20日正午から公開する。 ただし、この予報は試験的に行うものであり、実用に供する気象予報に十分な精度や安定した配信環境が保証されたものではなく、利用者の安全や利益に関わる意思決定のための利用には適したものではない。 昨夏の実験では、米国国立環境予測センターの全球数値天気予報システムの予報結果を取得し、これを側面境界値とした解像度18㌔㍍の領域から、解像度6㌔㍍、1・5㌔㍍、500㍍のそれぞれの予報領域を4重の入れ子にしたワークフローを構築した。同センターの全球数値天気予報のデータは、6時間ごとに、約5時間遅れで入手できる。しかし、解像度や更新頻度、配信のスピードに改善の余地があったという。 今回の実験では、2021年3月9日に共用が始まった新しいスーパーコンピュータ「富岳」を用いる。本研究の「ゲリラ豪雨予測手法」は、MP―PAWRによる現実のデータとサイバー上のシミュレーションを組み合わせた世界的にもオンリーワンの技術であり、「富岳」を活用したさらなる飛躍が期待できる。 今回、「富岳」の計算パワーを生かすことで、10通りの予報を計算。これにより、不確実な予測の幅を捉え、大雨の確率を算出することや、最悪のシナリオの算出などができるようになる。さらに、リアルタイムのワークフローを大幅に見直し、側面境界値の解像度や更新頻度、配信スピードの改善を行うとともに、システム全体を簡略化した。具体的には、全球数値天気予報モデルより細かい解像度5㌔㍍の気象庁メソモデルのデータを側面境界値として取得する。このデータは、3時間ごとに2・5時間遅れで入手できる。解像度が高い最近の側面境界値を使うことで、予報の精度向上が期待できる。また、解像度5㌔㍍の側面境界値を使うことで、解像度1・5㌔㍍の外側領域と解像度500㍍の内側領域の2重の入れ子にした計算領域を設定。昨夏の実験の4重の入れ子にした計算領域の設定と比べて大幅に簡略化し、システム全体の安定性の向上を図った。 過去の観測データを使って動作確認をした結果、ゲリラ豪雨の予測ができることが分かった。正解となる実際の観測データと見比べると、その10分前を初期時刻とした予報は、雨の分布をよく捉えている。10通りの予報結果を使った強い雨の確率は、実際に観測された強い雨の分布とよく対応している。今後、どのような雨に対してどの程度精度が高い予報が発表できるかについて、昨夏の実験や、今回の実験の結果を詳細に解析し、知見を積み重ねる必要があるとしている。