NEC、大阪・関西万博で顔認証技術を活用した入場管理システムなど提供

4月15日にハマヤコーヒーでの顔認証を活用した決済システムについて、記事を修正しました

 NECは「2025年日本国際博覧会」(「大阪・関西万博」)において、顔認証技術を活用した入場管理システムと決済管理システムを提供する。万博会場内の入場ゲートで顔認証を活用した入場管理システムを提供。利用者のなりすまし・使いまわしを防止し、運営側の負担を軽減する。決済管理システムでは、手ぶら決済で利用者の利便性を向上。一度の顔登録で入場・決済を行い、スムーズかつセキュアな体験を提供する。同社の大阪・関西万博での取り組みについて、髙橋篤史大阪・関西万博推進室長に聞いた。

 NECの顔認証技術の取り組みは、「1970年 日本万国博覧会」(大阪万博)の住友童話館での展示がひとつの『原点』だという。
 髙橋篤史大阪・関西万博推進室長は「NECは住友童話館で『コンピュータの天眼鏡』を展示しました。当時の最新の情報処理システムによって、人間の顔からその性格を判断しようというものです。ある男性をカメラで撮影します。白黒の顔写真を左側のディスプレイに映し出し、右側のディスプレイにはこの顔に似ている歴史上の人物を表示します。そして『あなたはこういう性格なのではないですか』と性格診断のようなことを行っていました。用意している似顔絵の中から、コンピュータがいちばん似ているものを処理して表示しました。NECが顔認証技術の研究開発を開始する20年近く前のイベントです。今とは比べものにならない技術ですが、55年を経て進化を遂げた顔認証技術を2025年、万博会場内外で活用させていただくことになりました」と感慨深げに語った。
 今回の住友館のテーマは「UNKNOWN FOREST~誰も知らない、いのちの物語~」。NECも一部コンテンツの出展をしている。
     ◇
 NECは、万博会場内の入場ゲートで顔認証を活用した入場管理システムを提供する。万博会場の51ヵ所の入場ゲート(東ゲート23ヵ所、西ゲート28ヵ所)に顔認証システムが搭載された端末を設置。入場時の本人確認を行うとともに、チケットの貸し借り等によるなりすまし防止を実現する。対象者は期間中何度でも利用可能な通期パスと夏期限定の夏パス購入者で、チケットに記載のQRコードをゲートにかざした後、顔認証による追加確認を行う。NECの国内における顔認証提供事例としては最大規模となる約120万人の登録を見込んでおり、来場者がスムーズかつセキュアに入場してもらえるシステムを目指した。利用者のなりすまし・使いまわしを防止し、運営側の負担を軽減する。利用者の利便性向上と安全・安心で効率的な万博運営へ貢献する。
 髙橋さんは「万博のチケットにはQRコードが付いています。来場者はQRコードをゲートに当てていただいて入場します。その際、顔認証で追加の認証行為を行います。チケットを着券した際、あらかじめこのQRコードに紐づいている顔情報で照合します。対象者はテーマパークでいうと年間パスポートのような通期パスと、夏パス保有者です。1日券のようなチケットは対象ではありません。なぜそういう仕様になっているかというと今回、利用者のなりすましや使いまわしを防止したいという博覧会協会側のニーズに応えました。想定ID数は120万IDで国内における顔認証提供事例として最大規模となります」と話した。
 NECの顔認証技術は世界ナンバーワンの評価(※)を複数回獲得。これまで世界50以上の国と地域で顔認証事業を展開しており、出入国管理や税関検査、搭乗手続き、おもてなし等、さまざまな用途での活用が広がっている。
 ※米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストでこれまでにナンバーワンを複数回獲得。NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではない。NECの生体認証における第三者評価
     ◇
 一方の柱が、顔認証を活用した決済システム。万博会場内の決済端末「stera terminal standard」(ステラターミナルスタンダード、SMBCグループが提供)が設置された店舗において、顔認証を活用した決済システムを提供する。顔決済サービス登録の通期パス・夏パスの保有者に加えて、「EXPO2025 デジタルウォレット」の大阪・関西万博の独自電子マネー「ミャクペ!」登録を行った一日券保有者が対象となる。事前に顔写真と決済方法を登録しておくと、スマートフォンやカードを使用せずに顔認証による手ぶら決済が行える。顔認証が紐づく決済の運用事例としては国内最大規模。また、NECが提供するタブレット型POSと決済端末を連動させることで、販売スタッフは金額を二度打ちすることなくスピーディ且つミス無く決済を行うことが可能だ。手ぶら決済で利用者の利便性が向上し、一度の顔登録で入場・決済を行い、スムーズかつセキュアな体験を提供する。
 髙橋さんは「今回万博会場にはNECのPOSシステムが約1000セット入っています。決済端末は『stera terminal standard』で、すでに街中で30万台以上導入されています。『stera terminal standard』にはピンホールカメラが付いており、こちらで顔認証決済を行います。QRコードを読み込むカメラを使って顔認証を行っています。顔認証決済の大規模な導入を行うのは今回の万博が初めてです。また、万博内のほぼすべての店舗で顔認証決済が行えるのもポイントです。従来の実証実験では顔認証決済を行うことができる店舗が非常に限られており、購買客は店舗を探してわざわざそこにアクセスする必要がありました。大阪・関西万博では、ほぼ全ての店舗に顔認証決済を導入することで『どこで顔認証決済ができるのか』をあまり意識・確認することなくスムーズに体験いただくことが可能となりました」と述べた。
 さらに「実は、せっかく入場ゲートを顔認証で入ってもらったので、登録された顔を場内で何か活用できればという着想から始まっています。せっかく登録してもらったので特典をという発想で、通期パス・夏パスで入っていただいた方には、よりリッチな場内体験をしてもらおうと思いました。さらに『ミャクペ!』を使った顔認証決済があれば、一日券で来場される方でも顔認証決済を体験できるようになると思い、2つのルートとなりました。お会計のシーンを想像していただくと、現金だったら財布から出さないといけないし、電子マネーでもスマートフォンを出さないといけないのですが、テーマパークなどでよく見かける、荷物がいっぱいで両手がふさがって…といったシチュエーションにおいても、顔をかざすだけで決済が済むのが便利なポイントです。決済スピードも速いのでレジ待ち行列も緩和されると思っています」と話した。
 NECの顔認証決済システムの特長は次の通り。
 ①安全・安心な決済=なりすまし防止の仕組みにより不正利用をシャットアウト。レジ接客時のウイルスへの感染リスクを抑制する。
 ②低コスト・低ストレス=汎用型の決済端末でも搭載カメラを使用した顔認証での決済を実現。レジ周りが煩雑にならず接客がシンプルかつスムーズなオペレーションに。
 「2つのシステムは連携しており、一度の顔登録で入場と会場内での決済が可能になります。同業他社には用途によって顔登録が別々のシステムで顔登録を何度もしなければいけないものがあります。NECは一度登録した顔情報をマルチシステムで使えるところもポイントになっています」(髙橋さん)。 
     ◇
 SMBCグループとNECは、万博独自の電子マネー「ミャクぺ!」を提供している。「ミャクぺ!」は、NECソリューションイノベータの「応援経済圏構築プラットフォーム」をベースに構築されており、クレジットカードや銀行口座からチャージして使える二次元コード決済型の電子マネー。万博会場内外を問わず「Visa」のタッチ決済に対応した全国の店舗で開幕前から利用可能となっている。
 大阪の街中ではシアトルズベストコーヒー(ハマヤコーヒー)の一部店舗に顔認証を活用した決済システムを3月31日まで提供していた。シアトルズベストコーヒーの淀屋橋住友ビル店と万博記念公園店で、顔認証を活用した決済システムを実証した。万博会場内と同じ決済端末「stera terminal」が設置してあり、事前に顔写真と決済方法を登録しておくと、顔認証による手ぶら決済が行えた。
 通天閣や梅田スカイビルなどの観光施設や飲食店にも顔認証を活用した決済システムを提供している。大阪観光局によるインバウンド(訪日外国人)観光客など向けのアプリ「Discover OSAKA」とNECの顔認証を活用した決済システムを連携させ、大阪市内の観光施設へ提供している。アプリで事前に顔写真とクレジットカード情報を登録しておくと、顔認証による手ぶら決済が可能となる。現在は通天閣や梅田スカイビルなどの大阪市内の観光施設や飲食店など約10店舗で利用できる。こちらの顔認証システムは従来型の「iPad」を使った顔認証決済システムとなっている。
 このほか、NECとピーカチ(東京都渋谷区)は東京・大阪の3つの店舗で、顔をかざすだけでポイントを貯める・使える「顔パスポイントサービス」を展開している。顔認証によるハウスポイントの顧客管理・ポイントシステムは国内で初めて(2023年9月時点)。大阪では但馬屋千里店、ババガンプシュリンプ大阪店、東京ではババガンプシュリンプ東京店で行っている。
 ピーカチが提供するポイントサービス「P+KACHIシステム」とNECの生体認証を組み合わせて実現した。「P+KACHIシステム」の利用会員は、会員サイト上で自身の顔登録を事前に行う。会計時、店頭に設置されたタブレットで顔認証することで、スマートフォンを取り出して会員証を提示することなく、ポイントを貯めたり、利用することができる。利便性が高く、スムーズな会計が可能となるとともに、導入店舗は他の業務に対応する時間が増え、店舗全体の効率化や顧客満足度向上を実現する。
     ◇
 NEC関西オフィスにある法人向け共創施設「NEC Future Creation Hub KANSAI」では、万博会場に導入する『顔認証を活用した来場者管理システム』及び『顔認証を活用した決済システム』の実機を設置している。顧客への顔認証の価値体感とビジネス共創につなげている。
     ◇
 NECの顔認証技術の普及が社会に果たす役割について髙橋さんに聞いた。
 「生体認証技術で指紋や虹彩など様々な技術がある中で、当社は特に顔認証に関しては先ほどお話しした通り50年来の技術の蓄積を持って取り組んでいます。私どもは、顔認証すればそれでいろいろなものが紐づいて生活の中でご活用いただける、それを社会に還元させて安心してお使いいただける形を実現しています。生体認証技術の普及が個人情報の流出や不正利用といった犯罪抑止に繋がるものとして、必ず社会に貢献できる技術だと思っています。国際的には、インドの固有識別番号庁(UIDAI)によって登録が進められている国民IDシステム『Aadhaar(アドハー)』はNECの技術が基盤となっており、約14億人が登録し、公共福祉サービスが効率的に支払われるようになり、不正行為も激減しました」と述べた。
 続いて、NECの顔認証技術で今回の一大プロジェクトに挑戦する皆さんの想いを聞いた。
 「今回NECは、顔認証技術を中心に万博会場で非常に大規模な実証試験に取り組みます。大阪・関西万博の想定来場者数は約2820万人の見込みですが、そのほとんどが顔認証決済をやられたことがない方でしょう。ですからファーストタッチとして世界中の方々に万博会場で顔認証決済をご体験いただいて、こういう仕組みがあるんだ、すぐに決済ができて便利と思っていただき、万博が終わった後、事業者側にも利用者側にも認知していただいた上で市場に普及していくきっかけになるのではと考えています。冒頭で1970年の大阪万博の話をしましたが、近い将来、顔認証技術があらゆるシチュエーションで当たり前のように使われており、振り返れば、2025年の大阪・関西万博で顔認証の大規模な実証を行って、そこから広がったと世の中の方々に言っていただければ取り組んだ我々としては非常に嬉しく思います」と話した。

4月11日4面に掲載

写真は 顔認証の様子

この記事を書いた記者

アバター
田畑広実
元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。