NICTと住友電工、38コア・3モードの光ファイバ伝送実験成功

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、徳田英幸理事長)のネットワークシステム研究所と住友電気工業、オプトクエストの3者は、38コア・3モードファイバを用い毎秒10・66ペタビット伝送実験に成功し、周波数利用効率1158・7ビット/秒/Hzを達成した。この結果は、容量と周波数利用効率ともに、これまでの記録(容量:毎秒10・16ペタビット、周波数利用効率:1099・9ビット/秒/Hz)を超え、世界記録になる。実験では、38コア全てに3モードを収容し、伝送品質向上のためにモード間の光伝搬遅延を低く抑えた光ファイバを開発。各コアの特性に応じ256QAMまたは64QAM変調を用い、大容量を実現した。この実験システムを利用すると、1本の光ファイバで既存の光ファイバの100本分以上の容量を伝送することが可能となり、データセンター等における短距離大容量伝送システムの光ファイバ配線を大幅に減らすことが期待できる。NICTは、2008年に「光通信インフラの飛躍的な高度化に関する研究会」を立ち上げ、産学官連携でオールジャパン体制を構築し、先鋭的な研究開発に取り組んできた。世界的にも競争が激しい中で、日本の研究レベルは非常に高く、2017年に19コア・6モードファイバを用いた毎秒10・16ペタビットの世界記録が報告されている。更なる超大容量を実現するためには、光ファイバのコアを増やし、各コアに異なるモードの光信号を伝送するマルチコア・マルチモードファイバが必要だ。しかし、コア数を増やすと光ファイバが曲げや引っ張りに弱くなり、モード数を増やすと受信側の処理負荷が高くなるなど、それぞれの技術的課題があり、コア数とモード数の最適化が研究されている。 今回、住友電工が開発した38コア・3モードファイバと、オプトクエストが開発したマルチモードビーム用コア多重器を用いて、NICTが大容量伝送システムを構築し、世界記録となる毎秒10・66ペタビット、13㌔㍍伝送に成功した。また、周波数利用効率においても世界記録となる1158・7ビット/秒/Hzを達成した。 マルチモード伝送の場合、受信機側でモードを分離するデジタル信号処理が必要となる。モード間の伝搬遅延の差が大きいとデジタル信号処理の負荷が高くなるため、伝搬遅延差を小さくすることが重要だ。実験では、モード間伝搬遅延差を抑えるためにコア内の屈折率の変化を微調整したマルチコアファイバを製作し、0・6~3ナノ秒の遅延差を実現した。これにより、モード数に依存するデジタル信号処理が少なく、消費電力を抑えシンプルな伝送システム構築が可能となる。また、一部を除くほとんどのコアでモードに依存した損失がファイバ結合器を含め5~8・5デシベルという高い均一性を得ることができた。 一方、マルチコアファイバは、コアによって伝送特性が異なる。そこで、伝送効率の高い2種類の変調方式 (256QAM、64QAM)の伝送信号の比較を行い、コアごとに、より多くの伝送容量を得られる変調方式を選択した。その結果、コアごとに毎秒279~298テラビットの大容量伝送が可能となった。 この実験システムを利用すると、1本の光ファイバで既存の光ファイバの100本分以上の容量を伝送することが可能となり、データセンター等における短距離大容量伝送システムの光ファイバ配線を大幅に減らすことが期待できる。 今後、早期の実用化システム実現に向けての取り組みと併せて、マルチコア・マルチモードファイバを用いた通信システムのポテンシャルをさらに追求した究極の性能実現に向けて、先鋭的・革新的技術の研究開発を推進していく。