NICT、未開拓のテラヘルツ領域を拓く ヘテロダイン受信機を開発
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、徳田英幸理事長)は、磁性材料を用いた独自の超伝導ホットエレクトロンボロメータミキサ(HEBM)を開発し、2THz帯ヘテロダイン受信機の低雑音化と広IF帯域化を実現した。これは、本技術が、従来困難であったHEBMの極微細化を可能にしたことにより、実現したもの。今回作製した2THz帯HEBMは、量子雑音限界の6倍程度である約570K(DSB)の低雑音性能と、従来構造のHEBMと比べ約3GHz拡大した約6・9GHzの広IF帯域特性を達成した。これらは共に世界トップレベルの性能である。本技術は、未開拓周波数領域であるTHz周波数領域における基盤技術として、高速無線通信、非破壊検査、地球環境計測、電波天文などの新たな周波数資源開発に資するものと期待されている。 テラヘルツ周波数領域は、十分な開発や利用が進んでいない未開拓周波数領域であり、高速無線通信、非破壊検査、セキュリティ、医療、地球環境計測・電波天文などへの応用が期待されている。しかし、その実現には、基盤技術である発振・検出技術の開発が重要だ。 これまで、1THzまでの周波数領域においては、超伝導SISミキサが最も低雑音、広IF帯域の優れたヘテロダイン受信機性能を報告している。しかし、その動作の上限周波数は1・5THz程度と考えられており、1・5THzを超える周波数領域での低雑音ミキサ素子として、現在、HEBMの研究・開発が進められている。 1・5THzを超える周波数領域において、HEBMが量子雑音限界の10倍を切る低雑音受信機動作を示すことは、既に報告されている。しかし、HEBMには、一度に観測できる情報量を意味するIF帯域幅が狭いという、応用に向けて解決すべき課題があった。IF帯域幅として20GHz以上を確保できる超伝導SISミキサに対し、HEBMでは、その4分の1未満の3~5GHzだった。IF帯域幅の拡大は、応用上メリットが大きく、HEBMの広IF帯域化が求められていた。 NICTは、テラヘルツ研究センターにおける未来ICT研究所及び電磁波研究所の研究連携の下、テラヘルツ波での基盤技術である検出技術として、磁性材料を用いた新構造の超伝導ホットエレクトロンボロメータミキサ(HEBM)を開発。2THz帯ヘテロダイン受信機の低雑音性能と広IF帯域幅を実現した。 HEBMは、二つの金属電極間に、微小超伝導薄膜片(超伝導ストリップ)を配置した構造で、超伝導―常伝導転移間で生じる強いインピーダンス非線形性を利用したミキサ素子。今回、超伝導―金属電極薄膜間に磁性材料であるニッケル薄膜を挿入することにより、電極間の超伝導ストリップにのみ超伝導性を残す、NICT独自の新たなHEBM構造を考案・開発した。この構造によってHEBMの更なる微細化が可能となり、検出器の低雑音化と共にIF帯域の広帯域化を実現した。 今回、超伝導ストリップ長0・1μmの微小HEBMを作製、測定周波数2THzにおいて、入力光学系の損失を補正したミキサ雑音温度としてTrx=570K(DSB)が得られた。これは、量子雑音限界の約6倍の極低雑音動作。また、IF帯域幅は、従来構造のHEBMと比べて約3GHz拡大した約6・9GHzが得られ、磁性材料を用いた新HEBM構造が、受信機性能向上に有効であることを確認した。これらの結果は、実際の動作温度である4Kで評価した結果であり、テラヘルツ帯HEBMとしては、共に世界トップレベルの性能にあると考えている。 NICTは2THz帯HEBMの実用化を目指し、これまで採用していた平面アンテナを用いた準光学型と呼ばれるHEBMから、よりきれいなアンテナ指向性を有する導波管型HEBMの開発に取り組んでいる。同受信機技術を基に、THz周波数領域における基盤技術を確立し、さらに、地球環境計測、電波天文などのリモートセンシング技術への応用展開を目指す。
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