トンガ海底火山噴火による地球大気振動の観測成功 NICTなど
国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)及び国立大学法人電気通信大学(UEC)は共同で、全球測位衛星システム(GNSS) 、気象衛星ひまわり、電離圏観測用のレーダーなどのデータを解析し、南太平洋トンガ沖の海底火山の大規模噴火に伴って発生した気圧波と同期した同心円上の電離圏擾乱(じょうらん)が、地球規模で広がっていく様相を捉えることに成功したと発表した。観測データにおいて、電離圏擾乱は、海底火山から約3000㌔㍍離れたオーストラリア上空で噴火後約3時間後に気圧波と同期して観測され、ほぼ同時刻に約6800㌔㍍離れた日本上空でも観測された。日本で電離圏擾乱が観測されたタイミングは、気圧波が到来する約3時間前に相当する。通常、大気中を進む気圧波は、ほぼ音速に近い315m/sで伝搬するが、本観測結果は、オーストラリアから日本に地球の磁力線沿いに1000km/sもの速さで電離圏の擾乱が伝わったことを示している。本研究では、このような電離圏擾乱が高速で伝わるメカニズムを明らかにしたもの。##本文 今回、ISEE、NICTで構築してきた電離圏データベースをISEEが解析、UECが気象衛星データ解析を担当、ISEE、NICT、UECで議論を行い、論文を執筆した。本研究は、2016年度から始まった日本学術振興会科学研究費補助金(特別推進研究)「地上多点ネットワーク観測による内部磁気圏の粒子・波動の変動メカニズムの研究」の支援のもとで行われたもの。 ポイントは次の通り。 ①世界中に点在する全球測位衛星システム(GNSS)の受信機網から得られた全電子数(TEC)データと、気象衛星ひまわり8号の赤外輝度温度データ解析から、南太平洋トンガ沖の海底火山の大規模噴火後に、同心円状の気圧波、それと同期した電離圏擾乱が確認された。 ②海底火山から約3000㌔㍍離れたオーストラリア上空で、噴火後約3時間後に電離圏擾乱が観測された時間帯とほぼ同時刻に、日本上空で西向きに伝搬する電離圏擾乱が観測された。このタイミングは、日本に気圧波が到達する約3時間前に相当する。これらの電離圏電子密度変動の空間構造は完全に一致しており、さらに、北海道に設置された電離圏観測用レーダー(SuperDARN)のデータ解析により、磁力線を介した南北両半球の電離圏擾乱の電磁気的結合過程が明らかになった。 ③一般的に大気中を進む気圧波の速度が315m/sであるのに対し、本観測結果では、電磁気学的な結合の効果で、1000km/sの速度で電離圏擾乱が伝わったことになる。 具体的な手法は、本研究グループは、全球にわたる電離圏の変動を高時間・高空間分解能で観測するために世界各地に設置されている約9000台に及ぶGNSS受信機データを収集し、それらのデータから全電子数(TEC)に変換し、TECデータベースを作成している。また、トンガ火山噴火によって発生した気圧波や電離圏擾乱の原因となる荷電粒子の動きの情報を得るために、気象衛星ひまわり8号の赤外輝度温度データと北海道陸別町に設置された電離圏観測用レーダーデータを使用している。これらのデータ解析には、2009年度から開始された大学間連携プロジェクト「IUGONET」で開発された解析ツールを使用している。 解析の結果、オーストラリア上空で気圧波の波面に沿った電離圏電子密度変動が観測されており、対流圏を伝搬する気圧波から生まれた大気擾乱が電離圏電子密度変動を生成したことを表している。詳細にデータを分析した結果、日本上空とオーストラリア上空で観測された電離圏電子密度変動の空間構造は、磁気赤道を挟んで鏡像の関係にあった。これは、南北両半球の電離圏擾乱が磁力線を介して結合していることを意味するもの。 これまで火山噴火、津波、気象現象によって発生した大気波動は、単に直上付近の電離圏を揺さぶるだけで、昼間側の電離圏に限れば南北両半球の共役性はないと考えられていた。ところが今回の研究結果から、昼間側の電離圏においても電離圏擾乱の南北両半球の共役性が存在することを、TEC観測で初めて示したことになる。今後、昼間側の電離圏擾乱の共役性がどのような条件下で発生しうるかについての研究が期待される。 本研究結果は、科学面だけでなく、防災面においても意義がある。磁力線を介して伝わった電離圏擾乱は、津波を引き起こしたとされる火山噴火由来の気圧波が日本へ到来する約3時間前に観測された。今後、複数の火山噴火や地震イベント時における電離圏擾乱の統計解析を実施することにより、津波の波高や規模を電離圏擾乱のシグナルからの推定が可能となれば、津波が到来する前に電離圏擾乱を活用して津波に関する情報を予め得られることを示唆しているという。
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