エリーパワー 小川哲司社長に聞く 大型リチウムイオン電池展開
大型リチウムイオン電池および蓄電システムの開発、製造、販売を行うエリーパワー(東京都品川区、吉田博一代表取締役会長 兼 CEO)は、『電池そのものが安全でなければならない』という理念のもと、高い安全性を実現した電池を開発・製造している。昨年発生した台風15号による千葉県での停電事故では同社の蓄電システムが多数貸し出しされて災害支援に貢献したという。小川哲司代表取締役社長兼COOに同社の蓄電システムの特長や同業他社にない強みを聞いた。――会社設立の経緯、社名の由来をお聞かせ下さい 「創業者の吉田博一代表取締役会長兼CEO(元住友銀行〈現三井住友銀行〉副頭取、元三井住友銀リース社長・会長)は、慶応義塾大学で電気自動車(EV)に試乗し、以前から考えていた環境問題を、EVを通して解決しようと決意しました。その後、慶大大学院教授に就任し、電気自動車の未来を担う『Eliica(エリーカ)プロジェクト』を統括します。エリーカが完成すると、搭載する大型リチウムイオン電池のコストの問題が起こりました。当時、安全性の面から大型リチウムイオン電池の量産に踏み切るメーカーはありませんでした。そこで吉田は、慶大講師で電気自動車の開発・製作に一貫して従事していた河上清源・現代表取締役副社長執行役員兼CTOら4人で2006年9月28日、会社を設立しました。社名の語源は、エレクトリックリチウムイオンと創業者の吉田のYからきています。様々な分野で汎用的に使える大型リチウムイオン電池の開発・製造を目指しました。2007年には、リチウムイオン電池セル第一号が完成しました。」 ――生産拠点はどちらですか 「まずはリチウムイオン電池の技術者集めから始めて、滋賀県大津市に技術開発センターを開設しました。2009年には神奈川県庁に独立型リチウムイオンEV充電スタンド第一号を納入しました。大型リチウムイオン電池の製造には、温度変化に弱かったり少しのゴミで破裂が起きたり、コンタミネーションが起きたりするので、人の手を介さない完全自動化工場が望ましいのです。吉田は富山化学工業で生産管理部長、専務などを歴任した真田秀夫氏(現エリーパワー特別顧問)を招聘。製薬技術も取り入れて、2010年4月に神奈川県川崎市に川崎第一工場、2012年には第二工場を竣工しました。正極・負極・セパレーターを高速に積層する製造技術を独自開発。世界トップレベルの安全性と高性能を実現しました。」 ――企業理念をお聞かせください 「『私たちの会社の夢は人類 社会に役立つ仕事をすることだ』。当社で定めた社員の行動規範『エリーパワー十則』の一つです。吉田は『エネルギーをいかに効率的に使用していくか』と話しています。これは地球上の限られた貴重な資源を使用する上で、永遠のテーマだと考えます。再生可能エネルギーや原子力発電、火力発電など、発電方法には様々な方法がありますが、あらゆる手段で発電されたエネルギーを『蓄エネ』することで効率的にエネルギーを使用することが可能になります。また、災害などの際には蓄電池が万が一のバックアップとして活躍します。」 ――昨年(2019年)の業界動向で感じたことはなんですか 「ゲリラ豪雨が多発し、昨年も大きな台風による甚大な被害が起こりました。日本は災害に打ち勝って自分の生命・生活を守らなければいけない。工場の操業をストップさせるわけにはいかない。一方、千葉県で起こった大規模停電などで、蓄電に対する関心が高まりました。当社は『電池そのものが安全でなければならない』という理念のもと、高い安全性を実現した電池を開発・製造しています。当社は昨年、災害支援で蓄電システムを千葉などの被災地に多数お貸出しいたしました。」 ――エリーパワーの蓄電システムの特長をお聞かせください 「私どもは、何よりもまず『安全性』を最優先に開発を進めています。当社の蓄電システム全てに搭載している『大型リチウムイオン電池セル』は、全て国内自社工場で生産しています。正極材には安全性に優れた『リン酸鉄リチウム』を採用。大型リチウムイオン電池として、世界で初めてドイツの国際的認証機関『テュフ ラインランド』の製品安全検査に合格しました。当社の電池セルは、10年間繰り返し充放電を行っても(約1万2000回)電池容量保持率80・1%という長寿命を実現しており、長期間に渡って、安心して使用できます。さらに、温度特性ですが、同業他社では0度C~40度Cが一般的ですが、当社はマイナス20度C~60度Cまで安定した電力を供給します。いくつか製品ラインアップを紹介します。戸建て住宅向けのハイブリッド蓄電システム『POWER iE5 LINK』(パワーイエ・ファイブ・リンク)は、蓄電システムと太陽電池を組み合わせての設置はもちろん、蓄電システム単独でも使用できます。用途に合わせて蓄電容量を選べます。5・4kWhと10・8kWhモデルを選択可能。10・8kWhモデルでは、冷蔵庫・照明・テレビなどの最低限の機器を連続40時間使え、長時間に渡る停電等にも備えることができます。パワーコンディショナーを壁掛け式にしたことで設置床面積を省スペース化。狭い場所でも設置できます。」 「戸建て住宅や集合住宅、オフィス、ホテルなど様々な用途で使用できる可搬型蓄電システム『POWER YIILE 3』(パワーイレ・スリー)は、オフィス等で使用しても運転音が気にならない、約38dB以下の静音設計です。組み立てや設置工事が不要で、箱から出してコンセントをつなぐだけで、すぐに使える蓄電システムです。こちらの利用シーンは、例えば介護施設で各部屋に移動させて電灯に使ったり、電動ベッドの起き上がりなどでも使われています。」 「また、昨年6月、NTTドコモの『ドコモショップ』約1200店舗に納入しました。海外より観光客がたくさん来日し、みなさん電子決済で買い物をされます。目的地を調べるのも会話の翻訳もスマホです。災害時の連絡手段や情報収集のため、スマホの重要性は大変高まっており、その充電問題も大きな課題となっていることが納入の背景にあります。また安全性・性能の面からも選んでいいただきました。」 「屋内型掛蓄電システム『POWER YIILE HEYA』(パワーイレ・ヘヤ)は、コンパクトな壁掛けタイプで省スペースでの設置に対応します。集合住宅など収納スペースが限られるところに最適です。同シリーズには、キャスター搭載で簡単に移動できる可搬型『POWER YIILE HEYA S』(パワーイレ・ヘヤ・エス)もあります。」 「全製品、停電時には蓄電池からの電力供給に自動切り替えます。無線通信機器を標準搭載し、システム稼動状態のモニターや将来的IoTサービス、(バーチャルパワープラント)機能にも対応できます。」 ――戸建て住宅から集合住宅、オフィス向け・産業向けと多彩なラインアップですね 「私は大和ハウス出身(元大和ハウス工業代表取締役副社長/CFO)ですが、大和ハウスの戸建てや集合住宅には早い時期から納入しており、使ってみた感想が今後の製品開発にも活かされています。一般的にリチウムイオン電池は他の二次電池(ニッケル水素電池、鉛電池等)に比べ、エネルギー密度が高く、小型・軽量化が可能です。その反面、使用方法・使用条件(電圧、温度)を間違うと電池が不安定になり、火災や爆発を引き起こします。住宅に使うとなると、発煙すら出ることはまかりならんと―。当社の製品は、これまでに電池が燃えたりする事故は一件もありません。オフィスでの利用シーンでは、例えば8人くらいの島にひとつの割合で置かれています。パソコンに全部つなげておけば、停電になっても0・004秒で復旧しますから画面を見ていても全然わかりません。」 ――エリーパワーは2018年、東京電力ホールディングス、関西電力などと連携し、大規模なバーチャルパワープラント(VPP、仮想発電所)構築実証試験を行いました 「VPPは、分散化された電源をIoT技術などの高度なエネルギーマネージメント技術を使って統合制御することで、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みです。蓄電池を遠隔でコントロールし、電力逼迫時には放電、電力余剰時には蓄電を行うことで、電力の需給バランスを調整します。当社は初代の蓄電システムから通信網を入れていたので、VPPに参画することが可能であったため、リソースアグリゲーター(RA、需要家とVPPサービス契約を直接締結してリソース制御を行う事業者)として、実証実験を行いました。日本で初めてのケースとして、同じ建物内に分散して設置された可搬型蓄電システム数百台(大和ハウス工業大阪本社ビル200台、東京本社ビル100台)の同時制御を行いました。BCP対策として導入されている多数の蓄電システムを同時制御することにより、これまで既築のビルへの追加設置は難しいとされてきた、コンテナレベルの仮想大型蓄電システムの構築が実現するため、数百kWのVPP制御とともに、建物単位でのピークカット、ピークシフトが可能となります。大規模VPPでは、秒単位で蓄電池に電気を入れたり出したりしますが、当社の電池はそういった点に最適なのです。」 ――今年の抱負をお聞かせください 「国際的なSDGsの達成には、安全な蓄電池が必要不可欠だと思います。蓄電池のマーケットができてきた今、品質と性能を活かした当社製品を広く普及させ、さらに画期的な新製品も投入したいと考えています。」
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