NICT、公衆網から自営網へ切替 無線ネットワーク技術の実証
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、徳田英幸理事長)、JR東日本、公益財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)は連携し、全国通信事業者が提供する公衆網に接続された列車や自動車上の端末などが、自営網事業者が設置する自営スポットセルの圏内に移動した際に公衆網から自営網へのスムーズな無線ネットワークの切り替えを可能とする基盤技術の実証実験に成功したと発表した。この基盤技術はNICTが開発したもので、自営網事業者と公衆網事業者間で加入者情報を共有する必要がなく、公衆網などの一般的なネットワーク回線を経由して自営網に事前に一度アクセスしておくことで、接続切り替えに要する時間を大幅に短縮できる。今後普及が期待されるローカル5Gのように建物や土地の範囲限定で自営サービスを提供するための自営スポットセルに対して、非常に短時間での接続が実現でき、サービスを安定して提供することが可能だ。 今回、JR東日本烏山線(栃木県)にミリ波帯を用いた自営のリニアスポットセルを構築し、列車に設置した端末を用いて、同技術の実証実験を行った。その結果、従来は4分以上掛かっていた公衆網から自営網への接続切り替え時間が、平均5秒以下、最大でも10秒程度に短縮できることを実証した。さらに、地上複数地点の動画をリニアスポットセル通過中の車上端末に同時に伝送し、公衆網接続時と比べて低遅延で動画伝送できることを確認した。同技術が実用化されれば、エリア限定の自営サービスを移動者にも安定して提供可能となることが期待される。 現在、公衆網としてインフラ整備が進む5Gの革新的な技術を用いて、建物や土地など限定した範囲で自営通信サービスを提供するローカル5Gが注目されている。ローカル5Gでは、準ミリ波帯である28GHz帯(28・2―28・3GHz)が屋外利用の周波数帯として制度化されているが、使用する周波数が高いため、サービス提供可能なエリア(セルサイズ)が小さくなり、コスト的にも物理的にも面的な展開が難しいという問題があった。特に、列車や自動車などの移動車両にエリア限定で情報配信をするようなサービスでは、スポット的に配置された自営セル(自営スポットセル)への接続遅延が発生すると、移動車両がサービスの提供を受ける前に自営スポットセルを通過してしまうことがあり、自営スポットセルへの高速接続技術の実現が強く求められていた。 今回、NICT、JR東日本、鉄道総研は、列車のような移動環境でも公衆網から自営スポットセルへのスムーズな高速切り替えを可能とするワイヤレス基盤技術の実証実験に成功した。 同技術はNICTが開発したもので、公衆網などの一般的なネットワーク回線を経由して自営網に事前に一度アクセスしておくことで、スポットセル到着時のセルサーチや認証手続のような接続処理を大幅に短縮し、自営網と公衆網の事業者間で利用者の加入者情報を共有することなく、公衆網と鉄道用などの自営網の間でスムーズな接続切り替えを実現する。 今回、NICT構内、鉄道総研所内試験線での予備実験を経て、JR東日本烏山線(栃木県)に、ミリ波帯を用いた総長3㌔㍍の自営リニアスポットセルを構築し、同技術の実証実験を実施した。その結果、従来の方法では、自営リニアスポットセル到着から接続まで4分以上要する場合や、サービス提供前にセルを通過する場合があったが、同技術を適用することで、平均5秒以下、最大でも10秒程度と、大幅に接続切り替えの時間を短縮することができた。 さらに、地上に設置した複数のカメラ映像を同時に車上に伝送する動画伝送実験を行った。公衆網利用時には約800ミリ秒だった往復遅延時間(ラウンドトリップタイム)が、自営網に接続を切り替えた後は約100ミリ秒とおよそ8分の1に短縮され、動画の品質が改善できることを確認した。 今後、同技術は、ローカル5Gにも適用することができ、交通インフラのような移動体を対象とするサービスやシステムにおいて、専用装置を導入することなく高速移動のユーザー向けに自営スポットセルへの高速な接続切り替えを実現し、安定的な接続環境を提供することができる。鉄道事業者に限らずエリア限定で自営サービスを提供する事業者にとって、多様なサービスの展開が期待できる。 また、ローカル5Gは、農業、交通インフラ、防災システムなどの地域課題を解決する技術としても非常に期待されている。今後は、さらに同技術の高度化を目指した研究開発を推進し、農業のようにスポットセルを密に配置することが難しい環境など、より適用範囲を広げて様々な分野の地域課題の解決に貢献する。
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