東建エンジアリング 水文器械のパイオニアとして多様なニーズに対応
東建エンジアリングは1980年に設立され、埼玉県さいたま市に本社を置き、名古屋に工場・営業所、九州(福岡市)に営業所を有している。センシング&ソリューション、水文器械の製造・販売・レンタル、IoTサービスなどを提供し、顧客は民間企業に加え、研究機関・大学、官公庁、地方自治体など幅広い。 事業のうち、水文器械は第1号製品であるセンサ水没の型積分球式濁度計の製造以来ずっと、「降水、表流水、地下水等の水量と水質の観測機器」を手掛けてきた。同社 取締役事業本部長の勝間田純一郎氏は「親会社が河川に強いコンサルタント企業であることらかから、共同で色々な高度化につながる技術開発を進めています」と語る。 水位計に関して設立直後から手掛けており、圧力式の水位計でスタートし、その後、超音波式、電波式も扱い、現在は3種類をラインナップしている。近年は特に非接触型の開発に注力している。同社は通信の重要性にいち早く着目し、他社に先駆け20年前に通信でデータをリアルタイムで送るシステムを開発した。当初は、モデムと携帯電話自体を本体に入れて、データ通信をしていたという。 当時は業界内で他にどこも手掛けていなかったこともあり、認知もなかなか広まらなかったが、某民間企業から2500台をリアルタイムで監視したいという要請が舞い込んだ。クラウドが普及していなかったため、自社でクラウドサーバを構築、2500台のデータを365日24時間監視する体制を構築した。これにより、通信や監視、クラウドなど様々な技術を蓄えることができたという。さらに、これらの経験を活かし、通信とクラウドを組み合わせてリアルタイムデータ収集・配信プラットフォーム「わかるくん」として展開している。 「わかるくん」に接続する計測器は、太陽電池パネルと鉛蓄電池を組み合わせた独立電源を採用しており、場所を選ばず設置できる。NTTドコモの3G/4G通信SIMスロットを内蔵しており、リアルタイムデータを安価に収集できる。また、インターネットを利用して、いつでも、どこにいても監視閲覧することができ、複数の関係者が同時に利用することも可能だ。様々なセンサを搭載でき、観測カメラの静止画像データも収集・配信することができる。「わかるくん」の主な機能としては、データ表示機能(時系列/複数点並列表示/地図オーバーレイ/観測カメラ)、状態監視機能、ダウンロード/アップロード機能、リモート設定機能などがある。 これら豊富なノウハウをベースとして、親会社と共同で国土交通省の「革新的河川管理プロジェクト」に参画している。「革新的河川管理プロジェクト」は、IT、航空測量技術等の最新技術をオープン・イノベーションの手法によりスピード感をもって河川管理への実装化を図り、河川管理及び災害対応の高度化を図るもの。これまで同プロジェクトでは第1弾「危機管理型水位計」、第2弾「危機管理型水位計(寒冷地対応)」、第3弾「簡易型河川監視カメラ」、第4弾「流量観測機器の無人化・自動化」が実施されている。東建エンジアリングはカメラを除くすべてのプロジェクトに参画している。 革新的河川管理プロジェクト(第一弾)および革新的河川技術プロジェクト(第二弾)に参加した製品は、観測を開始する水位の超過を最短2分間隔でチェックし、超過時には最短2分間隔での観測とデータ送信を行う機能を持つ。また、太陽電池パネルとバッテリーの組み合わせの独立電源により、無給電で5年以上作動する。現地実証試験でも要求仕様を満たすことが確認されている。プロジェクトの評価は◎で、超音波式水位計では唯一◎を受けたという。 現在、新潟県長岡市でフィールド実証観測が行われている革新的河川管理プロジェクト(第四弾)の背景には、浮子観測を基本とした洪水時流量観測が近年の洪水の激甚化の中で、観測員の待避により観測が困難となる事案が頻発していることや観測が昼夜、長時間におよぶために人員確保が難しくなっていることにある。その課題解決のため、河川表面流速を無人もしくは省力(2人程度)で計測する機器の開発が急がれている。同社も参加するプロジェクトの完了の際は、電波式流速計および画像処理式流速計の2つの河川表面流速の観測技術を持つ水文器械メーカーとなる。 以前より、特注の監視システムも手掛けている。一般の製品のように広くニーズがあるものではなく、特定のニッチな監視システムを設計・製造して納めるものだ。日本の各地で様々な問題を抱えているが、それらは一様ではなく、それぞれの地域・地区特有の問題がある。そうした多様なニーズに柔軟に対応できることも同社の強みとなっている。加えて、自社でソフトも開発していることも大きなメリットだ。例えば、各都道府県では総合防災情報システムを有しているが、各システムの仕様やニーズは異なる。それらに合わせてソフトを変えて対応することができる。 この他、2017年12月、TENG R&Dセンターを開設した。基礎技術の研究部門であり、経験豊富な専門家を社外からも招き研究陣としており、研究開発体制の強化を進めている。特に非接触水文製品の開発、中でもマイクロ波電波応用製品の開発に注力しているという。そのような流れの中、最近開発されたのが「雨滴メーター」となる。 「雨滴メーター」は、マイクロ波を用いて、10秒単位で降雨の有無を判別検知する装置で、降雨有無の判別検知を合わせて、雨粒の大きさと雨の強さも出力する。この解析にはAIを用いているが、最適なアルゴリズムの開発も自社で行っている。 同社は今後、河川管理の省人化・高度化、防災の確実化、安全・安心の持続に寄与するため、知識、経験を駆使して、独自技術(センシング技術、アドホックネットワーク技術、クラウドコンピューティング、画像解析)に様々な要素技術を集約したシステムによるソリューションを提供していく予定だ。
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