応用地質 『ハザードマッピングセンサソリューション』

 応用地質(東京都千代田区、成田賢社長)は、同社の『ハザードマッピングセンサソリューション』が「MCPC award 2020」(モバイルコンピューティグ推進コンソーシアム主催)において、サービス&ソリューション部門の最優秀賞を受賞した。 受賞では、社会課題に対する科学的知見及び業務ノウハウを持った事業主体である同社が、エッジコンピューティング、通信、AI及びIoT/クラウド等の技術を複合活用したアーキテクチャで、費用、時間並びに労力の削減を実現するシステムを構築している点が高く評価された。 ハザードマッピングセンサソリューションの概要は次の通り。 気候変動等の影響により、豪雨・土砂災害が激甚化・頻発化・広域化傾向にあり、国土を面的かつリアルタイムで監視する多点での防災センサシステムが必要となっている。一方で、従来の防災センサは高価格かつ設置箇所の選定にも地質などの高い専門的知見を必要とするなど、財政面および人的資源の確保がボトルネックとなり、迫りくる危機に社会の対応が追い付いていない現状がある。 ハザードマッピングセンサソリューションは、エッジコンピューティング、LPWA、IoT/クラウドによる多点型防災センサと、同社の長年に渡る地質調査および防災・減災事業における知見を組み込んだAIによるセンサ設置箇所抽出機能で構成され、運用コスト及び人的負担が抑制可能な、多点・面的・広範囲・リアルタイム監視による防災・減災対策ソリューションである。 2020年8月末時点で 15ユーザ組織、86ヵ所で導入されている。 また同システムは、センサーデバイスから可視化アプリケーションまでを同社の地盤ICTプラットフォームを中心としてレイヤ分割し、ユーザのみならず他社・他機関と各レイヤにおいて様々な形での情報提供や、アライアンスを可能としている。 同社では今後とも ICT、AI、IoTなどの先端技術と国内随一の地質・地盤・防災減災に関わる知見を組み合わせ、オープンイノベーションも積極的に活用しながら、社会課題に対応したソリューションを生み続けることで、社会の安全・安心の創造に貢献するとしている。 ソリューション概括をみると、ユーザ領域では研究機関や自治体、公官庁、企業が次のプラットフォーム領域でのインターネットにつながる。ユーザ領域では▽災害現場監視▽アラートによる初動喚起▽危険度レベルを活用した総合リスク判断/BCP▽研究等におけるEUC(End User Computing)でのデータ活用-を行う。プラットフォーム領域ではセンサからのリアルタイム情報に加え各種気象情報(公的機関)の収集並びに各種地形地質情報等のDBと連携したMADP(Monitoring Data Analysis Platform)が稼働する。プラットフォーム領域では▽AIによる崩壊危険箇所の抽出▽多点広域センサデータのリアルタイム集中管理▽センサ運用管理(死活監視、動作パラメータ変更、FOTA等)▽危険度レベルの推定-を行う。 次の現場・デバイス領域では同社のハザードマッピングセンサがLPWAによりプラットフォームと接続され、斜面変位に対する傾斜センサと越水・冠水に対する冠水センサが導入されている。ここでは▽LTE Cat.M1の利用/大容量バッテリーによる省電力化・長期間メンテナンスフリーの実現▽エッジコンピューティングによるセンシングモード自動変更・省電力化-等の特徴がある。 更に詳細のシステムレイヤをみると、センサそのものである「センシング」、センサの動作やファームウエアを管理する「デバイス管理」、センサからのリアルタイム情報を収集し一時クレンジングした上で蓄積する「データ管理」、目的に応じて各種データを組み合わせて新たな情報として生成する「情報生成」並びにそれらの情報をあらゆる形式のUIを駆使して活用促進する「情報活用」の5層に機能分担させ、それぞれのレイヤでハード、データ及び情報等を他社或いは他機関と共有・交換活用できるアーキテクチャとして構築されている。これにより利用者の既存資産を有効活用しながらシステムの融合を図り、導入の容易性を確保する狙いがある。 特に同社の強みは「データ管理」「情報生成」のレイヤで、ここは応用地質地盤ICTプラットフォームの中心部分でもあり、応用地質が所有する地盤・地質等のデータベース群が置かれており、目的別情報生成アプリケーション群によってイベント発生判定、情報蓄積、情報変換生成等が行われている。 松井恭情報企画本部ITソリューション企画部部長はハザードマッピングセンサソリューションの提供価値を次のように話した。 「現状、実データを取得できるセンサの配備数が少ない。減災・防災分野は『危機対応』『事前防災』の領域であるが将来的には『予知防災』が実現されることが望ましい。そのためにも事実データを取得できるセンサの増強は必須で、長時間・多点・面的なリアルタイム監視の実現に向け、センサ運用における「設置・活用・管理」の3要素全てに対し、通信・AI・IoT/クラウド技術で費用・時間・労力を削減し、トータル的なコストダウンを目指していく」と述べた。  同社は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期『国家レジリエンス(防災・減災)の強化』のテーマⅦである「市町村災害対応統合システム開発」の共同研究開発に参加している。同社では、同研究開発のコア技術となる崩壊切迫性判断および土砂影響範囲推定方式の開発やIoTセンサ及び衛星データを活用した防災モニタリング技術の開発など、同社が得意とする専門技術や知見を活かしながら技術開発を行っている。 「国家レジリエンスでも言われているが近年、災害が広域化しておりかつ頻発しかも激甚化している。何か起こってから行動しては後手後手に廻るため行政や住民の防災意識向上も重要。事前防災の仕組みも強化していかないといけない。現状では災害予知はまだまだ難しいがこれらのことを考えると、推定ではない実データを取得できるセンサをどれだけ多く増やしていけるのかが課題と考える。私どもは、最終的には予知防災につながればいいと思っているが、現状できっちり対策がとれる仕組みを、なるべくランニングコストを抑えつつ実行できることを重視している。それこそ10㍍ごとにセンサを置くことができればそれに越したことはないが、有効範囲を確実にピンポイントで見つけていくことも大事だろうと思う。一方で、センサだけでは万全ではないことはわかっている。傾斜センサが反応しても雨が降っていないのに大きな変位が発生したとしたらイノシシの様な鳥獣がぶつかったかもしれない。また、急激な温度の変化は地表面やセンサ自体の膨張・収縮の発生を引きおこし、計測データに影響を及ぼす。更に同じ変位量でもその地点の地形や地質によって評価は大きく変わってしまう。よって気象データや地形データを分析して総合的な判断を行うことが必要で、応用地質のハザードマッピングセンサソリューションはトータルソリューションで総合的な分析が行える点が強みだ。センサだけだったら誰でも作れるが本来センシングしなければいけない事象であるのか否かを判別し、どのような意味を持つ事象であるかを認識した上での情報処理でなければ意味がない。水位計や冠水計といったセンサ群とその他のデータ及び情報を組み合わせてトータルでハザードマッピングセンサソリューションとなっている。さらにコストを少しでも削減して提供したいので、最新の通信方式、LPWAも取り入れており。プラットフォームは私どもの自営クラウドに集約してインターネット経由で様々なお客様にデータを提供している。センサは当社の計測システム事業部が主導して製作しLTE―Cat.M1を使っているので省電力でバッテリーも大容量となっている。目指したのは1回設置したら5年間メンテナンスフリーでありエッジコンピューティングで様々な制御を行っており、通信回数をどれだけ減らせられるかも設計時に留意した」とアピールポイントを話した。 さらにリモート監視の優位性を説明。「現地に入ると山奥。出かけるのは大変。一人で行くと様々な危険もあるのでコンビで行かなければいけない。メンテナンスのために何度も現場に行ってコスト負担とリスクが増加しないようリモートメンテナンス機能が威力を発揮する。従来のセンサの場合、不具合が見つかると内部装置を入れ替えに行かなければいけない。当社のシステムは、遠隔で一気にファームウェアで書き換えることができる。また監視に当たっては常時通信を続けるとすぐにバッテリーが無くなり通信料が高くなるので、ある一定の変化が発生しない限りは何も通信しないという運用モードをデフォルトにしている。もちろん1日に1回死活監視を兼ねた定期送信は行っており、リアルタイムには通知しなかった1日分の計測データのすべてをまとめてクラウドに送信している。ある一定の変化量を検知するとこれは〝特異なデータ〟としてクラウド側に通知を行うが、以降で一定の変化量よりも少なければ通知は継続しない。大きな変化がなければリアルタイムに監視する必要はないということ。さらにかなり大きな変化が起こった場合は〝何らかの危険現象の予兆の可能性〟と判断しエッジ側でモードが変わる。モード変更後は計測周期間隔を短くし、すべての計測データはリアルタイムにクラウドに送信する。こういったことはすべてクラウド側からその変化量閾値や計測時間間隔の設定ができる」と述べた。 AIの活用にも積極的だ。応用地質の社内には、地図やデータから斜崩壊の初端となる場所を見つけ出す〝専門家〟が大勢いる。彼らが実際に電子地形図や数値標高モデルを使ってその地点を抽出する作業を実施し、その結果や考え方のプロセス等を教師データにしてAIへディープラーニングしている。従来専門技術者が行っていた作業に比べて、一時スクリーニングとしては十分な再現率と適合率で、約1/100の時間で抽出が可能だという。 「SIPの研究において、我々は任意の斜面が崩れたら何処にどれだけの危険度として影響するかということを最終的な生成情報として50㍍メッシュ単位で推定するという取り組みを行っている。ただし、SIPのシステム全体では土砂災害ブロック以外にも河川氾濫ブロック等様々な危険度推定ブロックが並列し、それらの生成情報を統合してAIを活用した統合リスクレベルの判定や避難判断を支援するブロックを九州大学が担当している。SIPにて目指しているAIを活用したシステムは、このハザードマッピングセンサソリューションの情報提供の一つの出口でもある。」(同) 応用地質は2019年8月、IoTおよびビッグデータ分析の最新技術を活用した「自治体向け災害対策情報提供システム」の、自治体へのサービス提供を開始。このシステムは、同社が提供する各種防災モニタリング情報のほか、KDDIの人口動態データやトヨタ自動車のコネクティッドカーから得られるプローブデータ、気象庁などが提供する気象情報などを地図上に統合し、自治体が災害時に必要とする地域の情報を提供するもの。KDDIのUIで各種情報を統合的に表示するにあたって各社のプラットフォームが連携するアーキテクチャーで組んでいる。具体的には戦術の応用地質のMDAP(水位計、傾斜計、地震計、冠水センサなど)と、トヨタのMobility Service Platform(統計処理された、交通情報ブロープ、ハザードランプ作動、外気温など)及びKDDIのデータ分析基盤(分析・集計・秘匿化処理等を実施)が連携している。 応用地質の防災・減災ソリューションの同業他社に負けない強みを聞いた。 「防災・減災ソリューションでは近年、私どもの業界の同業者ではないセンサ、通信関係、SIerの会社が参入している。そういう会社に対しての私どもの強みは創業以来、地形、地質の基礎情報から始まって発災メカニズムや被害・影響のメカニズム、対策立案及び効果測定等の一貫したデータ、情報及び知見を蓄積していることだ。そういった専門性の部分がひとつの強みである。一方、私どもの同業他社、建設コンサルタント業、地質調査業との差異化は、私どもはセンサや計測システムを自ら作るメーカー部門を持っていることだ。センシング部分の知見があること、製品をすぐ作れるといったことは他社にはない。その部分が同業他社に対する大きな強み。総合的に私どものこういった部分は、近年の災害の激甚化の中で強みをますます発揮できると思う」(広報)。