NICT、日本アンテナなど 線状降水帯の水蒸気観測網を展開

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、国立研究開発法人防災科学技術研究所、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学、学校法人福岡大学、日本アンテナ、気象庁気象研究所、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の7者は、短時間雨量予測の精度向上へ挑戦するべく、線状降水帯の水蒸気観測網を本格的に展開すると発表した。7者は2022年6月から九州地方で線状降水帯の水蒸気観測を開始。7月からはその観測体制をさらに強化して、九州の11の自治体との実証実験を通して線状降水帯予測の精度検証を実施している。ここでは、気象庁気象研究所が中心となって実施する線状降水帯の集中観測に参加し、防災科学技術研究所をはじめとした研究グループが陸上における水蒸気観測で中心的な役割を担い、リアルタイムでデータを提供している。そして、水蒸気観測データを大学・研究機関に提供し、線状降水帯の発生メカニズム解明につなげる。また、日本アンテナによる地デジ水蒸気観測データ配信サービスの事業化も目指す。##本文 近年、西日本では線状降水帯による大規模水害がほぼ毎年7月上旬に発生している。線状降水帯の予測研究は被害を低減するうえで極めて重要で、防災科学技術研究所(防災科研)をはじめとする研究グループは、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において線状降水帯の予測研究にいち早く取り組んでいる。 この一環として2022年6月から九州地方に整備した水蒸気観測網による観測を開始し、線状降水帯による水害に向けて7月からは観測体制をさらに強化。九州の11の自治体と共同で予測精度の向上を目指した実証実験を実施している。また、気象庁気象研究所が中心となって実施する線状降水帯の集中観測に参加し、陸上における水蒸気観測で中心的な役割を担い、リアルタイムでデータを提供している。さらに、この観測データを大学・研究機関に提供することで、今後、線状降水帯の発生メカニズムの解明につなげる考えだ。予測精度向上の鍵となる水蒸気観測データ配信サービスの民間事業化も目指す。 内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」において2018年度から実施している、新しい線状降水帯の観測・予測システムの開発プロジェクトでは、これまで積乱雲の観測・予測研究を行ってきた防災科研が中心となり、NICTと日本アンテナによる、地上デジタル放送波を用いた水蒸気量観測、福岡大学と気象研による水蒸気ライダー観測、防災科研によるマイクロ波放射計観測、名古屋大学による航空機観測などの技術開発を進めてきた。こうした最新の水蒸気観測データを予測に用いることで、2時間先までの線状降水帯の予測精度向上を目指した技術開発を行っており、九州の11の自治体と実証実験を通して予測精度の検証と予測情報の利活用の検討を進めている。 また、この観測は、気象研が中心となって実施する線状降水帯の集中観測において、陸上における水蒸気観測の中心的な役割を担っている。 なお、地デジ水蒸気量観測に関しては、2020年度内には、NICTと日本アンテナが共同で開発した地デジ水蒸気量観測機器を熊本県の北部に2台、大分県、福岡県、佐賀県にそれぞれ1台設置し、合計5台で観測を開始。2021年5月には防災科研のマイクロ波放射計を熊本県天草市に設置し観測を開始。2022年3月までに熊本県以南に10台の地デジ水蒸気観測機器を設置し、合計15台の地デジ観測網の整備が完了している。 今回、7月から観測体制を強化した。海上での水蒸気量の把握を目指した航空機観測を実施。この観測データを全国の大学・研究機関に提供し、線状降水帯の発生メカニズムの解明につなげる考えだ。 現在、全国で利用可能な地デジ放送波による、低コストな水蒸気観測法の実用化も目指している。具体的には、日本アンテナによるデータ配信クラウドサービスの事業化に向けた、九州地方での試験運用を開始している。 ※地上デジタル放送波を用いた水蒸気量観測の原理:空気中の水蒸気量が増えることにより、非常に小さな変化だが電波の伝搬速度が遅くなる。この変化を捉えることにより、伝搬路上の水蒸気量を観測している。観電波の遅れを位相変化(波の位置変化)として測定。実際の観測では、放送局の送信機・観測点の受信機の位相雑音が電波の遅延による位相変化より圧倒的に大きいため、「反射波法」と呼ばれる手法を用いている。NICTが開発した「反射波法」は、観測点で放送局から直接来る電波(直達波)と建物などで反射してきた電波(反射波)を同時に受信し、反射波から直達波の位相変化を引くことで観測点と反射体との間の位相変化を観測する手法。直達波には放送局の送信機の位相雑音と観測点の受信機の位相雑音、放送局と観測点間の水蒸気量による位相変化が含まれる。一方、反射波には直達波に含まれる位相雑音に加え観測点と反射体間の水蒸気量変化による位相変化が含まれるため、差を求めることで観測点と反射体間の水蒸気量変化に伴う位相変化が観測できる。