NICTなど、ゲリラ豪雨予報を30秒ごとに更新
理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、情報通信研究機構(NICT)電磁波研究所リモートセンシング研究室の佐藤晋介研究マネージャー、大阪大学大学院工学研究科の牛尾知雄教授、「エムティーアイ」ライフ事業部気象サービス部の小池佳奈部長、筑波大学計算科学研究センターの朴泰祐教授、東京大学情報基盤センターの中島研吾教授らの共同研究グループは、8月25日から9月5日まで、首都圏において30秒ごとに更新する30分後までの超高速降水予報のリアルタイム実証実験を行っている。この研究成果は、近年増大する突発的なゲリラ豪雨などの降水リスクに対して、コンピュータ上の仮想世界と現実世界をリンクさせることで、超スマート社会Society5・0の実現に貢献すると期待できるとしている。 共同研究グループは、2016年にスーパーコンピュータ「京」とフェーズドアレイ気象レーダ(PAWR)を生かした「ゲリラ豪雨予測手法」を開発した。今回、この手法を高度化し、さいたま市に設置されている情報通信研究機構が運用する最新鋭のマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP―PAWR) による30秒ごとの雨雲の詳細な観測データと、筑波大学と東京大学が共同で運営する最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)のスーパーコンピュータOakforest―PACSを用いて、リアルタイムで30秒ごとに新しいデータを取り込んで更新し、30分後まで予測する超高速降水予報システムを開発した。この予測データを、理研の天気予報研究のウェブページでは30秒ごとに分割して連続的に表示する。これまでの天気予報と比べて桁違いに速い速度で更新することにより、わずか数分の間に急激に発達するゲリラ豪雨を予測できる。このリアルタイム予報は世界初かつ唯一の取り組みで、研究開発に着手した2013年10月から継続してきたさまざまな成果の集大成となる。 実証実験で得る予報データは、気象業務法に基づく予報業務許可のもと、理研の天気予報研究のウェブページ、エムティーアイのスマートフォンアプリ「3D雨雲ウォッチ」で公開している。 ただし、この予報は試験的に行うものであり、実用に供する気象予報に十分な精度や安定した配信環境が保証されたものではなく、利用者の安全や利益に関わる意思決定のための利用には適したものではない。 近年、局地的に突発的な大雨をもたらす「ゲリラ豪雨」のリスクが高まっている。スーパーコンピュータを使ったシミュレーションに基づく現在の天気予報は、1㌔㍍より粗い解像度で、1時間ごとに新しい観測データを取り込んで更新される。例えば、気象庁で運用されている局地モデル(LFM)は、全国を対象に解像度2㌔㍍で1時間ごとに新しい観測データを取り込んでいる。しかし、ゲリラ豪雨は、わずか数分の間に積乱雲が発生し、急激に発達するため、現在の天気予報では予測が困難だ。また、1㌔㍍より粗い解像度では、ゲリラ豪雨を引き起こす積乱雲を十分に解像できない。 三好建正チームリーダーらは2016年に、スーパーコンピュータ「京」を使った解像度100㍍の高精細シミュレーションと、フェーズドアレイ気象レーダの双方から得られる高速かつ膨大なデータを組み合わせることで、「解像度100㍍で30秒ごとに更新する30分後までの天気予報」という空間的・時間的に桁違いな「ゲリラ豪雨予測手法」を開発した。しかし当時は、本来30秒以内に完了しなければならない計算に、およそ10分かかっており、30秒ごとに送られてくるデータを時間内に処理できず、リアルタイムに動作させることはできなかった。 また、2017年には、内閣府のSIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」の施策として、情報通信研究機構をはじめとする研究グループが開発した世界初の実用型「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP―PAWR)」が、埼玉大学(さいたま市)に設置された。 今回、共同研究グループは、リアルタイムの予測を実現するためのさまざまな技術的課題に取り組んだ。まず、計算時間を大幅に短縮するため、スーパーコンピュータ上での大規模データの入出力を抑える工夫を行うとともに、予報モデルの計算を高速化した。これにより、およそ10分かかっていた計算時間を20秒程度にまで短縮し、約30倍の高速化に成功した。 また、2019年8月にシャットダウンしたスーパーコンピュータ「京」に代わり、筑波大学と東京大学が共同で運営する最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)のスーパーコンピュータOakforest―PACSを使用できるように、システム全体の移植を行った。これにより、システム全体の汎用性が増した。さらに、新しいMP―PAWRの観測データを即時にOakforest―PACSに転送するデータ取得ソフトウエアJIT―DTを開発した。 このほか、米国国立環境予測センターの全球数値天気予報システムの予報結果をリアルタイムに取得し、これを側面境界値とした解像度18㌔㍍の領域から、解像度6㌔㍍の領域、解像度1・5㌔㍍の領域、解像度500㍍の予報領域までを4重の入れ子にして、リアルタイムに実行するための全体のワークフローを構築した。 開発した超高速降水予報システムでは、雲の発生・発達・衰弱・消滅などの気象学的なメカニズムを考慮したシミュレーションを用いるため、短時間で発達するゲリラ豪雨の急激な変化を捉える。そのため、現在実用されている気象庁の高解像度降水ナウキャストでは捉えられなかった数分で急激に発達する雨雲を、実際のMP―PAWRによる観測のように予報できる。 また、この急発達する雨雲のすぐ西側では、雨雲が衰弱している。気象庁の高解像度降水ナウキャストでは、この変化が捉えられず、強いままになっているが、本予報システムでは、実際のMP―PAWRによる観測のように雨雲の衰弱を予報できることを確認した。 増大するゲリラ豪雨のリスクに対し、直前予測による対応は重要であり、コンピュータ上の仮想世界と現実世界をリンクした超スマート社会Society5・0の好例となる。2016年に開発した「ゲリラ豪雨予測手法」が、今まさにリアルタイムに実証実験する段階となった。今後、この実証実験の結果を分析、検証することで、実用化の加速が期待できる。
この記事を書いた記者
最新の投稿
- 実録・戦後放送史2024.09.02連載にあたって
- 筆心2024.09.022024年8月26日(第7712号)
- 放送ルネサンス2024.09.02放送100年特別企画 「放送ルネサンス」第1回
- 放送2023.09.01ビデオリサーチ 災害情報入手経路の7割が地上波民放テレビ