eスポーツ直前脳波から勝敗パターンを発見

 NTTは、eスポーツ対戦直前の脳波に勝敗と強く関わるパターンの存在を世界で初めて発見し、この脳波データから直後の試合結果を高精度に予測することに成功したと発表した。本成果は、競技直前の脳に最適な状態が存在することを示すとともに、競技パフォーマンスの予測に脳情報が有効であることを示すもの。将来的に、スポーツ、医療、教育などさまざまな現場で活躍する人々の脳状態の最適化によるパフォーマンス向上や、熟練者の高度なスキルを生み出す脳状態のデジタル化によるスキル伝承の実現に向けた大きな成果としている。
 NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、すべての人が自分の能力を最大限に引き出せる社会を目指して、心と体を調整する脳の仕組みを研究している。アスリートは本番の強いプレッシャーの中で最高のパフォーマンスを発揮することを目指し、「メンタル」と呼ばれる本番に臨む状態を最適に調節しているものと考えられている。アスリートが本番に臨む際の脳状態はメンタルと強く関連していると考えられ、これまでにもいくつかの競技で脳状態と瞬間的なパフォーマンスとの関係は調べられてきた。しかし、実戦中の計測の困難さもあり、対戦競技の勝敗と関係する脳状態は見出されていなかった。
 また近年、スポーツアナリティクス技術の進展に伴い、競技の勝敗予測をする技術は進展しており、過去の競技成績に基づいた試合結果の予測精度は飛躍的に向上している。しかし、「実力が拮抗した試合」や「番狂わせ」といった不確定要素の多い試合結果の予測には困難を伴っていた。
 本研究では、身体運動機能の違いよりもメンタルゲームの側面が強く、脳計測に適している、eスポーツの格闘ゲームを対象に、試合中の選手の脳状態を脳波計測(EEG)により観測した。これにより、アスリートが試合に臨む際の理想的な精神状態がどのような脳波パターンから生じるのかを調査した。そして、対戦直前のプレイヤーの脳波データに存在する、勝敗と強く関連するパターンを特定した。これにより脳波データから試合結果を約80%の精度で予測することが可能となり、従来の予測技術では難しい「実力が拮抗した試合結果」や「番狂わせ」といった試合展開も予測できる可能性が示された。
 試合の勝敗と関連する脳波パターンを調査するため、eスポーツの格闘ゲーム熟練者同士が実戦と同じ2ラウンド先取制の試合を行っている最中の脳波(EEG)を計測した。eスポーツの勝負には「戦略判断」と「感情制御」が重要であると言われており、プレイヤーへのアンケート結果からも、第1ラウンドの直前期間では戦略判断の重要性が高く、第3ラウンドの直前期間では感情制御の重要性が高いことがわかった。そこで第1、第3ラウンドの直前期間の戦略判断と感情制御に関わる脳波パターンに着目し、それらと勝敗の関連を調べた。すると、戦略判断に関わる左前頭脳領域のγ波が試合の序盤(第1ラウンドの直前)に増大している時、また感情制御に関わる左前頭脳領域のα波が試合の終盤(第3ラウンドの直前)に増大している時に試合に勝ち易いことが明らかになった。

この記事を書いた記者

アバター
kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。