放送100年 特別企画「放送ルネサンス」第33回

大橋弘明

ハートネットワーク代表取締役会長/ケーブルテレビ情報センター理事長

大橋弘明 さん

大橋弘明(おおはし・ひろあき)氏。1952年生まれ。静岡県浜松市出身。1975年同志社大学経済学部卒業。1988年3月新居浜テレビネットワーク(現ハートネットワーク)代表取締役社長。2020年ハートネットワーク代表取締役会長(現職)。2023年一般社団法人ケーブルテレビ情報センター理事長(現職)。

大橋弘明さん インタビュー

地方局が生き残るには独自番組への「心意気」

2025年3月14日

ご自身にとって放送とはどういう存在か。放送への思いを聞きたい

 最初にテレビ放送を見たのは、1959年4月10日の「皇太子ご成婚」祝賀パレード中継だった。街頭テレビもあった時代だが、早くから家にテレビがあり、近所の人が集まっていた。テレビは〝びっくり箱〟で〝動く紙芝居〟だった。懐かしい思い出は大相撲中継やプロレス、アメリカのドラマなどで、特に衝撃的だったのは初の日米宇宙中継だった1963年11月23日のケネディ大統領の暗殺事件だった。また、「ひょっこりひょうたん島」や「鉄腕アトム」といった子供向け番組も興奮して見ていた。
 高校生の時は、ラジオの深夜放送をよく聞いていた。自分でアンテナを張って「オールナイトニッポン」(ニッポン放送)や「走れ歌謡曲」(文化放送)を聴いていた。大学は関西だったので「ABCヤングリクエスト」(朝日放送ラジオ)もよく聴いた。地方にいると、東京・大阪の最新情報を聴きたい、音楽を聴きたいという思いが強かった。地方にはない話題ばかりで青春の思い出だ。
 

わが国で放送が果たしてきた役割をどう評価しているか

 放送は国の一体感を作り上げたのではないかと思う。北海道から沖縄までがみんな同じ番組を見ることで日本という国をひとつの国にまとめる力があった。日本のあちらこちらを訪ねて、その町の史跡や名物などを紹介する旅行番組などは、今みたいに全国津々浦々の情報が簡単に入手できた時代ではないので、テレビから得られる情報は新鮮で、ワクワク感や情操を豊かにしてくれた。放送はそうした面で最適なツールだった。
 

現在の放送の問題点や課題をどのように考えているか

 情報を入手する手段が放送以外で簡易に、しかも安く得られるようになってきた。もともと放送のひとり勝ちだったのが、別の手段が増えてきたことで放送自体のあり方を再考すべき時期が来ている。ワクワク感が無くなり、放送が果たしてきた役割が変わってきた。今の放送は従来の番組の継承に捉われすぎて〝ニーズに応えていない〟。
 特に、課題となっている若年層に応えていない。NHKと民放で分けて考えると、昔はNHKの放送は高齢者向け番組だった。今は民放の番組が高齢者向けとなっている。それは主にスポンサーの問題だと思う。テレビの視聴者が高齢者ばかりのため、スポンサーもそちらをターゲットにする。民放は、スポンサーにおもねる形で高齢者向けの番組ばかり作っている。ますます若年層は面白くないから離れていく。悪循環だ。逆にNHKは若年層向けの番組を多くやっているイメージだ。
 これはどっちが正しいかではなく、NHKはスポンサーがないから、自由にいろいろな企画ができてチャレンジしやすい。民放はスポンサーからの収入で動いているのでその意向に添っている。昔は、番組を先に作ってそれに対してスポンサーはどうですか―というイメージだったが、今はこんな企画はどうですかといっても、スポンサーの了解が出ない。スポンサーがつかない企画は取り上げない。
 

そうした中でテレビ離れも進んでしまった

 〝テレビ離れ〟という言葉は嫌いだが、テレビというツールは、パネルとしては今でも若年層はゲームに使っているし、最近はネットフリックスもパソコンやスマホで見るよりテレビで見る人が多く、そういう意味で言うと、テレビ離れではなくて〝テレビ番組離れ〟ではないか。要はそこに流れている番組に問題がある。
 それは、音楽系とかお笑い系の番組では、芸能プロダクションの人たちとテレビのプロデューサーが一体になってチームで番組を作っているため、どこの局も似たような番組で金太郎飴っぽい感じがする。何かひとつ流行るとすぐその企画をなぞる。ある程度視聴率が取れればいいと、外れを避け、当たった企画をなぞり、革新的アイデアはあまり出ない。どっちかというと、革新的なアイデアを出しているのは準キー局や地方局だったりする。
 

ネットが普及して、今後、放送は生き残れるかどうか

 ラジオは実は今、人気があるメディアだ。昔は投稿者からリクエストハガキを受け付けて、ハガキを読んで希望の音楽を流してコメントがあったらそれに答えるやり方。今はSNSを仲立ちにして放送中にダイレクトに聴取者とやり取りをする。リターンの速さがあって、若年層の人たちにとって全く知らなかった新しいツールになっていると思っている。パーソナリティとリアルタイムでやり取りできるインタラクティブなツール、距離感が近い身近なメディアとして、ラジオ放送は生き残れる可能性がある。スポンサーが付きにくいという課題はあるが、AMからFMに転換し音質もよくなるし、十分やりようによっては大きく変化する可能性を秘めている。
 テレビはどうか。コンテンツをクリエイティブすることに関しては、日本のテレビ業界は世界でもトップクラスだと思う。まだまだ未来がある。海外に向けた番販を前提としたコンテンツ作りをしていけば、コンテンツについては、十分生き残っていく可能性がある。
 問題は地上波としての放送だ。単に誰かが作ったものを受けて流すだけなら、アンテナで放送波を受ける無線より、有線の方が遥かに有利だ。放送波に拘るのなら、もう一工夫が必要だろう。日本全国で見れば、民放の全系列の番組をしっかり見られる地域は、そうない。だから、昔はそれが見られない〝飢餓感〟があって、それを再送信で見せてビジネスにしたのがケーブルテレビ。しかし、今はコンテンツを見る手段が他にも色々あるため、これ以上チャンネルは必要ないと言われかねない。だから頑張らないと放送局が成り立たなくなる。

 

放送波という無線を使った「放送」は、この先更に厳しくなるということか

 「TVer」の登場で、キー局の見たい番組が映らない地方の人も見られるようになった。経営陣にとって、これは時代の流れだから仕方がないと思いながら、放送業者としては本業の放送の自己否定に繋がりかねないと悩んでいるのではないか。つまり「TVer」などはユニキャスト(ネットワークを通じて、特定の一人を対象としてデータなどを送信する通信方式)であってあくまで通信手段。無線放送とは言えず、自ら放送を否定することになってしまう。加えて放送波によるカバレッジは、デジタル化による難視地域が出たりして、様々な意味で縮小しているのは事実。
 

放送が生き残るためには何が必要か

 日本ほど地上波のチャンネルが多い国は珍しく、24時間365日、地方局も含め、これだけのチャンネルを埋めるのはなかなか難しいと思う。
 日本テレビが基幹局4局共同で認定放送持株会社を設立するニュースもある。現状は固定費を圧縮していく方向に行かざるを得ず、将来的には放送局の数を整理しないとビジネスが成り立たない時代が来るだろう。そうすると限られた放送波と時間帯の中で、カバーエリアが広くなり、ローカル情報が薄まらざるを得なくなる。それをどう考えるかだ。
 また、2012年の地上デジタル放送の放送設備が更新時期に来ているが、経営体力の弱い地方局はどうなのかということも課題だ。総務省は中継局の共同利用推進などを掲げているが、ハードの問題はテクニックの問題として進めていけばよい。
 

地方局の生き残りに何が必要か

 地方局の生き残りに必要なのは、ハード以上に、独自番組作りへの〝魂〟というか〝心意気〟だ。今、全国の地方局は独自番組を一生懸命作っている。そうした気概を持つ地方局が増えている。
 今年2月9日に松山市で「第62回愛媛マラソン」が行われた。ここでは地元民放の南海放送(RNB)が1万人を超える市民ランナーの力走を約6時間たっぷり生放送した。系列キー局の番組を全部カットして放送した。独自色を出すことが地方局の生き残り戦略。地方局も、自分たちで作っていくという気概、コンテンツを作る力、制作局としての力を持てば生き残れるのではないかと思う。
 

地方局が地域情報に特化していくことで本当に見てくれるようになるか

 作って流して観てくれだけではない。それに加えて、これからは見る人が参加する、視聴者と一緒になった番組作りが必要。愛媛マラソンではテレビに映っているランナーが全部タレントだ。近所の人が映るかどうかワクワク感がある。だからマラソンのスタートからゴールまで全部流す。地元の人と一緒になって番組を作っていくコンテンツであれば、バリューがあると思う。
 冒頭でお話した、放送が日本を一体化したこととは逆になるかもしれないが、地方局の役割は、東京から少し離れてローカル番組をローカルのためにローカルの視聴者とともに作る。その場を提供するのが放送事業者であるということ。そこに参加する人が今度はスポンサーになるかも知れない。これからは、地方局は、マスメディアではなく、よりミニマムな世界にどれだけ入っていくかが問われるメディアになり、さらに、そうした番組を外に販売することも考えていく必要がある。難しくても、そういう方向に行かざるを得ないのではないか。
 

地域のケーブルテレビと目指すところが似てくるのはないか

 地元の人たちと一緒に番組を作ることがケーブルの強みになるとして取り組んでいる。千差万別で、ローカルの民放と組んで、一緒に映画を作ったり、相互に人を出して協力したりするところもある。お互いにうまく利用しあってやって行くのも一つの考え方だと思っている。
 

ネットの普及等により、ネットが放送に置き換わって行くという見方もある

 全部ネットに放送の番組をアップロードすれば、アンテナは一切いらなくなる。ネット回線は大手通信キャリアの持ち物で、ケーブルテレビもあるが、それに載せられれば楽でいい。IPTVは、日本では遅れているが世界的な潮流だ。
 その時、日本での最大の障壁は県域放送という括りだ。ネットの世界では県域で止めようとするとすごくお金がかかる。日本国内同時に流せるようになればお金は大してかからない。しかし、そうすると日本の放送免許制度が壊れ、キー局と準キー局と系列ローカル局の経営のあり方の話に戻ってしまうため、放送事業者の皆さんは慎重になる。
 しかし、ローカル局も自分たちの作った番組を全国に発信することは容易になると考えれば、コンテンツ力のある人たちにとってはチャンスになるはずだ。今まではみんな一緒に進む護送船団方式だったが、これからはコンテンツ制作力の差で多少の優劣がつくのは仕方がない。
 

無線としての放送が無くなっても問題はないのか

 視聴者はコンテンツがどういう方法でテレビモニターに届いているかについては関心がない。上から電波が降ってきているのか、ケーブルテレビのFTTHで送られているのか。視聴者にとってどんな方法なのかは興味がなく、ただ見られればいい。ポイントは良いコンテンツをできるだけ安く見られるという世界だ。そういう人たちを、どう繋ぎとめていくかが結局は放送の課題となるだろう。

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(敬称略:あいうえお順)