量子コンピュータで屋外多数同時接続実験に初成功

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、アニーリング型の量子コンピュータ(量子アニーリングマシン)と古典コンピュータとを併用する新たな演算手法(量子とデジタルをハイブリッドしたアルゴリズム)を開発し、次世代移動通信システムにおける活用が求められる非直交多元接続技術の信号分離処理に適用した無線通信実験に成功したと発表した。量子アニーリングマシンを利用したアルゴリズムを用いて、実フィールドにおける多数同時接続技術(非直交多元接続技術)のオンラインでの実証を行ったのは世界初という。
 現在の第5世代移動通信システム(5G)では、同一周波数・同一時間を使用して、基地局アンテナ1本当たり1台の端末局と通信を行っている一方、次世代移動通信システムでは、5Gと比較して同時接続数を10倍以上とすることが期待されている。本アルゴリズムを用いることで、基地局アンテナ1本当たり少なくとも7台まで端末局との同時接続が行えることをシミュレーションで確認するとともに、4台との同時接続を屋外実験で実証した。
 NICTによると、非直交多元接続技術では、数万通り以上の大規模な組合せ最適化問題を解く必要があるが、本アルゴリズムを適用することで、従来手法と比較して信号分離処理に要する計算時間を約10分の1に短縮できることを示した。本アルゴリズムが実用化されれば、次世代移動通信システムにおいて、これまで膨大な計算量が障壁となっていた組合せ最適化問題(大規模なビームフォーミング等)を、短時間で行えることが期待される。
 次世代移動通信システムでは、現在の第5世代移動通信システム(5G)と比較して、同時接続数を10倍以上とすることが期待されている。これを実現する技術の一つとして注目されているのが、非直交多元接続技術という。5Gでは同一周波数・同一時間を使用できる基地局アンテナ1本当たりの端末局数は1台だが、この技術を用いることで複数台にすることが可能となる。ただし、基地局では複数端末局から送信された信号を重畳して受信することから、端末局ごとに受信信号を分離する処理(信号分離処理)が必要になり、端末局数が増えるにつれて受信信号の組合せの数が指数関数的に増加するため、信号分離処理に要する計算量が増え、時間が掛かってしまう課題があった。
 組合せ最適化問題を高速に解くことができる計算機として注目されているのが量子アニーリングマシンだが、汎用的な計算は得意ではない。非直交多元接続技術を含む次世代移動通信システムにおける信号処理では、大規模な組合せ最適化問題だけではなく、汎用的な計算もまた必要になることから、量子アニーリングの強みをいかせる実用的な演算手法の実現が課題となっていた。
 NICTは、量子アニーリングマシンと古典コンピュータとをハイブリッドすることで、実用的な演算手法(本アルゴリズム)を開発し、無線通信で用いられる信号処理に適用し、オンラインでの実証を行った。
 本アルゴリズムは、組合せ最適化問題の計算を得意とする量子アニーリングマシンを組合せの候補(正解とは限らない)を出力するサンプラーとして使用し、マイクロ秒オーダーの時間内で複数の候補を得た後、古典コンピュータにおける事後処理(NICTの独自技術)を適用することで、限られたサンプル数でも精度良く統計分布に従う解を得る演算手法だ。これは、単に二つの異なる計算機を接続するのではなく、各計算機の長所をいかせるよう設計の工夫を行っており、組合せ最適化問題を含む様々な信号処理の問題に適用することができる。
(全文は8月2日付紙面に掲載)

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。