【CATV特集】住友電気工業 今年の注力ソリューション
「電波タイムズ」は新春を迎えて、住友電気工業株式会社ブロードネットワークス事業部の泉英介CATVシステム部部長に今後の製品戦略をインタビューした。同氏は「今年、注力するソリューションは、ケーブルネットワークの強靱化・大容量化や放送での4K/ACAS化、オールIP化について取り組む」と話した。 ――住友電気工業株式会社ブロードネットワークス事業部が今年、注力するソリューションについてお話しください 「ひとつ目はケーブルネットワークの強靱化・大容量化です。令和3年、総務省の『高度無線環境整備推進事業』などでの補助金交付で、地域の光ファイバー整備事業が進み全国のケーブルテレビ局様のFTTH化が進みました。現在も光ファイバー整備事業への投資意欲は衰えておらず、当社も光ファイバーの敷設工事、光伝送設備や放送設備・通信設備等を継続して納入しています。新型コロナウイルス感染症の拡大によって、リモートワークやオンライン会議といった用途で、ケーブルインフラを使った通信トラヒック量が非常に伸び続けています。トラヒックの増加に対応すべく、設備を増強する、回線を太くするなどの投資が引き続き旺盛に行われると見込んでいます。一方で、昨年、通信設備の故障により、大規模な通信障害につながるニュースもありました。ケーブルネットワークも通信障害に対する備え、安心安全なネットワークの構築という要求があって、こうしたことも背景にネットワークを強靱化する、増強する流れになっています。以上がケーブルネットワークの強靱化・大容量化を注力するソリューションに挙げた理由です」 ――2つ目の4K/ACAS化についてお聞かせください 「放送サービスではサッカーの『2022FIFAワールドカップ』の開催もあって、4Kテレビを中心にテレビの買い替え需要が引き続き旺盛です。一方、スマホ、タブレットやOTTサービスの普及により、特に若年層でのテレビ視聴時間が年々減っている状況です。当社もケーブルテレビ事業者様に4K対応設備を提案していますが、なかなか4Kコンテンツが普及していない側面もあります。より魅力的なコンテンツを高精細な画質で放送し、テレビ回帰させる必要があると考えています。そこで2つ目の注力ソリューションに4K/ACAS化を挙げました。ACAS方式とは、新4K/8K衛星放送対応機器で使われるCAS方式のことです。現在のC―CASは、2030年にサポート終了が予定されており、新しいACASのシステムへ移行する必要があります。4K/ACASの設備更新は〝待ったなし〟。ヘッドエンドの送出装置やSTBも含めて4K/ACAS化を進めていく取り組みに注力していきます」 ――3つ目のオールIP化への取り組みについてお話しください 「現在、業界としてケーブルテレビ放送のIP化の取り組みを進めています。現在、放送はRF信号で流していますが、今年、IP放送のフィールド実験の計画もあり、IP放送の運用規格の検討が、日本ケーブルラボにて進められております。通信も放送もIPで流すことからオールIPと呼んでいますが、新たなケーブルの利用価値創造ができるのではないかと考え、このオールIP化へ注力していきます」 ――それではひとつ目のケーブルネットワークの強靱化・大容量化について、具体的に紹介してください 「当社が展開している10G―EPONシステムは、米国CableLabsの『DPoE』、日本ケーブルラボのEPON相互接続運用仕様『SPEC―027』に準拠。IPv4/v6 Dual Stackに対応し、IP放送向けIPマルチキャスト機能を実装しています。今回新たに開発した、OLT冗長用光スイッチ『N―SPN』を組み合わせることにより10G―EPON OLT『FSU7101』の回線カードやPON区間の冗長化を実現します。万が一の故障時、自動または手動(遠隔操作)で瞬時に予備系に切り替える外付け製品です。システムを安定的に、ダウンタイムを極力短くする装置です。故障の際、すぐにセンターに駆けつけて交換できればいいのですが、FTTHの場合、いろいろなところにサブセンターがあって、局の事務所からサブセンターまで1時間かけないと行けないといったケースもあります。本光スイッチは、後付けすることができますので、辺地とか遠方に関して自動的に切り替えられるエリアに導入頂くご提案をしています。一方、加入者端末も、無線対応と標準型の新型ONUを新たに製品メニューに加え、事業者様の様々なサービスに対応していきます。リモートワークや在宅勤務で外出を控えていたことや、家庭内でOTTの番組を見るケースが増えてトラヒックが増えたので、端末自体も10G対応でIP放送も視野に入れた製品が必要となります」 ――2つ目の4K/ACAS化について製品ソリューションをお聞かせください 「4K/ACAS化対応装置としては、当社の『FLEXCITERシリーズ』の高度ケーブル自主放送システムになります。ユニット1台でIP受信、多重・SI生成、QAM変調(最大4波出力)の機能を搭載。IP入力冗長により、回線障害時も無瞬断切替が可能です。プラットフォーム番組配信事業者がC―CASサービスの終了する2030年まで7年ありますが、加入者宅内のC―CAS方式のSTBをすべてACAS方式のSTBに置き換えなければなりません。全端末を置き換えるには非常に時間がかかります。そのためには、一刻も早くACAS信号を送出する必要があり、早期に高度ケーブル自主放送システムの導入、サービス開始をご提案しています。私どもの高度ケーブル自主放送システムは非常にコンパクトで、HD番組最大32番組もしくは4K番組最大8番組を伝送できます。1ユニット当たりの番組数として業界最大級と自負しています。 ACASへのマイグレーションを進めるにあたって、平行運用期間が必要になりますが、省スペース化によりスペースファクターの改善ができます。さらに予備機実装によるN+1バックアップ(瞬時切替)に対応します。ネットワークの強靱化でお話ししましたが、サービスのダウンタイムを短縮し、可用性を向上させることができます」 ――3つ目のオールIP化への取り組みをお話しください 「現在、IP放送の対応のヘッドエンド装置を開発中ですが、当社製品の特長は次の4点です。①多ch放送の自主放送だけなく、地デジ、BS/高度BSといった基幹放送も含めてすべてのCATV放送に対応したフルラインナップIP放送システムであること、②JLabs(日本ケーブルラボ)/IP放送技術ワーキンググループ(WG)で審議中の運用仕様に準拠(ACASベース)予定、③高精度な伝送レート制御、IPv6マルチキャスト出力④自動バックアップ機能による高可用性システムの構築を実現します。また、IP化の取組に関連して、CATV事業者間や、センター―サブセンター間の放送信号の伝送を、IPで伝送する、RF―IP伝送システムを昨年開発しました。こちらはMSO様や共用ヘッドエンドのような大規模システムにおいて、様々な映像サービスを共有化したり、受信点の冗長化や降雨減衰の軽減を図るため、RF信号をIP信号に変換し、伝送するシステムとなっています。昨今のデジタル放送技術の高度化により、256QAMなど多値化されたRF信号を長距離伝送することが難しくなってきており、IP化することで信号品質を劣化することなく長距離伝送できるメリットがあります」 ――日本ケーブルラボの策定する仕様についてお聞かせください 「昨年、日本ケーブルラボのIP放送技術WGが立ち上がり、多チャンネル放送についてはACASを活用したIP放送方式の運用仕様の検討を開始しました。当社からもWGに参加し、IPで放送を送出するための方式をご提案しています。今後、実際の機器を使った実証試験をするのが今年の取り組みとなります。来年には運用仕様が決まって、それに基づいた製品を開発する計画です。その実証試験は実際のケーブルテレビ事業者様でフィールドトライアルを行うことで、策定する運用仕様の妥当性や課題の洗い出しを行うことになると思います。引き続きWGメンバーとして仕様策定までお力添えいたします」 ――3つの注力ソリューションとは別に、Hybridcastによるライブ配信ソリューションのも進めていると聞きました 「昨年より、Hybridcast技術を応用したライブ配信ユニットの販売を開始しております。河川監視カメラや交通監視カメラなどの映像をHybridcast対応テレビへ配信するシステムです。昨今、豪雨災害や台風災害で様々な地域で災害が起きており、加入者も防災について非常に関心が高くなっています。現在、多くの事業者様にてコミュニティチャンネルにて複数個所の河川や交差点の映像を放送されていますが、当社は加入者の方が自分の見たい場所のライブ映像をテレビでオンデマンド視聴できるようにすることが防災やタイムリーな情報入手に役立つのではないかと考え、Hybirdcastを活用したライブ映像を配信するシステムを開発しました。日本ケーブルテレビ連盟と国交省は、国交省が所管する河川や道路のカメラ映像を提供する協定を締結し、それらの情報も活用することができます。また、現状のシステムは、河川/交通監視を主目的としていますが、現在、音声対応を進めておりますので、防災目的以外にも、例えば地域のお祭りや運動会などの地域のライブイベント、観光情報やお店紹介などのコミュティチャンネルのアーカイブを活用し、地域の様々な情報の提供をオンデマンドで提供できるようになり、地域の活性化、DX化につなげることができると考えております」
この記事を書いた記者
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