対談プレビュー 高市早苗総務大臣に聞く(2016年2月)
高市早苗総務大臣は2016年2月4日に大臣室で、電波タイムス社の取材に応じて、本社麻生浩一郎社長と対談した。高市総務大臣は、「4K・8Kロードマップ」の意義や第5世代移動通信システム(5G)の動向について話した。 麻生 高市総務大臣は、1月4日の定例記者会見で、今年1年間の抱負として、第1に『地方からの日本再生』に引き続き取り組んでいくこと、第2に『世界最先端のICT大国』を目指すこと、第3に『一億総活躍社会』の実現―を掲げられました。これらの実現に向けて、情報通信分野ではそれぞれどのように取り組んでいかれるのでしょうか。高市 ICTは、国民生活に必要不可欠な基盤であるとともに、未来への投資を加速させ、成長と雇用を生み出す鍵となる重要な分野です。ICTの活用は、安倍政権の政策テーマである「地方創生」や「一億総活躍社会」の実現にも大きな役割を果たすものです。 具体的な取組として、1点目の「地方からの日本再生」に向けては、地域の産業や魅力を磨き上げ、地域活性化に向けた好循環の芽を育てるため、イノベーションを創出するきっかけとなるICTの利活用を農林水産業、医療、教育、雇用、行政などの様々な分野において一層推進してまいります。また、ICTを活用した街づくりの実証成果の横展開や、無料公衆無線LANをはじめ、ブロードバンドや携帯電話など、地域のICTインフラ環境の整備にも取り組んでまいります。 さらに、今年1月からマイナンバーカードの交付が始まりましたが、このカードに搭載されている民間でも利用可能な公的個人認証機能について、その利活用シーンの拡大を図り、国民の皆様に実感いただける便利な社会の実現に取り組んでいきたいと思います。 次に2点目の「世界最先端のICT大国」に向けては、まず、あらゆるモノがネットワークにつながり、そこで生まれる多種多様なデータが新たな付加価値を創出する「IoT/ビッグデータ時代」の到来を見据え、現在、情報通信審議会において、これを支える新たな情報通信政策の在り方について検討を進めています。昨年12月に頂いた中間答申を踏まえ、実践的なサイバー防御演習の実施拡大やIoTテストベッドによるサービス開発支援などの取組を推進し、我が国の更なる成長につなげてまいりたいと思います。 4年後に迫った2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を見据え、4K・8Kの推進や「言葉の壁」をなくす多言語音声翻訳システムの高度化、交通系ICカードやデジタルサイネージなどと共通クラウド基盤を活用した訪日外国人等のスムーズな移動、観光、買い物等を可能とする環境を構築するなど、「社会全体のICT化」を力強く進めてまいります。 また、海外の投資需要を取り込み、我が国の更なる成長につなげるため、昨年11月に設立された株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)とも連携し、我が国ICTの特徴・強みを活かした「質の高いインフラ」の海外展開を推進し、特に途上国にニーズがある防災や郵便などの分野におけるICTの更なるトップセールスに取り組んでまいります。また、地域経済の活性化にも資する放送コンテンツの国際展開の促進やテレビ国際放送の充実強化を通じた我が国の対外情報発信力の強化にも取り組んでまいります。 3点目の「一億総活躍社会の実現」については、子育て中の方、シニア世代の方、障害のある方も含めて多様で柔軟な働き方を可能とする「テレワーク」の普及に引き続き取り組みます。さらに、都市部の企業などの仕事を地方に居住してもできる「ふるさとテレワーク」を推進してまいります。以上、代表的な取組をご紹介しましたが、ICTの恩恵を我が国の隅々にまで届け、我が国の更なる発展を実現するため、あらゆる政策資源を動員して取り組んでまいります。 さらに、今年4月29日、30日に「G7香川・高松情報通信大臣会合」を開催いたします。会合においては、IoTやサイバーセキュリティ対策などについて、各国の大臣と議論を深めるとともに、議長国としてリーダーシップを発揮し、5月の首脳会合における議論にも貢献したいと考えております。麻生 衛星基幹放送による超高精細度テレビジョン放送の実用放送に関する今後のスケジュール(昨年12月25日報道発表)についておたずねします。総務省では、衛星基幹放送(BS放送、110度CS放送)による超高精細度テレビジョン放送(4K・8K放送)の実用放送に関するスケジュールを公表しました。総務省のBS等4K・8K放送の2018年の放送開始に向けた、制度整備等の取組について、4K・8Kロードマップのポイントとともにお聞かせください。高市 昨年7月に「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合」の第二次中間報告を公表し、ロードマップを改訂しました。ロードマップでは、2018年に、BS放送により4K・8K実用放送を開始することなどを目標としています。 昨年12月には、「衛星基幹放送による超高精細度テレビジョン放送の実用放送に関するスケジュール」を公表し、2018年の4K・8K実用放送に向けて、総務省がいつ頃に何を行い、また、関係者の皆様がいつまでに何をしなければならないかを明確にしました。このスケジュールでは、総務省において、今年初頭からNHKや民間事業者による4K・8K実用放送の具体的なチャンネル数などを決める制度整備を行い、秋には実用放送に参入を希望する民間事業者を公募して、来年初頭には実用放送を実施する放送事業者の認定を行うこととしております。 また、現在市販されている4Kテレビでは、2018年開始のBS放送による実用放送は視聴できません。4K・8K放送の円滑な導入に向けて、視聴可能な受信機を明確にするなど視聴者への周知啓発について、関係団体の皆様と協力して進めていきます。 引き続き、4K・8Kの推進に向けて、関係者の皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。麻生 「スマートIoT推進フォーラム」が設置され、その第1回の会合が昨年12月4日に開催されました。「スマートIoT推進フォーラム」におきましては、自動走行やスマートシティなど、今後IoTの利用が期待される分野を中心に、「技術開発や標準化戦略の検討」「NICT(情報通信研究機構)の様々なテストベッド等を活用した具体的なプロジェクトの推進」を予定していると聞いております。このフォーラムへの期待感等をお聞かせください。高市 「スマートIoT推進フォーラム」は、昨年10月に民主導で設立された「IoT推進コンソーシアム」の下で、先進的なスマートIoTの実現に向けた技術開発や社会実証に取り組むものです。 昨年12月の第1回会合には、私も出席し、フォーラムに対する期待を述べさせていただきました。既に、産学官から1100者以上の会員登録があるとのことで、IoTに関する期待の高さを改めて実感しています。 本フォーラムは、ICTを専門とする唯一の公的研究機関である国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が事務局を務めています。平成27年度補正予算により、最適なIoTシステムの開発・検証を行うことが出来る環境(IoTテストベッド)をNICTに整備し、様々な企業、大学などによるスマートシティ、農林水産業、医療といった多様な分野のIoTシステムの開発・実証を支援することとしたところです。NICTのこのようなテストベッドも活用した、フォーラムにおける具体的なプロジェクトの推進に大変期待しています。 また、電気自動車、支援ロボットや様々な機器がネットワークにつながることで、モノを売って終わりではなく、ソフトウェアの更新により次々と高度化を図るような本格的なIoT時代を迎えています。「インダストリー4.0」をはじめとする様々な産業分野での価値形成の変革に対応するためにも、遅延のないセキュアなネットワーク共通基盤を世界に先駆けて実現することが必要です。 このため、2016年度政府予算案には、「自律型モビリティシステムの開発・実証」や「IoT共通基盤技術の確立・実証」など先進的な技術開発・実証を盛り込んでおり、「スマートIoT推進フォーラム」における活動とも連携して推進してまいります。スマートIoT推進に向けた産学官の活動がIoTによる新たな価値創造につながることを期待しています。麻生 「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」(昨年7月)がとりまとめた「2020年に向けた社会全体のICT化アクションプラン(第一版)」において、世界最高水準のICTインフラを実現するものとして「第5世代移動通信システム(5G)」が位置づけられています。また、国際電気通信連合(ITU)2015年世界無線通信会議(WRC―15)の結果(昨年12月11日)の報道資料では「2020年頃の5G実現に向けて、標準化活動等を進める」―とされていますが、わが国の第5世代移動通信システム実現に向けて、総務省はどのように取り組むのでしょうか。高市 国民の生活インフラとしてスマートフォンなどの携帯電話が広く根付いたことにより、モバイルトラヒックは、1年で1.5倍に増加するなど今後も増加を続けることが見込まれています。また、あらゆるものがネットワークにつながるIoT時代にふさわしい次世代の携帯電話システムが求められています。 「第5世代移動通信システム(5G)」は、「超高速」だけではなく、「多数同時接続」や「低遅延」といった要件を備え、スマートフォンの高度化だけでなく、IoTに不可欠なワイヤレス基盤として期待されており、世界各国で実現に向けた取組が行われております。 5G実現に向けて我が国では、 ①第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)を通じた産学官の連携 強化と国際連携の推進 ②5G関連技術の研究開発の推進 ③ITU、3GPP等における標準化活動を3つの柱として、積極的に取り組んでいます。 2017年度からは、これまで取り組んできた研究開発の成果を適用し、ワイヤレス、ネットワーク、アプリを連携させた総合的な実証試験を、産学官の連携により、東京だけでなく各地域においても実施する予定です。 また、私自身も、昨年5月に欧州委員会のエッティンガー委員との間で、「日EU間における次世代通信ネットワーク(5G)を巡る戦略的協力に関する共同宣言」に署名するなど、欧州との間で5Gの協力強化に関する取組を進めてきました。 5G実現のターゲットイヤーである2020年は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される年でもあります。この機会に、5Gの利便性を体験できるショーケースを世界中の人々にお示しできるよう、5Gの実現を確実なものとすることが必要です。 今年1月から開催している「電波政策2020懇談会」においても、ワイヤレスサービスの一環として、5G実現に向けたより具体的な推進方策などを議論していただく予定です。総務省としては、この議論も踏まえ、国に期待される役割を果たし、一歩一歩着実に、5G実現に向けた取組を更に進めてまいりたいと考えています。麻生 携帯電話の料金・サービスに関して、昨年12月に策定した取組方針に沿って、スマートフォン料金負担の軽減、端末販売の適正化、MVNOのサービスの多様化を推進していくとされています。この件でさらにブレイクダウンしてお話しいただけますでしょうか。高市 災害対応、シニア世代や子供の見守りということを考えると、携帯電話は、今や「国民の生活インフラ」だと思います。ただ、フィーチャーフォンもスマートフォンも持っていない方もまだ2割以上おられますので、更なる普及を促進していく必要があります。特にIoT時代に重要な役割を果たすのがスマートフォンですが、日本のスマートフォンの保有率は50%を超えたものの、他の先進国に比べると低い水準にとどまっており、料金の高さ、分かりにくさが敷居を高くしているのだろうと考えています。 このため、携帯料金の家計負担の軽減を図るべきという安倍総理のご指示を受け、昨年の秋に総務省に「携帯料金に関するタスクフォース」を設けて、約3か月間で集中的に具体的方策の検討を行いました。タスクフォースの取りまとめを踏まえて、総務省では、昨年12月18日に「スマートフォンの料金負担の軽減及び端末販売の適正化に関する取組方針」を策定し、その日のうちに、私から携帯電話事業者各社に対して、利用者の多様なニーズに対応した料金プランの導入や端末販売の適正化について要請を行いました。 多様なニーズに対応した料金プランの導入については、既に一部の事業者から、要請に沿って、ライトユーザの負担を軽減する料金プランの導入が発表されたところであり、引き続き、事業者の取組状況をしっかりフォローアップしてまいります。 端末販売の適正化については、1月末に事業者から当面の取組状況の報告を受けています。2月以降、外部からの情報提供窓口の設置や店頭での実態調査の実施により改善状況を把握し、さらに、端末購入補助の適正化に関する基本的な考え方や電気通信事業法第29条の業務改善命令の規定の解釈・運用方針を示すガイドラインをパブリックコメントを経て年度内に策定し、実効性を確保することとしています。 また、低廉なサービスを提供しているMVNOの利用が拡大すれば、料金値下げ競争が進むことが期待されることから、MVNOのサービスの多様化を可能とする機能の開放に向けた事業者間の協議を促進し、MVNOの普及拡大を図ってまいります。 これらの取組により、利用者にとって分かりやすく納得感のある料金・サービスを実現してまいります。
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